職場の心理学 [177]
6倍速で新人が育つ「作業OJT」とは
一見面倒で非効率に見えるかもしれない。
しかしその方法が、新人育成で大きな効果を挙げている。
作業分解から指示の出し方、見守り方まですべてを紹介する。
若手は上司の背中を見ても育たない
2007年問題や景気の回復を背景に各企業が若手人材の採用に積極的だ。採用バブルといわれる今、現場レベルでの新人育成力が問われている。しかし、現場の必死の努力にもかかわらず、結果的に「人が増えたけれども、生産性が上がっていない」と悲鳴を上げている企業も多い。
新人教育に四苦八苦している企業に対して、私は、仕事を分解して一つひとつの作業まで教え込む「徹底的に作業に着目した部下指導(以降、『作業OJT』)」をおすすめしている。これは効率的かつスピーディーに、そして確実に仕事を覚えさせることができる手法だ。
それでは以下に、新人教育について悩む各企業の現状と、「作業OJT」の具体的な方法、そしてその効果を示していこう。
各企業とも、新人育成は現場の直属の上司や先輩にあたる社員に一任している。一般的に、入社3年目から5年目の社員に任せるケースが大半だ。
これは単なる慣習ではなく、OJTには、新人育成のみならず、それを通じた「次世代リーダーの育成」という目的もあるからだ。
しかし、彼ら「OJTトレーナー」は、自分の仕事を上手にこなす力は培われているが、部下および後輩など新人の育成経験やスキルに乏しい。自分の仕事のうち任せられそうなものを場当たり的に振ったり、忙しさにまぎれて新人本人の自発的な学習に任せっきりになっているのが実情だ。これでは必要な技術や知識、ノウハウがなかなか身に付かない。
プレーヤーとして優秀でもマネジャーになりきれない人材も多い。
A社では、とても優秀なマネジャーが営業部隊とSE部隊にそれぞれいる。しかしどちらも、実質的にはチームの成果は自分が叩き出すというスタイルで、プレーヤーに徹しているため、マネジャーとして優秀とはいえない。
これは若手マネジャーによく見られる傾向だ。事実、優秀なプレーヤーほど、部下を育てられないという話はよく聞く。優秀だからこそ人の失敗の理由が理解できないし、自分でやったほうが早いからと、一人で仕事をこなしてしまうのだ。
また、上司や先輩の指導力による、部下の成長度合いの格差も問題となっている。最初の上司によってその人のビジネス人生が決まるといっても過言ではない。これでは、教育を怠る上司についた新人は不幸である。
これらを解決するため、私は、実務上でOJTトレーナーが直面する「作業」の継承という点に目を向け、部下育成スキルを高めるアプローチをしていくべきだと考えている。
では、トレーナーは新人にどう教えたらいいのか、「作業OJT」の具体的な流れを説明しよう。
まず、新人が配属される前の準備として、トレーナーは自分の仕事をリストアップする。通常業務のほか、やらなければならないけれどもやれていない仕事についてもピックアップし、部下に仕事を任せることで空いた時間を使って自分は何をしたいのかを考えておくとよい。
大まかなリストアップ終了後は、一つひとつの仕事をさらに作業ごとに分解し、新人に任せられるものを選定する。任せられるか否かの判断は、クライアントへの影響度、仕事の大きさなどの重要度、納期、求められる品質など作業の難易度を踏まえて行う。
それをもとに作業をランク付けし、最初は重要度と難易度の低いものから任せられるように育成シナリオとスケジュールを作成する。
また、作業に対する要求水準についても決めておく。何をどの程度できたら、このスキルおよび業務は習得したと見なすかのラインを明確にするのである。その際、現在の自分と同じレベルを求めるのではなく、自分が初めてその仕事をしたときに、どこまでできたかを基準に設定することを心掛ける。
これら準備作業をすることは、OJT期間中のスムーズな指導を可能にするだけでなく、自分の仕事を体系的に捉え直すよい機会となる。
的確な指示で
分解した仕事を叩き込んでいく
新人が配属されると、実際に作業指示を出すことになるが、ここが人材育成の要なので指示の出し方は丁寧に。とりわけ、5W1Hを意識する。5W1Hの中で一番大切なのは「これをやって」というWhatではなくWhyである。部分的に仕事を任せるにしても、作業の目的を理解させ、その仕事がチーム全体に対してどのように貢献するのかを教えることが重要だ。
また、指示を出す際には、必ずリスクポイントを提示する。どこでどういう情報を報告・連絡・相談しておかないと失敗するのか、失敗したときにどういう結果が待っているのか理解させるのだ。具体的な指示を出さずに、ただ「報・連・相が大事である」と伝えても、新人には理解できない。
報告で伝えるべきことは、進捗状況と成果、問題点、残作業の4つ。連絡は、事実を周りと共有する作業。緊急性とレスポンスの必要性を確認する。相談は、問題解決のプロセス。問題の大きさを見極めるよう指示し、解決策を提案するよう促す。
指示をして作業をさせたら、最初の段階では、最大でも1時間ごとに自分から声をかけるなどして、新人の作業の状況をモニタリングする。それ以上放置すると新人の作業ミスや作業の停滞などに繋がる危険性がある。
仕事を振る段階で作業を細かく分け、新入社員が行う作業の単位時間を短く設定することが鉄則だ。
例えば、顧客のニーズを把握するためにヒアリングに行くという仕事を分解すると、(1)ヒアリングの目的整理 (2)質問項目作成 (3)ヒアリング対象の選定 (4)アポイント取り(日程・時間の調整) (5)ヒアリング (6)結果をまとめる、という6つの作業に分けることが可能だ。公式的なものであれば(7)先方への確認 (8)最終的な修正 (9)社内外へのレポート作成という作業も加わるだろう。
