ビジネススクール流知的武装講座 [181]
営業効率を上げる
「市場プロセス・マネジメント」
筆者は、市場のプロセスをマネジメントする方法論を紹介する。
計画制御の
マーケティング・マネジメント
前回は、「米国流『マーケティング・マネジメント』の限界」と題して、日米の流通市場の違いが、互いに異なった営業のマネジメント・スタイルを生み出している可能性を明らかにした。今回は、その議論を受けて、二つのマネジメント・スタイルの可能性を明らかにする。
第一のマネジメントは、マーケティング諸活動を統整するための計画および工程表の作成である。これは、マーケティング・マネジメントそのものだ。加えてもう一つ、市場のプロセスをマネジメントするスタイルがある。消費者ないしは取引相手との「相互行為の場のマネジメント」である。まず、両者の違いを図1にまとめておこう。
言われるところのマーケティング・マネジメントは、マーケティング諸活動を統一調整すべく計画を立て、それらが実行された後、計画と実行結果とのギャップをチェックし、必要であればその計画を改定し新たな計画を立てるという形のマネジメントである。つまり、PDC(プラン・ドゥ・チェック)のサイクルで制御するやり方(計画制御)だ。

- 2つのマネジメント・スタイル
マーケターの仕事は、マーケティング諸活動を統整する計画・工程表を作ること、そしてしばらく時間を置いて、その計画と工程がどれだけうまくいったかをチェックして、計画(ないしは工程表)を改定するかどうかを決めることだ。断続的な判断になる。一方、顧客(消費者や取引相手)は、マーケターから見れば、働きかけ、認知なり理解なり態度なりを変える対象でしかない。
このマネジメント・スタイルが通用するのは、比較的安定した環境で、計画や工程にあまり狂いがない、あったとしても微調整で済むような環境だ。計画を改定するのが常態だとか、当初の予想を遥かに超えるような計画/実績のギャップが生まれるとか、あるいは計画期間中に予想外の大きい変化が生じているとなると、計画制御スタイルも考え直さないといけない。
相手が変わり、自分も変わる
「柔らかな制御」
他方、市場プロセス・マネジメントは、市場において、マーケティング諸活動が相手に対して作用する、そして相手から逆に反作用を受ける、そうした「相互行為の場」をマネジメントの対象とする。
まず、顧客(消費者や取引相手)と「相互行為を行う場」を設定する。そしてその場で顧客といろいろな相互行為が行われる。肝心なことは、相手だけが変わるのではなく、自分も柔軟に変わることで、お互いにとって共生的な価値づくりを目指すことだ。
共生的な価値の創造とは、メーカーから顧客に価値が水道管を通って配達されるプロセスのイメージではなく、「互いに対話を重ねながら両方にとって意味のある価値を創造するプロセス」である。
先の計画制御とは対照的に、状況の予測が立たない不確定な場合に、このマネジメント・スタイルが採用される。問題は、「自分が変わり相手が変わる」という不確定なプロセスに、マネジメントという考え方が応用できるか。「相手あっての話」「どう出てくるかわからない相手に、予測して意味があるのか」「相手の出方を見て、その場その場で考えていくしかないのでは……」となりがちだ。
しかし、それだと、場当たりマネジメントになってしまう。場当たりマネジメントとは、「とりあえずやってみる。やってダメなら、もう一度最初からやり直す」というやり方。「一所懸命やる」「ダメならやり直す」というのは現場・戦術の論理として悪くないが、戦略的に考えないといけないマネジャーが言う言葉ではない。
場当たりに陥らないマネジメント、それは「予期して備える」マネジメントだ。あらかじめ起こることを予期して、それに備えてオプションを準備する。これこそが戦略的である。
昔、長嶋監督がさかんに「勝利の方程式」と言っていたことがある。野球の試合も相手があっての話。相手の出方はわからない。一球の失投や野手のミスが試合の帰趨を決める。しかし、長嶋監督は、そうした不確定性に満ちた野球の試合でも、「勝利のためのシナリオはある」と考えた。1回から9回までシナリオを準備する。5回になれば先発投手は疲れてくるので、交替を考える。後半に入って僅差で争うとき、ワンポイント・リリーフ役の立てどきを考え、9回はいつものように抑えの切り札を、というわけだ。
不確定な事態であればあるほど、こうしたシナリオを描き、各モメントで複数のオプションを持つことが大事だ。予測できない市場プロセスにも「勝利の方程式」を描くことはできる。
「営業のプロセス・マネジメント」
五つのポイント

