職場の心理学 [178]

リーダー像に異変あり
日本は「強制型」米国は「調整型」

 
 
これまで日本では現場主義によるボトムアップ方式、
アメリカではトップダウンによる上意下達の組織イメージが強かった。
ところが、この3年間を調査した結果
こうしたリーダー像に異変が起きているという。
 
 
ヘイ コンサルティング グループ 日本企業米州統括シニアコンサルタント
佐々木亮輔 = 文
text by Ryosuke Sasaki
ささき・りょうすけ●
神奈川県出身。早稲田大学卒、コロンビア大学大学院修士号。グローバルベースで日本企業の人事組織施策に従事。国連機関(バンコク、ニューヨーク)、大手経営コンサルティング(東京、シンガポール)勤務を経て現職。
高橋常政 = イラストレーション
illustration by Tsunemasa Takahashi
 
 

リーダーのタイプが
日米で逆転した理由

 筆者は現在、米国をベースにして、北南米の日本企業の組織人事に関わる経営コンサルティングを行っている。米国型と日本型マネジメントの双方を見つめながら、人材マネジメントを通じていかに日本企業がグローバルでの競争力を強められるのか、を考える毎日である。ここでは、日米企業のマネジメントスタイルの逆転ともいえる変化が競争力にどのような影響を与えるのかについて考えてみたい。

 人材マネジメントを考えるとき、日本型と米国型のマネジメントがよく比較される。その際、年功序列、終身雇用、企業別組合における労使関係などは、日本型マネジメントの根底にある要素としてよく挙げられる。一方、成果主義は米国型の典型のように扱われる。今では評価主義の評価も賛否両論で、成果を重視することは経営判断として揺るぎないものの、これをいかに日本の労働慣行に合ったものにしていくかという運営レベルの議論が交わされるようになった。

 日本だけが海外のベストプラクティスを取り入れようとしているのかといえば、そんなことはない。米国でも特に1980年代に日本型マネジメントの特徴が様々な方面で研究され、その長所を導入しようとする動きがあった。

 ヘイ・コンサルティング・グループで、全世界に広がるデータサンプルを基に、日本と北米のマネジャーに見られるマネジメントスタイルについて、過去3年程度の傾向を比較したデータがある(図参照)。

 日本では、「強制型」と呼ばれる、明確な指示と細かい進捗確認を通じて、指示通りに仕事を進めさせるスタイルが多い。一方北米では、「ビジョン型」「関係重視型」「参加型」「育成型」の4要素をバランスよく兼ね備えたリーダーが多いという結果が得られた。これらを統合したリーダー像とは、ビジョンを明確に示し、情緒的な関係にも配慮しながら、部下に合わせた指導やフィードバックを通じて部下を成長させるスタイルである。

 以前は、米国型といえばトップダウンで上意下達の組織イメージが強く、逆に、日本型といえば現場主義のボトムアップを重視するイメージがあった。前述のデータは、それぞれの特徴が逆転したかのような印象を与える。

 従来の米国の「強制型」リーダーの傾向は、ここ数年で大きな変化を示している。これは、権力を振るうだけのマネジメントに頼らないリーダーシップを目指して試行錯誤が繰り返されてきたことを示している。

 このように、リーダーシップ開発に対する取り組み方に米国と日本で違いが出てきた背景には、キャリアパスの捉え方の違いがある。

 これまで日本での人材戦略は、特定領域の専門家よりは、その企業でのジェネラリストを育成するというものだった。結果として多分野の専門知識を持った人材を育てるためのローテーションが施され、その延長線上に管理職層の選抜システムやキャリアパスが敷かれてきた。その結果、日本ではリーダーシップはキャリアパスを通じて暗黙的に開発されるものであり、過去の業績が良ければリーダーシップもある程度備わっていると捉える傾向がある。

 一方米国では、管理職層に上がるまでは、特定の専門分野で経験を積むスペシャリスト意識が比較的高く、その専門性が他社への転職を容易にしている。しかし、この意識を管理職になっても引きずると、セクショナリズムが強くなり、「サイロ組織」と呼ばれる閉鎖的な組織をつくりあげてしまう。

 したがって、米国では管理職層以上でのキャリアパスと育成は、非管理職時代とは大きく異なる。管理職になると、特定領域の専門性によらない広い視野を持ち、リーダーとしてチームをマネジメントする人間力を養う「リーダーシップ」の開発が始まり、そのためのアセスメントやローテーションが施されるのだ。このとき、米国では心理学的なアプローチを含めたリーダーシップ開発のニーズが高まり、リーダーとして人を動機付ける能力が注目されるようになった。

 一方、日本では、終身雇用が根底にあったため、前述の日本特有のキャリアパスをベースに、社内固有の能力やネットワーク、過去の業績や認知度に頼ったリーダーシップが主流だった。このため、リーダーシップの開発に目が向けられなかった。

photo

競争力強化には
リーダーシップ変革が欠かせない

 リーダーシップ開発に違いが見られるもう一つの背景に、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスの見直しがある。特に米国では、90年代後半からエンロンやワールドコムなどのスキャンダルをきっかけに、ガバナンス体制のあり方が問われてきた。日本企業でも、J-SOX法の施行をひかえ、コンプライアンスに関わる行動規範や新たな内部監査体制が確立し、グループ内に広く浸透する段階に至っている。

