ハーバード式 仕事の道具箱 [130]
ジョブ・シェアリングや時短勤務で生産性はむしろ向上する
柔軟な勤務形態の意外な副産物
どの程度認めるべきなのか。
ある調査によると、柔軟な勤務形態を
認めることは、社員の定着率、
組織の生産性、個人の能力開発にも
プラスになることがわかった。
たとえば、前途有望な社員が、CPA(アメリカの公認会計士)試験に備えて勉強できるよう、4カ月のあいだ週3日勤務を希望したり、重要な職務を担当している社員が、子どもと過ごす時間がもっと持てるよう、ジョブ・シェアリングを希望したり、優秀な販売マネジャーが、特別なケアが必要な子どもの世話をするために、仕事量を60%に減らし、出張はなしにしてほしいといってきたりしたらどうするか。
断れば、重要な人材を失いかねないが、認めれば、生産性や効率の低下を招くかもしれない。
アメリカとカナダの6業種において、マネジャー以上の地位にある20社88人に対するわれわれの調査によると、慎重に実行すれば、そうした事態を招くおそれはないことがわかった。
メルク、ユニリーバ、モントリオール銀行、スターバックス、バクスター・インターナショナルなどの大手企業で行ったこの調査では、社員が従来とは異なる仕事量やスケジュールで働けるようにすることは、優秀な社員の維持率の向上、生産性や効率の向上、チーム機能の強化、クロストレーニングや能力開発の促進など、大きな見返りをもたらすことが明らかになった。
しかし、個々人のニーズに合わせた取り決めの必ずしもすべてが組織に価値をもたらすわけではない。仕事量を削減する取り決めがそのチームや会社全体に恩恵をもたらす可能性を高めるために、それを望んでいる社員と一緒に次の4点をしっかり見きわめよう。
(1)変則勤務で職務を遂行できるか
その社員は、仕事量を減らした変則勤務で効果的に仕事を遂行できると思わせるだけの気力や適応力や熱意を、これまで示してきただろうか。
上司が「この部下なら大丈夫」と思う場合には、部下と一緒にその職務自体について詳しく検討しよう。変則勤務にはあまり適さない職種もある。
われわれはこの調査で、直属の部下の一人が仕事量を80%に減らすことを認めた経験のある多国籍金融機関の副頭取から話を聞いた。東南アジア4カ国のクライアント銀行との関係を担当していたこの部下は、優れた語学力を備え、新規ビジネスの開拓で見事な実績をあげていた。彼女の代わりを見つけるのは容易ではないし、しかも誰が後任になっても、クライアントと彼女のような強い絆を築くには、何カ月もかかると思われた。副頭取は当然、彼女の要望を受け入れることにした。
しかし、彼女の職務は、新規ビジネスを探すためにたびたび出張する必要のあるものだった。当然ながら、彼女の活動が20%少なくなると、それまで生み出していた新規ビジネスからの収益もそれに応じた落ち込みを見せた。のちに、自分の決定は組織の成長力と市場防衛力を低下させたと、この副頭取は述懐している。部下の要望をそのまま認めるのではなく、彼女と一緒に彼女の職務範囲を見直すべきだったと。
(2)職務はシェアできるか
われわれの調査で判明した最も典型的なジョブ・シェアリングは、「60%・60%」という取り決めだった。二人の人間がそれぞれ基本給の60%を受け取り、週に3日間勤務するというもので、毎週少なくとも1日は二人が同時に勤務する。この重複のおかげで、相手が最近関与したやりとりやプロジェクトや決定について、それぞれが十分に説明を受けることができる。
ジョブ・シェアリングを成功させるために最も重要な要因は、ポジションを分かち合っている二人のあいだの優れたコミュニケーションと協働である。これが実行されれば、ジョブ・シェアリングは、一人ではなく二人の人間のスキルと経験が成果を生むという点で、組織にとって大いに利益になりうる。
大手製造企業のカスタマーファイナンス担当取締役は、価格設定や交渉に関して営業パーソンをサポートすることを職務とする全国の18人のビジネス・マネジャーを統括していた。ビジネス・マネジャーのポジションに一つ空きができたとき、二人が、チームとしてそのポジションに応募してきて(一人は営業畑、もう一人は財務畑の人間だった)、それぞれが週に3日勤務する60%・60%の取り決めを提案した。
