特集/全予測「働き方、生き方、稼ぎ方」
PART1.仕事篇 - 16
売り上げの大半を占める顧客から
突然取引停止の通告を受けたら
周囲との共生を心がけていれば、
ピンチは逆にチャンスとなる
売り上げの7割占める
仕入先を失う
2005年11月、事業の柱であるPLD(半導体の一種)の仕入先、米国A社から、代理店契約の打ち切りを言い渡されました。今でもその理由はわかりませんが、同社とは20年以上にわたってパートナー企業としてともに市場を開拓してきただけでなく、PLD事業は当時売り上げの7割を占めていただけに、会社存続にかかわる危機です。このピンチをどう切り抜けたのか、振り返ってみたいと思います。
こういった事態を乗り切るのに大事なのは、常日頃から「物心両面」で充実した経営を行うということです。
まず心の面についてですが、やはりこれは、社員みんなと心をひとつにしておくことが大切です。そうでないと、ピンチが訪れたときに、社員から見限られます。まずは、会社の理念を共有しておくことがなによりも大事です。
当社の経営理念は、「社員、お客様、仕入先、株主といった関係者との共生」です。契約打ち切りの話が飛び込んできたときも、社員を減らすことはせず、むしろ全社員の前で、「このようなピンチは滅多に起きない。乗り切る頃には、すばらしい経験になる。成長のチャンスに辞めるのはもったいない」と話しました。半導体業界は競合他社からのヘッドハンティングが多く、高い技術力を持つ当社社員には好条件の誘いがあったようですが、ほとんどがそれに応じることはありませんでした。社員一人ひとりが理念に誇りを持って仕事をしてくれているからでしょう。
もちろん、理念を具体化する努力も忘れてはなりません。当社ではそれを顧客への技術支援という形で実践しています。
昨今、半導体メーカーは特定の分野にフォーカスして専業化しており、製品もますます高機能化した結果、電機メーカーなどの顧客企業は、製品をうまく使いこなすことが困難になっています。そこで我々は顧客に対して、システムに基づいた提案や技術の提供などを無償で行っていたのです。共生という観点から、顧客への開発支援を惜しまない姿勢が貫けたからこそ実現できたのだといえます。
こういった面での評価もあったからか、A社からの契約打ち切りを聞いて、離れていく顧客はありませんでした。さらに、その後PLDの世界シェア一位である米国B社との代理店契約や、当社の事業領域を補完できる関連事業会社から事業譲渡の話が舞い込むなど、会社存続の危機だったはずが、事業の再構築や拡大につながり、ピンチがチャンスになりました。
物心のうち、心だけではなく「物」もピンチを乗り切る要因になります。具体的には、会社の財務基盤を安定させておくことです。そのため当社では、かねてから自己資本比率を高めてきました。その割合は70%超と、業界トップの水準です。厚い自己資本があったおかげで、仮に1、2年売り上げがなくても社員に給料やボーナスを支払えると明言できましたし、事業買収案件も手元資金でスムーズに話がまとまりました。思わぬトラブルを解決するには、理念だけではなく財務的な蓄えも必要です。
このように、未曾有のピンチを通じて、新たな事業領域をも開拓し、さらなる成長の機会を得られた当社ですが、もしも、「目先の数字がすべて」という経営をしていたら、こううまくはいかなかったと思います。京セラの創業者で盛和塾の稲盛和夫塾長は、社長の仕事を「従業員の物心両面の幸せを図ること」とおっしゃっています。常日頃から物心両面の充実を図っていくことが、このように困難な事態を乗り切る力になるのです。
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