職場の心理学 [186]
欧州進出で成功する会社、
失敗する会社
日本企業が業績を上げるにはどうすればよいのだろう。
経営陣に現地の人材を迎え入れ、
さらにそのチームをうまく機能させる3つのステップを紹介する。
典型的な大手日本企業の「グローバル経営」を考えてみよう。日本本社から見る世界の区分けはアジア・米州・欧州の三つが主流である。
アジアには積極的に投資を行い、米国は既存ビジネスの維持拡大に注力する戦略が多い。「成長」のアジアと「成熟」の米国。果たして欧州はそのどちらであるのか。答えはそのどちらでもなく「成長と成熟の融合」であろう。ここに日本企業から見て欧州事業経営の舵取りの難しさがある。
複合多岐な欧州をまとめているのは欧州連合、いわゆるEUである。このEU27カ国において、日本企業が成功を収めるにはもはや「日本型経営」では通用しない。その一方、「米国型経営」で業績を上げているケースも多くはない。
私は、欧州に進出している多くの企業を見てきた経験から、欧州において日本企業が成功できるか否かは経営陣である「トップチーム」の形成がうまくできているか、そしてそれがうまく機能しているかにかかっていると実感している。
経営の現地化に出遅れる
日本企業
2007年春、欧州委員会はEU27カ国の2007年GDP予測を2.9%(修正前は2.4%)に引き上げた。 米国が同2.3%、日本が同2.2%に留まっていることに比べると高水準となっている。
グローバルに見て、何が日米との違いになっているのであろうか。EUの成長をユーロ圏と非ユーロ圏で分けて見ると、非ユーロ圏の成長がEU成長の牽引役となっている。ポーランド・ルーマニア・ブルガリアの各国のGDPはすべて6%以上。拡大成長を遂げ、企業を支えるミドルクラスも豊富におり、日本企業にとって「拡大EU」をいかに取り込むかがグローバルな成功には不可欠である。
欧州の有力企業は、すでに欧州東方に広がる「東のフロンティア」を取り込むべく手を打っている。欧州有力企業である携帯電話大手のノキアはルーマニアに積極進出している。本社フィンランドに比べ、ルーマニアの人件費は20%以下であり、EU域内のコスト競争力のある拠点で生産し、EU域内および世界で販売している。
これはもはや欧州有力企業では基本的な戦略となっているが、欧州に進出している日本企業は、この地域への進出と、現地人材を積極的に活用し、そこを拠点とした生産、販売を行う「経営の現地化」は概して遅れていると言える。表面上はユーロ高に支えられ、欧州拠点の収支は改善しているが、欧州有力企業ほどのダイナミズムは感じられない。
在欧日本企業は、1970年代までは西欧(英・仏・独・べネルクス)へ日本からの輸出入が中心であったが、80年代から西欧への直接投資がさかんになり、90年代には労働力の安い南欧(イタリア・スペイン)、そして近年は東欧・ロシアへの進出が始まっている。
ある大手日本家電メーカーの場合、欧州全域での従業員がすでに1万人を超えている。その半面、在欧日本企業の「経営の現地化の遅れ」は欧米企業と比べ顕著である。
トップチームの
国籍構成3パターン
それは、経営陣の構成を見ればよくわかる。在欧日本企業の経営陣(「トップチーム」)を三つのパターンで分けてみると、図1〜3のようになる。
図1は「日本人のみ」、図2は「日本人多数と欧州人少数」、図3は「日本人1名と欧州人多数」の場合である。
図1は「現地化」の度合いが低く、適切な経営判断を行う現場感覚がトップチームにない。
図2は現地情報を判断する現場感覚はトップチームにあるものの、「日本人の意見=日本本社寄り」になり、トップチームの判断も往々にして無難な結論に落ち着くことが多く、現場スタッフとの認識のギャップがあるケースが目立つ。
図3はトップ以外の幹部はすべて欧州人である。一部の先進的な日本企業にて見受けられる。ここからさらに現地化が進むと、CEOが日本人でないこともありうる(欧州人でないこともあり)。
役員会議はすべて英語で行われ、徹底した議論を行い妥協を許さない。欧州各地を知り尽くした欧州人がトップチームの多くを占めることで、「汎欧州」として何がベストかという議論が可能になる。欧米企業に勝つ明確な汎欧州戦略の作成・実施には、在欧日本企業は少なくとも図2から図3の間のどこかへの「パラダイムシフト」が急務であるといえよう。
トップチームを機能させる
三つのステップ
仮に図3のように「有能なメンバーの揃ったトップチーム」(日本人1名、欧州人5名)が出来上がったとしても、これは必要条件にすぎない。グローバルに活躍する欧米の欧州企業と互角に戦ってゆくには、「いかに機能するか」という十分条件をクリアしなければならない。