 この流れが、リーダーシップ開発への取り組みに影響しているのである。

 両国では、機構改革やコンプライアンスのための統制に時間と労力が割かれてきた経緯は共通している。しかし、米国では組織の仕組みの変革に加えて、「リーダーシップ」というソフト面の変革にも注力し、仕組みとリーダーシップの二つの要素がガバナンス改革の両輪となって全社的なコンプライアンス対策を支えている。米国で「リーダーシップ」に目がいくようになったのは、株主重視・財務偏重型の意思決定に疑問が投げかけられたことで、組織が保有する知的財産や人的資源に長期的に目を向けて競争優位を見出す動きが現れたためだ。こうしてガバナンス問題がリーダーシップ開発にさらなるドライブをかけたといえる。

 一方、日本では品質管理や会計処理といった社内プロセスが不祥事で強く問題視されたため、ガイドラインや仕組みの統制に改革の重点が偏重しているように見受けられる。その結果、強制的なトップダウンの風土、ガイドラインによる統制が強く誇示されて、現場での創造性やイノベーションが制約され始めている。

 不祥事の問題は、トップの交代によってすべて清算されたのであろうか。現場のリーダーシップに改善の余地はないのだろうか。これまでは人を動力にしたマネジメントや現場での問題解決に長けていたはずの日本企業のガバナンス改革が、仕組みづくりによって統制する方向へ向かう動きには、米国と逆転現象が起きているような印象を受ける。

 このようなキャリアパスの違いとコンプライアンス対策という二つの要素をまとめると、ここ10年、リーダーシップ開発を進める内的、外的な圧力が米国では大きく働き、リーダーシップを体系的かつ客観的に捉えた開発が進められてきたといえる。その結果として、先のデータが示すバランスの取れたマネジメントスタイルの傾向が現れ始めているのである。日米間のリーダーシップ開発の取り組みの温度差は、今後益々大きな差となって企業の競争力を引き離す可能性を秘めている。

多様化する人材を
多角的に動機付けできる上司

 もう一つ強調しておきたいのは、人材の多様化である。

 日本では近年、ニートやフリーターなどが社会問題として注目されるようになった。最近の新入社員は3年程度で転職してしまう。また、これまでの労働慣行とは異なる一面も垣間見られるようになってきた。在宅勤務や育児休暇などの新たな取り扱いも、多様化の傾向を示す一端といえる。同じ正社員でも働き方に対する意識が多様化し始めている。例えば、出世して経済的な豊かさを追求するよりも、仕事はほどほどに、余暇や自分の時間に重きを置く人材が現れている。

 近年、会社のバリューの見直しや浸透の再徹底、従業員サーベイを定期的に行う企業が増えている背景にも、多様化する人材の問題がある。

 米国でも社内デモグラフィーにおける年代の違いによって価値観が異なる状況が見られ、その対応が「マルチ・ジェネレーション・マネジメント」と表現され、重要視されつつある。

 人材の多様化は、年代別の志向だけにとどまらない。国籍も文化も違うグローバル社員の活用、急増するM&Aにおける異なる組織文化の統合といった要因が多様性に拍車をかける。これまでのように人材を画一的に捉えた対応には限界があり、もはや精神論だけでは解決しきれない変化が起こりつつあるのだ。

 多様化した人材に直接向き合う現場のリーダーには、どのような「リーダーシップ」が求められるのだろうか。その課題を考えるうえで、先のデータが示す傾向にヒントがある。「リーダーシップ」の一角を成すマネジメントスタイルは、一つの要素に秀でるよりも、使い分けることに意義があるとされる。例えば、企業の成長ステージや部下の性格によって、「強制型」が必要な場面もあれば、「ビジョン型」が最適な場面もある。データは、米国企業では複数のスタイルを駆使する力が備わりつつあることを示唆している。「ビジョン型」「参加型」「育成型」といった、社員の間にどのような嗜好や不満、ニーズがあるかに聞く耳を持ち、多様化する人材を多角的な視点から動機付けてベクトルを合わせることのできる「リーダーシップ」が、今後の競争力の源泉になると強く感じる。「リーダーシップ」も多様性と柔軟性が求められる時代なのだ。

photo

 企業の論理を一方的に押し付けるのではなく、企業側と社員が対等に向き合う。仕組みで動かす部分と人の気持ちで動かす部分が組織を方向付ける両輪となる。特に日本の強みであったはずの人の心を原動力とするリーダーシップが鈍り始めて、組織が一つの方向に進まない機能不全に陥ってはいないだろうか。

 決して米国型のマネジメントが正しいと伝えたいのではない。日本の強みであったことが今や米国では当たり前のことのように広がり、逆に本家本元の日本では、その強みの影が薄らいでいる状況に危機感を覚えるのである。

 米国企業でも、日本型を意識的に真似たというわけではなく、ビジネス環境やニーズに応えるために行った改革がもたらした結果にすぎないのかもしれない。日本企業の一部の現場に見られる閉塞感や、言われたことをそつなくこなしておけばいいというような保守的ムードを見るにつけ、リーダーの人間性や存在感が現場を活性化するために強く問われているように感じてならない。

 70〜80年代は戦略経営の時代、90年代はIT経営の時代、そして2000年に入ってからはリーダーシップ経営の時代へと経営課題が変遷してきた。人を動機付け、魅了するような求心力を持ったリーダーのあり方、個別企業の風土にも合致した「リーダーシップ」について、再考が必要な時期にきているのではないだろうか。

 
 
PRESIDENT 2007年9.17号
PRESIDENT 2007年9.17号
税込価格 650 円
売り切れ
 
PRESIDENT公式twitterアカウント

メールマガジン <プレジデントニュース>

 
 

「プレジデント」編集部員による取材現場でのこぼれ話やビジネスマンに役立つオリジナルコンテンツ、新刊書籍案内などを、週1回のペースでお送りいたします。

メールマガジン申込・登録変更