ハーバード式 仕事の道具箱 [137]
二酸化炭素排出コストを「機会」に変えるための発想の転換
マイケル・ポーターの「環境」戦略論(1)
認識している企業は要注意だ。
気候変動は、企業の業務そのものに
多大な影響を及ぼすようになった。
二酸化炭素の排出コストが利益に与える影響を
軽減するという課題に戦略的に取り組めば、
競争ポジションを強化するチャンスにもなる。
慈善活動家よりも
戦略家のやり方で
気候変動は今や政治の世界では現実のものであり、企業の競争においても次第にその影響が大きくなっている。温室効果ガスの排出は、ますます厳しく調査され、規制され、価格をつけられるようになっていくだろう。
気候変動の影響がどれほど切迫しているのか、また、どれほど重大であるのかについて、個々のマネジャーの意見はわかれるところであろう。しかし、企業としては、今すぐ行動を起こす必要がある。
気候変動をビジネスの問題ではなく単に「企業の社会的責任(CSR)」の問題と今後もとらえ続ける企業は、きわめて重大な結果を招くおそれがある。もちろん、気候変動に対する企業の取り組みは、CSRに関わる利害関係者の期待や基準に左右されるだろう。しかし、今日においては、気候変動が企業の業務そのものに及ぼす影響がきわめて明白かつ確実なものになっているので、この問題には慈善活動家のアプローチではなく、戦略家のツールで対処するほうが適しているのである。
効率の問題から戦略の問題へ
気候変動に対して、出来合いのアプローチは存在しない。それぞれの企業のアプローチは、その会社の事業内容によって異なってくるし、その会社の総合的な戦略とかみ合うものでなければならない。そして、どの企業の場合も、気候変動に取り組むアプローチのなかには、自社のバリューチェーンにおける気候関連のコストおよびリスクを軽減する措置を組み込んでおく必要がある。
ビジネスリーダーは、今後、二酸化炭素排出を「コストのかかるもの」と認識していく必要がある。一部ではすでにコストがかかるようになっているし、まだそうなっていない地域でも近い将来にはそうなるからだ。また、企業は気候関連の環境ショックや経済ショックに対する自社の脆弱性を査定して、それを引き下げる努力をする必要がある。すべての企業に、業務効率の問題として、これらの基本的な対策を適切に実行することが求められているのだ。
たとえば、輸送部門に必要以上の人員を抱えている企業は業務効率が悪い。その会社のリーダーは資源を無駄づかいし、業績を押し下げる要因をつくり出している。それと同じ意味で、輸送業務で二酸化炭素を過度に排出している企業も、業務効率が悪いといえる。この会社は資源を無駄づかいし、この先間違いなく上昇するはずの無用なコストを発生させている。気候関連のコストを管理するにあたってベストプラクティスを実施することは、競争力を維持するために必要最低限の措置である。
二酸化炭素排出のコストを理解することに加えて、すべての企業が、エネルギーや水を入手できる地域の変化、インフラやサプライチェーンの信頼性、伝染病の流行等々の気候関連の影響に対する自社の脆弱性を査定する必要がある。企業のリーダーは、これらのリスクを体系的に評価したのち、どのリスクが業務構成の見直しによって引き下げられるか、どのリスクを保険契約やヘッジ契約によって他者に転嫁するか、どのリスクを引き受けるかを決定しなければならない。
すべての企業にとってとはいえないが、一部の企業にとっては、気候変動に対するアプローチは業務効率の問題を超えて戦略的な問題になる可能性がある。
一部の企業は、気候変動に取り組む過程で、気候変動が生み出す需要に応える製品(ハイブリッド車など)を開発したり、気候変動の問題により効果的に対処するために業界再編を主導したり、真の競争優位を生み出すために気候変動の影響を受ける分野でイノベーションを行ったりして競争ポジションを強化もしくは拡大するチャンスを見つけるだろう。
たとえば、アウトバウンド物流やアフターサービスといった活動では、気候変動に対する業務の観点からの対応策として、輸送や顧客訪問に使う車輌のエンジンをより効率のよいものに変える、渋滞に巻き込まれる確率を減らすためにスケジュールを組み直す、といった措置が含まれるかもしれない。それに対し、戦略的アプローチの場合は、その活動の中身を全面的に変更するという対応になるかもしれない。つまり、アウトバウンド物流においては、本やマニュアルにかえて電子バージョンのものを送付するとか、アフターサービスの面ではサービス技術者が実際に訪問するのではなく遠隔診断・修理プログラムを採用するといった対応である。
「外から内へ」の影響を
見逃すべからず
気候変動に対する企業の取り組みを決定し、戦略的機会を評価するためには、ビジネスリーダーは自社の活動が気候に及ぼす影響(内から外への影響)を理解するとともに、気候環境の変化(実際の気候の変化と規制環境の変化の両方)が自社を取り巻くビジネス環境にどのような影響を及ぼす可能性があるか(外から内への影響)を把握しなくてはならない。
内から外への影響を理解するためには、自社のバリューチェーンを仔細に調べる必要がある。
バリューチェーン活動??インバウンド物流、業務、アウトバウンド物流、宣伝、販売、アフターサービス??は、どれもみな二酸化炭素を排出する可能性がある。バリューチェーンの総排出量に対する利益の単純比率は、気候変動が及ぼしうる影響のきわめて有効な測定基準になることがある。
たとえば、新しい規制によって排出量一トン当たり仮に10ドルの価格がつけられたとしたら、それは利益を大きく落ち込ませることになるのか。そればかりでなく、利益をすっかり呑み込んでしまわないか。
「二酸化炭素エクスポージャー(リスクにさらされている額)」は、二酸化炭素排出コストが利益に及ぼす影響に連動して増大する。他のリスクと同様、二酸化炭素エクスポージャーがもたらすのは難題だけではない。そこにはチャンスも隠れている。たとえば林業関係の企業は植林によって大気中の二酸化炭素を減らすことで、木を切り倒して紙や合板をつくることに匹敵する利益が得られるかもしれない。(次号に続く)
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