- 相手の見えるケース、見えないケース
この問題を考えるうえでまず、相手の顔が見えるケースと相手の顔が見えないケースを区別しておきたい。顔が見えるケースとは、生産財取引や対流通業者取引にあたる。売り込む相手や組織や担当者が見えているケース。顔が見えない相手は、不特定多数に販売するケース。広く消費者一般に販売するケースを考えればよい。前者の場合、人、つまり営業担当者が取引のプロセスに介在する。後者の場合、人では対応ができないので、ブランドという媒体を用いてプロセスのマネジメントを行う(図2)。
今回はこのうち、相手の顔が見えるケースにおけるマネジメントを検討することにしよう。仮想的な事例を用いて、営業のプロセス・マネジメントのさわりを紹介する。ポイントとなるのは、以下の5点だ。
[1]プロセスの分割
顧客の購買プロセスに合わせて、営業プロセスを分けることが基本だ。基本的には、顧客の購買行動(自らの課題を認知し、深く理解し、態度を決め、交渉に入る)に沿って営業プロセスを分ける。
たとえば、IBMでは、SI(System Integration)という商品を販売するにあたって、営業プロセス・マネジメントの仕組みをつくっている。Signature Selling Method(SSM)と呼ばれるやり方である。営業プロセスは、図3のように7段階に分けられている(拙著「『営業が変わる』岩波アクティブ新書」参照)。

- IBMの7段階の営業プロセス
[2]営業ステップ
第二に、当該商品について関心を持ち、かつ競合相手ではなく自社と取引したいと考える取引相手とのみ商談を進めることだ。そして、相手のビジネス課題や課題についての理解レベルに合わせて適切なテーマを選び、相手の課題解決に向けて最適解を提案する。それが営業担当者の課題だ。
[3]案件の客観的評価
しかし、営業担当者がいくら努力しても、相手の予算、納期、緊急度、あるいは競合相手からの提案等々、いろいろ要因が介在して案件が座礁する場合がある。突然座礁すると大変だが、座礁する前にいろいろと予兆があるはずだ。それを掴むために、案件の状態を客観データに基づいて評価することが肝心だ。
「交渉相手は誰なのか。担当者なのか、担当部署の責任者なのか」「相手のトップまで、この商談の詳細は通じているのか」「商談は、どこまで進んでいるのか。予算や承認はおりているのか」等々、予兆となりそうな客観データは商談のステップの中から見つけ出すことができる。あらかじめ、案件の状態を病院のカルテのように整理したフォーマットにしておけば、予兆もある程度掴めるだろう。
つまり、その案件について、プロセスをさらに先に進めることができるかどうかを各ステップで判断する。そのために、商談内容をきちんとフォローし、客観データを用いて商談を評価する。「ある条件が満たされたときに初めて、プロセスが一歩進む」というルールが必要だ。
聞いた話だが、IBMの勝率は「2勝1敗3不戦敗」だという。最後まで競争相手と提案合戦をして、勝つのは2回、負けるのは1回。途中で「やめた」といって、途中引き上げが3回というわけだ。同社が常に、「プロセスを先に進めることができるかどうか」を判断していることを窺わせるものである。
[4]営業サポート
とはいえ、営業担当者の責任ではなく、プロセスの途中で案件進捗が座礁することがある。競合相手から魅力的な提案が出てきたり、相手の緊急度が変化したりする。その種の問題は、営業担当者では解決できない。そのとき、営業マネジャーやトップの判断、あるいは支援が必要になる。そのサポートは迅速に行われる必要があるし、そのためにも営業担当者は商談経緯をきちんとデータに残しておく必要がある。

- 営業プロセス・マネジメントの要諦
[5]マネジメント・システム
案件がうまくいかなかったら、どうしてそうなったのかを分析検討し、次につなげる。強い競合相手が出てきて負けたという現象が問題ではなく、そうなった原因を明らかにする。最初のコンサルティングの問題か、商品原価の問題か、必要な商品の品揃えに欠けるところがあったのか、いろいろな問題の可能性が考えられる。
以上の営業プロセス・マネジメントの要諦は図4のように整理できる。
「相手の顔が見える取引」における市場プロセス・マネジメントのさわりを紹介した。最初に紹介した、「柔らかな制御(相手が変わり自分も変わる)」「相手との相互行為の場のマネジメント」「共生的価値の創造」のイメージが掴めただろうか。
顔の見えない相手に対して、どのようなプロセス・マネジメントが可能なのか。それはまた、別の機会に検討しよう。










