ハーバード式仕事の道具箱 [128]

ごっそり抜けるマネジャー層を速やかに補うために何をすべきか

「大量退職」によるリーダー不足を克服する法

 
 
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アメリカではベビーブーマー、
日本では団塊の世代の「大量定年」が
企業の危機感を煽っている。
リーダー候補生たちを一夜にして
「司令塔」に育てるのは無理だが、
育成過程を加速することは可能だ。
 
 
アン・フィールド = 文ディプロマット = 翻訳
 
 

 人口動態の大変化が間近に迫っており、それは多くの企業にとってリーダーシップの危機を意味している。高い能力を身につけ、高い地位にいるベビーブーマー(第二次大戦後に出生率が高まった時代に生まれた世代。日本の「団塊の世代」と一部重なる)が一気に退職し始めたら、残されるのはリーダー層の深刻な不足である。イリノイ州に本社を置く人材コンサルティング会社、RHRインターナショナルのウッド・デイルによれば、アメリカの企業幹部の少なくとも50%が向こう5年のうちに定年に達するという。日本やオーストラリア、それにヨーロッパの一部の国は、さらに大きな打撃を受けるだろうと、『Workforce Crisis: How to Beat the Coming Shortage of Skills and Talent』(2006)の共著者、タマラ・エリクソンは言う。

 次世代のマネジャーの供給が十分であれば、大量退職でも問題は生じない。しかし、ほとんどの企業で、次世代のマネジャーは圧倒的に不足している。

「ベビーブーム世代はきわめて人数が多いので、この世代の人々は今日、企業の上級リーダー職の大半を占めているだけでなく、その下のポジションの多くも占めている」と、研究教育グループ、コンコース・インスティテュート(マサチューセッツ州)の所長を務めているエリクソンは言う。おまけに、先進工業国における出生率の低下は、後継世代の人数がベビーブーム世代よりはるかに少ないことを意味している。

 では、企業は何をすればよいのか。「リーダーの育成を加速しよう。それも早急に」と、エリクソンは言う。

 本稿では、効果的かつ効率的にリーダーを育てる方法について、専門家たちの五つのアドバイスを紹介する。

(1)幹部候補であることをわからせる

 有望な人材は、自分が幹部候補と目されていることを知らされるべきだ。

 それは彼らが特定の能力を開発するための横の異動の価値を認識する助けになるからだ。「多くの場合、能力開発のための望ましい異動は、従来のような昇進という縦の異動ではなく、横のジグザグの異動だ」と、エグゼクティブ・リクルーティング会社、コーン・フェリー・インターナショナルの戦略・知財担当副社長、カーラ・カプレッタ・レイモンドは言う。

 彼らに何も伝えなければ、競争相手に彼らを奪われる可能性が高くなる。

 一方で、幹部候補という立場にあぐらをかいてはならないと彼らを戒めることも大切だ。幹部候補であることを伝えるのは、彼らが新しい挑戦に自信を持って取り組めるようにするためであって、うぬぼれさせるためではないのである。

(2)能力を複数の方向に伸ばす

 有望な若手マネジャーに幹部MBAプログラムを受講させることはできるが、それはかなり時間のかかる学習である。より迅速な方法は、彼らのスキルの不十分な部分や欠けている部分を強化し、補完する、一連のより短期間のストレッチアサインメント(現在の能力より少し上の能力が要求される任務)を与えることだ。

 ストレッチアサインメントはまったく新しい分野の職務である必要はなく、本人の通常の職務を補完する新しい任務であってもよい。たとえば、ほとんど業務畑で過ごしてきた有望なマネジャーには、クライアントともっと接触する必要のある職務を与え、それによって外部の視点から組織をとらえる能力を強化させてもよいだろう。

 数年間の海外勤務は、長年にわたり多くの企業の幹部開発プログラムの必須要素とされてきた。しかし、それよりはるかに短期間の海外勤務でも十分な効果を挙げることができる。エリクソンのクライアントだった、ある大手保険会社は、有望な人材を3カ月間海外に派遣して、そこで新事務所の開設を手助けする任務にあたらせている。このプログラムの参加者たちは、アメリカに戻ってからも引き続きその海外事務所の運営に関与し、現地スタッフと緊密な接触を保っている。