はたしてうまくいくのかという若干の疑念と、合計で120%の給与を払うことへの軽い不満はあったが、取締役は彼らを採用した。彼らの相互補完的な経験や能力は、彼らがサポートする営業パーソンにとって大きな力になることが判明した。組織の観点からは、彼らのパフォーマンスが売り上げに与えた影響は、給与の割り増し分、20%を補ってあまりあるものだった。
では、マイナス面は何だろう。60%・60%のジョブ・シェアリングは、一人の人物が100%の給与で働く場合より高くつく。しかし、われわれがインタビューした多くのマネジャーや幹部が、きわめて有能な二人の人物が一つの職を分かち合うとき、それがもたらす価値は給与の割り増し分を補ってあまりあると述べた。もう一つの懸念は、一方の人物が人生の危機──たとえば病気──に陥った場合、他方の仕事量が増え、そのため育児のための出費が増えたり、家族と過ごす時間が減ったりするおそれがあることだ。念頭においておくべき最後の点は、時間を経るなかで、そのジョブ・シェアリングが必要でなくなる可能性があることだ。そのため、この取り決めを年に一度は見直して、いつでも変更、廃止できるようにしておくべきである。
(3)職務の一部を廃止できるか
多くの職に「過去の遺物」的な職務(かつては重要だったが、今はそうではない仕事)が含まれている。仕事量の削減を望んでいる社員が価値の低い仕事を廃止することをまだ検討していない場合には、そうするように促そう。
医療関連企業の、ある副社長は、部長の一人から仕事量を減らしてくれと頼まれたとき、「過去の遺物」を探すよう命じた。それを受けて、部長は自分の現在の仕事のうち廃止できると判断したものを列挙した提案書を作成した。そのうちの一部が実際に廃止され、残りをほかに割り振ることで、仕事量を80%に減らすことができた。ただし、「何を廃止するか判断するのは容易ではない」と副社長は述べている。
(4)チーム全体への影響
ある大手多国籍銀行の小規模なエコノミスト・チームでは、わずか1年のうちに、二人のシニアエコノミストが、生まれたばかりの子どもの世話をするために仕事量を減らさなければならなくなった。どちらの子どもも深刻な健康問題を抱えて生まれてきたのである。
チーフエコノミストの指揮の下、チームは自分たちが行っているすべての仕事をリストアップし、廃止できると判断したものを廃止することにした。さらに、残りの仕事の配分を見直して、これまでシニアエコノミストが行っていた仕事の一部をリサーチアシスタントに任せることにした。これによってシニアエコノミストの仕事量が減り、二人の同僚の仕事の一部を引き受けられるようになった。この作業の結果、チームはより結束を強め、誰かが職場を離れる際に十分なバックアップ態勢を整えるにはどうしたらよいか、より真剣に考えるようになった。
インタビューしたマネジャーのなかには、自分の部署を全体としてとらえることによって、能力開発を加速化すると同時に、コストも削減できたという人もいた。
ある大手製造企業で、プロジェクト・マネジャーが上司に、産休後に仕事量を80%に減らしたいのだが、それは可能だろうかと尋ねた。その上司は、彼女が遂行できなくなる仕事の一部を担当させるために、よりランクの低いプロジェクト・アドミニストレーターというポジションを新設した。
この新しいポジションは、一部の仕事をより低コストで遂行できるようにしただけでなく、結果的に能力開発の強力な手段にもなった。「このポジションから、何人もの優秀なプロジェクト・マネジャーが生まれている。プロジェクト・アドミニストレーターのほとんどが、6カ月後には小さなプロジェクトのマネジメントを単独で行えるようになった」と、この上司は語っている。
おすすめコンテンツ
-
- プレジデント
- 「やる気メルトダウン」を防ぐ 上司の行動習慣
- 部下の士気を萎えさせないために上司ができることとは
-
- プレジデント
- 組織の成長力を7割アップするBクラス社員の扱い方
- 堅実に働きたい大多数の社員の力を引き出すには