このように細かく分解することで、1日の仕事を時間単位、分単位で捉え、モニタリングすることが可能となる。
難易度の高いWhyに当たる(1)と(2)は上司が行い、それらについて説明したうえで(3)や、難易度の低い(4)と、(5)の際のメモ取り、(7)などは新人に任せてよいものと判断できよう。
さらに(5)の「ヒアリング作業」を、最初の導入部分の説明、本題での質問のやり取り、まとめという3つに分け、自分と新人の間で仕事を振り分けてもよい。
営業職で入ってきた新人と、私が一緒に営業に行った際には、営業の導入部分である資料説明は新人に任せ、本論のお客様からの質問対応は上司である私が、まとめとして聞いた内容をもう一度確認する作業については新人が、という分担を行った。
こうすることで、どの程度新人が資料説明を行えるようになったかモニタリングできると同時に、その新人の説明をもとに顧客がどういう質問をし、それにどのように答えればいいのかを見せることができる。
次のステップは新人の作業に対するレビューだ。作業の成果とプロセスに着目し、良かった点と改善点を示す。フィードバックの原則は「褒める・叱る・褒める」である。次に解決すべき課題を示す的確なレビューこそ新人を伸ばす一番の糧となる。レビューについては、帰りの電車の中など、移動時間や空き時間を有効活用し、日々のコミュニケーションの中で行えばよい。
「作業OJT」では、新人が一つひとつの作業を習得するまで「指示→モニタリング→レビュー」を繰り返す。そのうえで、最終的に全体の仕事を覚えさせていく。そうすると、新人の得意・不得意の見極め、できているか否かの判断がしやすくなる。
連合艦隊司令長官・山本五十六は「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かず」という名言を残している。
仕事には、難易度が高く言葉で説明しても伝わりにくい「やってみせる型」の仕事と、手順通り教えれば新人でもできる「言って聞かせる型」の仕事がある。
前者は、新人自身の自発的な学びや先輩のやり方を盗む力に頼りがちだが、それは教えることを放棄しているにすぎない。とくに新人が仕事の壁にぶつかったときには、やってみせながら上司として経験に基づくやり方を教えるべきだ。新人が壁に突き当たったときこそ、教える絶好の機会といえる。
言って聞かせる型の仕事は言うまでもなく、「背中を見て覚えろ」では効率が悪い。面倒に思わず一度きっちりと教えれば後で自分が楽になる。
この「作業OJT」を実践することで、弊社では新入社員が仕事を習得するスピードが格段に速くなった。例えば、パワーポイントを利用したプレゼンテーション資料を1カ月という短期間で作成できるようになっている。
私が以前の会社で新入社員であった10年前を思い返すと、クライアントに提示できるレベルの資料を作れるようになるまで、少なくとも半年はかかったと記憶している。
その理由は、非常に厳しい環境の中で「上司の技を盗むことでうまくやれ」という独立独歩の仕事習得を求められたからであろう。
このような「俺の背中を見て覚えろ」という指導スタイルは、団塊の世代をはじめとする年配者や職人気質の技術者などに多く見られる。しかし、終身雇用制度が崩壊し、短期間での業務の継承が求められている現状では、この指導スタイルは非効率このうえない。
一見、面倒に見えるが、新人に任せられるような仕事は言葉で説明し、計画に基づいて教え込んだほうが効率がいい。故に「作業OJT」は、定年間近の団塊の世代などから若手社員への仕事の継承にも有効に作用するだろう。
新人が仕事を習得したら
自分は次のステップへ
右図のようにOJT期間中、トレーナーのパフォーマンスが一時的に落ちてしまうのは、当然のリスクだ。しかし、これをいかに早い段階で上げていくかが重要だ。例えば営業マンであれば、注文書や見積書作成、打ち合わせ議事録の作成等の仕事は部下に教えて任せ、自分は顧客の年間計画や予算をキャッチしにいくといった、もう一段上の仕事にシフトしていくのである。
この考え方は、現在部下を持つマネジャー層の育成のみならず、係長から課長、課長から部長など、各昇進の際にも応用可能なベースとなる。
さらに、間接的にはリテンション(社員定着・離職防止)効果も期待される。企業において、OJTを任せる年次である入社3年目から5年目の社員というのは離職率が高い層でもある。
人の入れ替わりが激しい昨今、いかに新人を育成し、定着させるかという問題に頭を悩ませている企業は多い。
どのような職種であれ、一定期間が経過すると仕事が単調になってくるだけでなく、投じているエネルギーに対してリターンが少ないという意識が芽生える。
このような社員には、OJTトレーナーを任せ、「次世代のリーダーとして期待をかけ、その資質を見ている」ということを明示すればモチベーションを維持することができる。
成果主義を導入している企業では、部下に追い越される恐怖から自分の手の内は見せたくないという上司もいる。しかし、個人のパフォーマンスが評価されるのは若い年次だけである。それ以降は、チームの目標に対する到達率を見られる。評価される対象は、個人の成果ではなく、チームパフォーマンスである。そう考えると自分のノウハウを隠すことの価値は薄い。
実質的な「作業」に着目するOJTは、新人育成のみならず「上司力を鍛える」ものでもある。これを実践することで、社員の能力の全体的な底上げが図れるだろう。
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