(3)グループとして問題に取り組ませる

 有望な人材のグループに難しい問題を与えてその解決を求めることは、彼らの学習をスピードアップする効果的な方法だ。それによって彼らは部署横断的な人間関係を強化し、上級ポジションでの成功に欠かせない類の分析や説得や交渉に携わることができる。

 ボストンに本社を置く経営幹部能力開発コンサルタント会社、フォーラム・コーポレーションの専務、ローナン・ノックスは、ビジネス上の難問を幹部候補グループの能力開発の機会として利用した企業の例を挙げる。その企業は地理的な近さではなく経済的な類似性に基づいて組織を再編することを検討していた。そこで、世界各地から集められた幹部候補グループを対象とする開発プログラムのなかで、この戦略を検討させたのである。

 幹部候補たちは、どの国とどの国を一つのグループにまとめるべきか、経営陣をどのように再編するべきか、この再編はマーケティングにとってどのような意味合いを持つか、世界各地の研究開発施設や生産施設をどのように再編するべきか等々について提言をまとめるよう要請された。この任務は彼らのリーダーシップスキルや調査・分析スキルを強化し、複雑な情報を統合する能力を磨き、さらには取捨選択せねばならない諸要素を秤にかけ、合意に至るという面で貴重な経験になった。そのうえ、上級幹部チームからも注目される機会となった。

(4)社内の専門家から学ばせる

 幹部候補と経験豊富な上級マネジャーの混合チームをつくることは、知識を次の世代に伝え、同時に幹部候補のスキルを開発する効果的な方法だ。

 トマス・トマイは、人材コンサルティング会社、リー・ヘッチ・ハリソン、ニューイングランド支社の専務の職にあったとき、優秀な若手マネジャーと経験豊富なマネジャーの混合チームをつくって、新規クライアントを獲得するプロセスを見直す作業にあたらせた。若手マネジャーたちは大胆に変更した新プロセスを直ちに採用するべきだと主張し、それに対しベテランマネジャーたちは、数カ月かけて漸進的に変えていくという手法を唱えた。当初の議論ではどちらも自分の立場を譲らなかったが、結局は若手マネジャーが、段階的に新プロセスに移行するのが賢明な方法だと得心した。「誰もついてこなかったら、どれだけ迅速に行動しようと意味がない」という、ある幹部の言葉に彼らは反応したのだ。

(5)学習の目的を明確にする

 リーダー開発に投じる時間を最大限に活かすためには、課題を与える際、何を期待しているのかを明確にする必要がある。経験を通じて学ばせる「アクションラーニング」では、学習の目標を見失いがちである。「経験のために」仕事に取り組んでいるにもかかわらず、その仕事の結果に責任を負わされるからだ。

 フィデリティ・インベストメンツのリーダーシップ・組織開発担当取締役、ジェニファー・ハーンデンは次のように語る。「アクションラーニングを導入したとき、『アクション』の要素が『ラーニング』の要素の影を薄くすることがあることに気づいた」。

 たとえば、パフォーマンスがすばらしくなるよう自分の強みをベースにした職務を選ぶ参加者がいたのである。問題はすでに得意なことをやっても、多くを学ぶことはない、という点だ。

 そのため現在では、参加者はアクションラーニングの際、チームで引き受ける職務の種類を定期的に見直すよう要求されている。

 課題を与えるに際し「パフォーマンスだけでなく能力開発に対しても褒美を与えることを忘れてはならない」と、センター・フォー・クリエイティブ・リーダーシップの上席研究員、シンシア・マコーリーは言う。

 有望な人材はすぐには育たない。しかし、効率的な能力開発の機会を与えることで、幹部のイスに向けての彼らの前進を加速し、そこで成功するために必要な経験とスキルを習得させることはできる。それができれば、ベビーブーマーが退職するとき、その退職は彼らを失うことを嘆く機会ではなく、彼らの幸福を願う機会になるだろう。

 
 

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