ハーバード式仕事の道具箱 [134]
「お客様に目を向ける」という基本動作が意外に難しいのはなぜか
「顧客重視」の掛け声を
実践に変える五段階
顧客の期待に応えようと躍起になっている。
にもかかわらず、空回りしているところが
少なくない。
組織全体が顧客のほうを向いて行動するために、
最低限必要なこととは。
多くの企業幹部やマネジャーが、顧客をあらゆる行動の中心に据えるよう部下に説いている。だが、彼らの言葉に込められた強い情熱や確信にもかかわらず、彼らの組織の中では、真の顧客重視(カスタマーフォーカス)は実践ではなく理論に留まっている。
「企業は内向きになりがちで、ともすると顧客が経験していることではなく自分たち自身の活動に注目してしまう」と、コロンビア大学の経営学准教授で、『市場破壊戦略??競争ルールを激変させる40の戦術』の共著者、リタ・ギュンター・マグレイスは言う。「当人たちは顧客に目を向けているつもりなのだが、本当はそうしていない」。
その事例として、マグレイスはある工業資材メーカーの体験を挙げる。この会社のマネジャーたちは、同社が品質をとても重視しているがゆえに、わが社はきわめて顧客中心の企業だと思っていた。ところが、彼らの「高い品質」の定義はきわめて狭かったので、ある製品を顧客が実際にどのように使用しているかが見落とされていた。この会社は、この製品を50ポンド缶で出荷していたが、顧客は通常、製造工程一回につき30ポンドしか必要としていなかった。この製品は空気に触れるとダメになるため、顧客は往々にして残りを捨てなければならなかった。マネジャーたちがもっと小さい缶で出荷することで顧客満足度を高め、売り上げを伸ばすことができたのは、自分たちの思い込みから一歩後ろに退いて、顧客が作業する様子を現場でしばらく観察してからのことだった。
では、自分の組織で顧客重視を現実にするために、リーダーは何をすればよいのだろう。まずは次の5つのことから始めてはいかがだろうか。
(1)心からのコミットメントを示す
リーダーは顧客を見つめ続けることに本気でコミットしていると一般社員が感じるならば、彼らがその実践に向けて努力する可能性は高くなる。
組織がマネジャーのコミットメントを促し、それを目に見えるようにする一つの方法は、経営幹部チームのすべてのメンバーが、直属の部下に顧客と頻繁に接触するよう命じることだ。マグレイスは、大手金融サービス会社のクレジットカード部門のトップが、直属の部下に、この部門の月次会議で顧客から最近学んだことを少なくとも一つ発表するよう要求した例を挙げる。「会議を何度か続けるうちに、部下は彼がどれほど真剣かを理解し、それは会社の他の部門にも徐々に伝わっていった」と、マグレイスは語る。この幹部は、十分な顧客情報を提供することを怠っていたマネジャーを解雇することまでしたという。
もう一つの方法は一部の消費財企業が行っているもので、上級マネジャーが少なくとも月に一度はスーパーの店頭を訪れて、顧客が自社製品にどのような反応を示しているかをまる1日観察することだと、マグレイスは言う。
もちろん、顧客重視に対するコミットメントを示すということは、上級マネジャーが毎年一定の日数を現場で過ごさねばならないということではない。コミットメントは、組織の優先課題を誰一人疑わなくなるよう、徹底的にメッセージを伝えるという形でも示すことができる。
(2)何を失うことになるのかを社員に理解させる
社員を参加させるためには、顧客重視の姿勢を怠ったら何を失うことになるのかを理解させることが肝要だ。自分のパフォーマンスが顧客と会社に、どのような影響をもたらすのかを、すべての社員が理解する必要がある。
「社員は自分の行動とより長期的な結果との関連を理解する必要がある」こう語るのは、ハーバード大学経営大学院ベーカー基金記念講座教授で、『バリュー・プロフィット・チェーン??顧客・従業員満足を「利益」と連鎖させる』の共著者、W・アール・サッサー・Jrである。
この関連を明確にするために、社員の行動を引き出せるような説明の仕方をしよう。一例を挙げると、ある自動車販売会社の社長は、顧客一人の平均生涯価値を33万2000ドルと算定して、社員に、顧客に対応するときは必ずその数字を思い浮かべるよう要求した。なぜか。それによって社員は、一見重要ではなさそうな行為でも、それを卓越した形で遂行しなければどれだけの額を失う恐れがあるかを理解できるからだ。「顧客がオイル交換にきたとき最高のサービスを提供しなかったら、それは33万2000ドルの売り上げを危うくするということだと、社員は理解した」と、サッサーは語る。
(3)顧客の問題を解決する権限を社員に与える
問題に気づいたらそれに対処する真の権限が自分にはあると感じていて、しかも行動するために必要なツールを与えられているならば、社員は顧客重視を自分の通常業務の分かちがたい一部とする可能性が高い。そのような社員は満足度が高く生産性も高い貴重な人材になる。
サッサーらのいう「サービス・プロフィット・チェーン」、つまり社員の満足を会社の収益性と成長に結びつける連鎖とは、これを指すのである。社員は顧客のために問題を解決する権限を持っているとき最も充実感を感じるということが、サッサーらの調査で明らかになっている。
(4)顧客重視の行動に褒賞を与える
マネジャーは、会社のイントラネットから社内報や対話型集会まで、あらゆる手段を使って社員の顧客重視の行動を広く知らしめる必要がある。また、ボーナスその他のインセンティブを顧客満足度の測定値に直接連動させることも必要だ。
全米に300近い支店を持つセントルイスのオンライン証券会社、スコットトレードでは、すべての社員に四半期ボーナスの受給資格があるが、その20%は、顧客に対するサービスの提供という面での評価に基づいている。たとえば、バックオフィス業務を担当している社員については、上司が彼らの社内顧客、つまり各支店長に問い合わせて、彼らがその社員のサービスにどの程度満足しているかを調べている。こうした努力のおかげで、スコットトレードは消費者市場調査会社、J・D・パワー・アンド・アソシエーツから、過去7年で六回、投資家満足度の最も高いオンライン証券会社に選ばれた。
顧客重視の行動に対して、上司が直ちに褒賞を与えることも大切である。
(5)オープンなコミュニケーションチャネルを築く
顧客のニーズや問題に気づかなければ、マネジャーはそれに対処するための変革を行えないのだから、現場の社員には、顧客の知見をキャッチし、伝えるための利用しやすいプロセスを与えなければならない。そのようなプロセスを設けることは、経営幹部が顧客からも顧客と直に接している社員からも隔絶されやすい大企業では、とくに重要だ。
顧客情報やベストプラクティスを同僚同士が共有できるようにするプロセスを築くことも忘れてはならない。こうした共有は組織のどのレベルでも可能である。コロンビア大学のマグレイスによれば、ディズニーワールドのホテル清掃員は、ゲストに喜ばれた行為を共有するために、毎週ミーティングを開いている。
顧客重視を現実にするためには、いくつもの分野での協調行動が必要だ。顧客重視が現実になったら、顧客の満足度とロイヤルティが向上するだけでなく、社員の満足度とロイヤルティも向上する公算が高いのである。
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