人に教えたくない店 [372]

千葉の「地場モノ」を食べたくなるのは
俺が東京湾に育ててもらったから

永島敏行さん

 
 
永島敏行 = 談
Toshiyuki Nagashima
ながしま・としゆき●
1956年、千葉県生まれ。専修大学在学中に映画「ドカベン」でデビューし、翌78年、映画「サード」でブルーリボン新人賞などを受賞。以来、俳優として映画、テレビ、舞台などで幅広く精力的に活躍している。現在放送中のNHK大河ドラマ「風林火山」では、武田信玄の難敵、村上義清を好演。9月8日公開の映画「人が人を愛することのどうしようもなさ」[R-18]、10月17日より新国立劇場で上演される舞台「たとえば野に咲く花のように―アンドロマケ―」にも出演している。また、NHK「産地発!たべもの一直線」の司会を担当しているほか、実行委員長を務める「青空市場」は東京国際フォーラムで定期的に開催。次回は9月9日。農林水産省食料・農業・農村政策推進本部「立ち上がる農山漁村」有識者会議委員。

斉藤由利子 = 構成・文椿 孝(銀座KAN)、伊藤千晴(丸万寿司) = 撮影
 
 

 この5月から、世田谷ものづくり学校のスクーリング・パッドで、農業ビジネスデザイン学部長をしています。そもそも農業に目を向けるようになったキッカケは、あきた十文字映画祭です。16年前、十文字町に映画館がなくなってしまい、大学の野球部仲間が映画祭をやりたいというので手伝うことに。映画祭では役者や映画関係者が中心になるものですが、地元の人たちが主役になれる祭りにしたいと考えたところ、ここは農業が盛んだったのです。ぜひ日本の食の基本である米づくりを教えてもらおうと、田植えから通い始めました。

 とはいえ最初は遊び半分。しかし、農家の方々と接するうちに、知らないことがあまりにも多く、これはきちんと本腰を入れないといけないぞ、となった次第です。今やすっかりライフワークとなり、やはり大学の野球部仲間が兼業農家をしている千葉などでも米をつくっています。

 ここ「銀座KAN」はオーナーの中村悌二がこれまた野球部の後輩です。下北沢でバーをやっているのを人づてに知り、再会して以来20年の付き合いになってしまいました。気楽なのもありますが、食材の質に対する真摯さにとても共感を覚えます。というのも、僕らは流動食しか喉を通らないほど本当にきつい野球をやってきたので、食の重要性を痛感しているからです。そういう意味でも安心して食事できる店です。

 米づくりを始めたことで食を深く考えるようになり、つくづく思うのは「俺は東京湾に育ててもらったんだな」ということ。「身土不二」ではありませんが、土地がそこに生きるものを育てるという考え方ってあると思っています。僕が生まれた頃の千葉はまだ半農半漁で、江戸幕府の食料庫だった豊かさが残っていました。アサリなどの貝類や伊勢海老、ワタリガニ、鰯や鯵など、東京湾はまさに生け簀(笑)。近くには田圃やら里山があるし、葱坊主の頭を叩いて叱られている傍らで海苔を干しているといった環境でした。

 今もときどき千葉の地場もんを食べたくなると、おじに連れていかれた子供時分からずっとある「丸万寿司」に出かけています。コハダに穴子、そして、平貝は軽く炙って……。たまらないなぁ。漁師さんに聞いたところ、東京湾に魚介がだいぶ戻ってきているそうです。そのためにも海を清浄にして栄養を届ける土地を守る必要があります。だからたとえば、トヨタさん、ホンダさん、マツダさんといった名前の人たちに言いたい。田の字がつく人の大半は、ご先祖が何がしかのかたちで農業にかかわっていたはずです。だからまず、日本の農業のことをもっとちゃんと考えてほしい。農業は楽しいし、日本の未来を広げる可能性そのものだと思います。

銀座KAN カウンター和食
銀座KAN

東京・目黒川沿いの
「隠れ家店」が銀座へ進出

●目黒川沿いの隠れ家店として口コミで知られている「KAN」の銀座店。この4月にオープンしたばかり。ゆったりと贅沢なまでに広くとられている空間は、厳選した食材の旨味を生かした料理とともに上質な時間を約束してくれる。
●東京都中央区銀座2-4-6 銀座Velvia館7F
TEL.03-3562-7557
営業時間/11:00〜14:00(LO)、18:00〜22:30(LO) 無休 カード可 ※夜は予約を。テーブル席、個室あり。




  1. 穴子の柳川1400円(季節メニュー)。江戸前や九州産から厳選している穴子は、ふっくらとしてほんのり甘味がある。白焼き、天ぷら、酢の物など、穴子料理は常時4〜5種が並ぶ。
  2. 切り胡麻が香る、名物の元祖玉子ごはん400円。米は会津産コシヒカリ。赤いパプリカを食べて育つつくばの茜鶏の卵は黄身の色みが濃く、旨味も濃厚。オーナーが見つけてきた熊本の濃い口醤油で味わう。
  3. 精肉店オリジナルの生ハムの食感が何とも魅惑的な、生ハムとホワイトアスパラのサラダ1400円(季節メニュー)。生ハムといっても輸入品のような長期熟成タイプではなく、よりフレッシュな状態を燻製にかけている。豚肉は千葉に育つ麦豚。この肉は融点が低く、独特の旨味を醸し出す。
  4. 山形牛のサーロインステーキは100g/3500円、200g/6500円。22mmの分厚い鉄板で表面を香ばしく焼き上げる。甘い牛の脂を山葵がぴりっと引き締める。

寿司
蓮池  丸万寿司



花街風情が残る
街角に佇む老舗で
地場モノネタを味わう


●寿司店の多い地域にあって、1950年より営業している古参組。蓮池は当時あった花街の名前だ。つけ台に立つご主人の君塚泰規さんに、銀座久兵衛で5年間修業してきた二代目の俊一さんが加わり、ますます期待が寄せられている。
●千葉県千葉市中央区中央3-7-11
TEL.043-222-3414
営業時間/11:30〜14:00、17:00〜22:00入店 日曜と日曜に続く祝日定休 カード可 ※夜は要予約。小上がりのほか、個室は4室あり


蓮池 丸万寿司
  1. 特に力を入れている東京湾と房総産のネタ。船橋や銚子から上物だけを仕入れる。手前の左から、塩とツメの2種で味わう羽田沖の穴子、富浦の塩蒸し鮑、竹岡のたこ、九十九里の煮はま、天津小湊の金目鯛、勝山のアオリイカ、船橋の生トリ貝、白板昆布で味わう勝浦の鰹、竹岡の真子鰈、船橋のフッコ。握りはお好みで5000〜7000円が目安。
  2. いなせな美しさをたたえたコハダの握り。寿司飯は、アキタコマチや新潟コシヒカリに香りの高いもち米をほんの少量混ぜるのが丸万流。もっちりとした食感が食欲をそそる味わい。甘さを極力抑えたすし酢には、コクのある赤酢を使用。
  3. 出前で大人気というちらし。写真はおまかせちらしで3990円。できたてのおいしさを届けたいと、寿司飯とネタを分けて詰める。刻んだガリ、かんぴょう、胡麻と針海苔がのっている寿司飯は、ネタなしでもイケるおいしさ。
 
 

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