ハーバード式
仕事の道具箱 [138]

気候変動はどうすれば「戦略的要素」となりうるのか

マイケル・ポーターの
「環境」戦略論(2)

 
 
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IT化やグローバル化がそうだったように、
気候変動はビジネス環境を劇的に変えるだろう。
ここで対症療法的な対策をとるか、
戦略的な対策をとるか。
企業は大きな岐路に立っている。
 
 
マイケル・E・ポーター = 文フォレスト・L・ラインハルト = 文ディプロマット = 翻訳
 
 

ジャストインタイムの
評価が変わる可能性

 企業のバリューチェーンの活動が気候に及ぼす影響には直接的なものもあれば、間接的なものもある。排出ガスは、その企業が直接指揮する活動によって生み出されることもあれば、その企業が発端となって、サプライヤー、販売チャネル、あるいは顧客の活動の中で生み出されることもあるからだ。企業は自分たちが生み出す排出ガスだけでなく、自社が原因となってビジネスパートナーが生み出す排出ガスについても理解しておかなくてはならない。どちらのタイプの排出ガスも重要な削減対象である。

 自社の活動が気候に及ぼす影響(内から外への影響)を変えることは、革命的な意味合いを持ちうる。たとえば、輸送集約型のジャストインタイム在庫管理システムに支えられた現在のサプライチェーンは、二酸化炭素の排出がもっとコスト的に高くつくようになれば最適なシステムではなくなるかもしれない。同様に、小口輸送を急増させているeコマースは、正真正銘の壁にぶつかるかもしれない。また、輸送距離が長くなるために排出量を増大させるオフショアリング(海外への業務移管・委託)は、場合によっては、排出量が少なくてすむ近隣地域のサプライヤーへのオンショアリング(国内での業務委託)に置き換えられるかもしれない。

 内から外への影響の分析で二酸化炭素エクスポージャー(リスクにさられている額)が高いという結果が出たとしても、それだけで気候がその企業にとって戦略的要素であると言うことはできない。自社の総合的な二酸化炭素エクスポージャーと、バリューチェーンの個々の活動が気候に及ぼす影響を把握すれば、企業幹部は、それに対処するための行動計画を作成することができる。

 ほとんど価値を付加しない排出集約型の活動は、廃止するか、さもなければより効率的な企業にアウトソーシングすればよい。価値創出にとって重要な活動は、パフォーマンスの向上によってエクスポージャーをライバル企業より低く抑えることができれば、戦略的な活動になるかもしれない。

 ウォルマートの場合、内から外への影響を分析することによって、気候変動に対するアプローチを支える理論を明確にした。ウォルマートの活動は物流集約型であり、同社はそれによる二酸化炭素の排出を削減するために積極的な取り組みを行っている。この取り組みは、一見、純粋に業務効率的観点からのアプローチに見える。同社はバリューチェーンでの二酸化炭素の排出がコストに及ぼすマイナス影響を緩和するために、エネルギーの使用量を減らしているのである。

 しかし、同社がその圧倒的な規模、広い活動範囲、技術に多額の投資を行う能力を活かし、なおかつバリューチェーンの活動を構成し直すことによって、小規模なライバルにはとうてい真似のできないかたちで排出量を削減できれば、ウォルマートの排出削減プログラムは、戦略的な性格を帯びるだろう。

 ウォルマートは、自社の二酸化炭素エクスポージャーを競合他社より大幅に削減するだけでなく、それを低く抑え続けることができるよう、思い切った戦略的行動をとっているように見受けられる。

規制によって変わる気候変動のリスク

 内から外への影響の分析とともに、外から内への影響(気候の変化と規制環境の変化が自社を取り巻くビジネス環境に及ぼす影響)の調査によっても、新しいチャンスと脅威は特定できる。

 気候変動は企業のビジネス環境に、大きく分けて二つの形で影響を及ぼす。気温や天候パターンが変わることによる影響と、排出コストを押し上げる規制による影響である。これらは原材料の入手先や入手しやすさ、需要の規模・成長率・性質、関連産業やサポート産業へのアクセス、および業界の競争に関連する規制やインセンティブに影響を及ぼす可能性がある。ビジネスリーダーは、競争の背景をなすこうした要素のそれぞれに対して、気候変動がどのような影響を及ぼすかを評価しなくてはならない。

 たとえば損害保険会社は、自身の二酸化炭素排出量は少ないかもしれないが、海面上昇によって危険にさらされている海岸地帯の不動産に対する保険や再保険を引き受けている場合には、二酸化炭素エクスポージャーが高いかもしれない。同様に、石油に関連した二酸化炭素の排出は、ほとんどが石油会社によるものではなく、その顧客によるものだ。排出制限が課せられたら、これらの企業の製品に対する需要は抑制されるだろう。

 もう一つの例として、ネスレのような食品会社に対する外からの多面的な影響を考えてみよう。気候変動は、同社が農産物を買い付けているさまざまな地域の相対的な生産性を変化させ、同社の原材料費に影響を及ぼすだろう。また、気候変動に対処するための政府規制は、小売店でアイスクリームを保冷するために使用するエネルギーのコストを上昇させ、それが需要の状況に影響を及ぼすだろう。こうした影響は、ほかにも考えられる。

 外から内への影響を競争相手が簡単には太刀打ちできないかたちで制御することができれば、企業はそうした影響に戦略的に対処することができる。ネスレは川上統合を控えて原材料の生産を外部委託しており、そのおかげで同社のサプライチェーンには柔軟性がある。この柔軟性は、各地の生産性が変化し、しかもネスレの競争相手は硬直的なサプライチェーン構造に縛られて原材料の入手先を簡単には変えられないという事態になった場合には、ネスレは貴重な戦略的優位を得ることができる。同様に、旱魃に強い品種や昆虫媒介病のワクチンや治療法は、(それを生み出した企業がその知的財産を守れる間は)ますます価値のあるものになるだろう。

IT、グローバル化に匹敵する影響

 時として、大きな新しい力がビジネスの世界を劇的に変えることがある。グローバリゼーションやIT革命は、過去20〜30年の間にこうした劇的な変化をもたらしてきたが、気候変動は、その複雑さと及ぼす影響の点で、この二つの力に匹敵するかもしれない。

 多くの企業が地球温暖化を依然として企業の社会的責任の問題とみなしているが、ビジネスリーダーは、ほかの戦略的脅威や戦略的機会に対する場合と同様、現実的な姿勢でそれに対処する必要があるのである。

 
 

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