特集/全予測「働き方、生き方、稼ぎ方」

PART1.仕事篇 - 9

残業禁止になったが、仕事が増えた。どうやって片付けるべきか

 
 
部下にすべてを教え込み、
任せて、責任は自分でとる
 
 

キヤノン社長
内田恒二
Tsuneji Uchida
1941年、大分県生まれ。65年京都大学工学部精密工学科卒業、同年キヤノンカメラ(現キヤノン入社)。2001年常務、03年専務、06年副社長を経て、同年5月より現職。持論は「本当にできる人は時間内にピシッとやって、帰っている」。


勝見 明=構成
川本聖哉=撮影

 
 

問題の「見える化」と
コミュニケーション

 キヤノンでは昨年1月から残業を事前申請制に切り替えました。上司が内容を確認し、必要性を判断する仕組みを導入することで、残業を当たり前のように行うマンネリ意識を払拭するためです。

 なぜ、残業が日常化するのでしょうか。多くの場合、問題を解決してもすぐ別の問題が起きてモグラたたき的に仕事に追われるからでしょう。キヤノンでは開発部門が多く、横の連携がとれないと仕事はスムーズに進みません。カメラの開発にしてもメカ、画像、電気、レンズなどの各担当に横串を通してプロジェクトを組み、さらに生産技術、製造などの部門とも連携の輪が広がっていきます。

 誰かに仕事の負荷が偏り、解決すべき課題が滞ると、関連部門の仕事も滞る。それが連鎖的に起きると、みんながモグラたたきに追われ、火消しに走り回らなければならなくなってしまうのです。

 負荷が偏るのはチームで仕事を分担し、誰がいつまでに何をするかというスケジューリングがうまくできていないからです。これを改めるにはどうすればいいのか。必要なのは問題の「見える化」とコミュニケーションです。

 コミュニケーションは自分の意思を相手に伝え、行動を起こさせて初めて成り立ちます。キヤノンではこれを徹底して実践するため、CKI(キヤノン・ナレッジ・インテンシブ・スタッフ・イノベーション)という活動を続けてきました。

 職場が何か問題点を抱えていたら、仕事に関わる人たちが横断的に集まり、ワイワイガヤガヤと自由かつ双方向に意見をいい合える場をつくります。そして、問題点についてできるだけ見える化して議論します。その際、見える化は絵などのイメージを使うと直感的に課題を把握でき、記憶に残りやすく効果的です。

 例えば、職場の問題点を火事にたとえて絵を描いてみる。管理職とスタッフとでは火事の原因や燃え方などまったく違った絵になって、そのギャップから問題点が浮かび上がったりします。

 仕事のスケジューリングについても、ワイガヤコミュニケーションの場でアウトプットのイメージを縦横に共有しながら、誰がいつ何をどのように行うか、偏りのない仕事の割り振りを考える。そして、進捗過程でも常に課題の見える化とコミュニケーションを図っていく。互いに状況を把握していれば、どこかで仕事の滞りが生じても支援し合い、自主的に調整できるようになります。

 われわれもCKI活動を通じて、職場の知的生産性を高めるための仕事の仕方が見えてきました。残業の事前申請制もこうした取り組みをあわせて行うことで効果があがります。

 一方、個人としてはどうすれば仕事を抱え込まずにすむのでしょうか。大切なのは人に教えて任せることです。私自身、仕事を抱え込むのは好きではありません。部下にすべてを教え込み、結果を見て、ここまでできれば十分だと思ったら任せ、責任は自分でとるやり方を続けてきました。そのほうが仕事は速まります。

 OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で一度で教えられるのは二人くらいでしょう。しかし、その二人がまた二人ずつ教えていけば、暗黙知的なものも含め、ネズミ算的に広がっていきます。いい意味での「知のネズミ講」ができれば、組織全体の力はぐんとアップしていきます。企業の強さは個人戦ではなく、一人ひとりが知恵と力を合わせる「合知合力」の団体戦で発揮されます。一人で仕事を抱え込んで残業をするのは有能な証拠でも何でもなく、逆に組織の力を弱めていると自覚すべきです。

 
 
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