現地企業では、“多国籍のメンバーから構成されるトップチームでのコミューニケーションが悪い”“意思決定は遅れ、メンバーによって異なるメッセージが社内に発信される”“全社的に戦略遂行のベクトルがあっていない”という壁にぶつかっている。
そこで小社では、「トップチーム力向上プロジェクト」というコンサルテーションを行っている。
トップチームは欧州全体をマネージするうえでは望ましい「経営人材のプール」になっているにもかかわらず、上記問題を抱えているケースが多い。このような場合の解決策としては、以下の三つが考えられる。
●経営陣協働による戦略構築ワークショップの開催
経営陣メンバーの意識の「ずれ」を是正するため、経営陣メンバーの経営の方向性を確認する場を定期的に設ける。コンサルタントによる「チーム・コーチング」を通じ、主体的な「真のチーム」であり続けるようにベクトルを合わせる場が必要となるからだ。
●経営陣自身によるバリューの再構築
ワークショップを通じ、経営陣の各自が既成概念にとらわれたり、各部門の利害代表者であることなく、常に変化するクライアントやマーケットのニーズに合った価値を提供する経営になっているかを確認し、必要であれば修正を行う。日本企業に多く見られる「以心伝心」によってではなく、経営陣全員で経営意識の共有化を図ることができる。
●経営陣自身によるチーム体制再構築(役割分担)
再構築された自社のバリューを経営に落とし込む際に、各経営陣が明確な役割分担を行い、経営で決定した戦略オペレーションへの徹底した「落とし込み」を図る。そしてまた課題が生じた際には、より適切な経営対応ができる。これにより「真のチーム」として柔軟かつダイナミックな経営が可能となる。
これら三つのステップを経て戦略が明確になり、それがトップチーム内で共有化され、意思決定のスピードが向上し、社員に対する一貫性のあるメッセージが発信できるようになる。トップチームとして機能し、トップチームメンバーの意識向上にも繋がるわけである。
社会組織心理学の第一人者であるハーバード大学教授リチャード・ハックマン氏は、「デキるチームには五つの基本条件がある」と述べている。
それは第一に「真のチームであること」、第二に「揺るがない方針を持つこと」、第三に「チーム力が高まる構造を持つこと」、第四に「チーム力が高まる制度づくり」、そして第五に「適時・適切なコーチング体制」があることである。
チームのなかでもことにトップチームにおいて、こうした基本条件が揃っているかどうかは大きな意味を持つことになる。それによって、組織風土も業績も大きく影響を受けるからである。
EUのような広域内連合は常に「同床異夢」のチャレンジがある。欧州人はそのことを理解したうえで、「汎欧州」としてのベネフィットを得るために、EU拡大やユーロ導入を欧州の施策として実施している。
古代より何度も国境が書き換えられてきた欧州では、リーダーは政治的決着を見据えて常に現実的にならざるをえず、日本や米国とも異なる統治スタイルが文化として存在している。
特に「米国型」との違いは「Yes or No」の論理だけでなく、日本と共通する例外を認める「寛容さ」を有している点であろう。ユーロは欧州最大の通貨であるが、欧州の大国である英国がこれに加入していないのは顕著な例である。
「柔らかなトップチーム経営」こそ
日本企業が目指す姿
日本企業の「グローバル経営」が叫ばれて久しい。その一方、日本企業の本社「トップチーム」はどれほど国際化しているだろうか。ソニーや日産のような例はまだ例外であり、この命題が日本トップ企業の真の課題になるにはまだ時間がかかりそうだ。しかし日本企業が欧州にて成功するには、「機能する多国籍からなるトップチーム」は「まだ」でなく「急務」の課題である。
もちろんグローバルレベルに近い日本企業も存在する。
ある大手タイヤメーカーは欧州にてバランスよく事業展開をしており、またポーランド・ハンガリーへの投資も怠らない。海外複数地の赴任経験のある日本人トップチームメンバーが欧州スタッフとの融合を進めている。
自動車機器や住環境機器システムのサンデンは欧州での生産が全体の60%と、日本より欧州にて知名度が高いぐらいであり、経験ある日本人トップチームメンバーが機能している。同社では今後「多国籍トップチーム」が機能してゆけるかがこれからのグローバル化がうまくいくかどうかに大きく影響するのであろう。
日本はあらゆる海外文化を「柔らかく」包んできた歴史がある。欧州では隣国同士での戦争の歴史もあり、EUはひとつと謳えども微妙な問題も多々存在する。米国と日本は2国間、つまり「バイラテラル」な関係であるが、欧州と日本は実は「マルチラテラル」である。そこに「トップチーム」が多国籍であるべき根拠があるように思える。
日本そのものが国際化が進むなか、在欧日本企業の「柔らかなトップチーム経営」が、欧州のみならず日本企業の真の国際化の鍵となる可能性を秘めている。












