人に教えたくない店 [370]

自衛隊勤務のサバイバルな父が
狩猟から始まる料理を教えてくれた

大道珠貴さん

 
 
大道珠貴 = 談
Tamaki Daido
だいどう・たまき●
1966年、福岡県生まれ。県立福岡中央高校卒業。2000年、『裸』(文藝春秋)で第30回九州芸術祭文学賞を受賞してデビュー。その後、03年には『しょっぱいドライブ』(文藝春秋)で第128回芥川賞を、05年には『傷口にはウォッカ』(講談社)で第15回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞している。06年に出版された初のエッセイ集『東京居酒屋探訪』(講談社)では、気の置けない仲間とともに食と酒を囲むひとときを通して、日常の暮らしぶりや過去への思いがかいま見られる。この夏、初となる官能小説を上梓の予定(講談社)。9月には『ミルク』(中公文庫)が出版される。
山内史子 = 構成・文馬場敬子 = 撮影
 
 

 福岡出身なので、子供の頃は魚介がおいしいのを当たり前のようにして過ごしてきました。しかも、自衛隊勤務の父は、食に関してサバイバルな人でした。

 たとえば魚は、パンツ一丁になって、魚をモリで刺すような捕り方をする。今思えば、おそらく密漁的なこともしていましたね。深夜にこっそり海岸へ行ってサザエとか採っていました。ライトもない真っ暗な海岸を、私は父親だけを頼りに行動していたんです。

 ウド、タケノコなどの山菜も採りに行きました。これも他人の山だから、ほんとうは盗みになるのかもしれませんが……。

 魚を食べ残したことはありません。許されなかったので。目玉はもちろん、骨も焼いて。嫌いな物も全部食べさせられました。「今、福岡で味わっておきなさい。ベロは覚えているから」って父に言われながら育ちました。

 今、家で料理をするかと聞かれると困るんです。育てたり、捕まえたりすることから始めるなら偉いけど、買って刻むだけでは料理とは言えないと思う。自分にとっては、狩猟から始まるのが料理なんです。

 それに、自分で作って食べると、おなかはいっぱいになるけど、なぜかおいしいと感じないんです。母が「自分で作る料理よりも、人に作ってもらったインスタントラーメンのほうがおいしい」とよく言っていましたけど、私も同じかもしれません。

 外食は、男の人とふたりきりで食べるというのがダメなんです。照れくさいし、ほかにもカップルがいて自分たちもその一組というのが、絵的に好きじゃない。つきあっている人がいても、仲間と一緒に食べたいほうですね。

 鎌倉の「粥茶屋 写楽」は、魚が新鮮なだけじゃなく、味付けにも品があるんですよ。一度ですっかり気に入ってしまいました。「よし田」は、蕎麦屋なのにあらゆる和の食べ物が揃っているという感じです。舌が元気になりますね。

 今の子供たち、特に男の子たちを見ていると、太っている子が多くて心配になります。赤の他人のオバサンが心配しても、しょうがないんですけどね。

 自分は小さいとき、「おなかをすかしてから夕食を食べなさい」としつけられていたので、お菓子を食べられなかったけど、今の子供たちは違うんでしょうか。あの頃の外で遊んで帰ってきたときの空腹感は、今は感じられないだけに憧れです。

 でも考えてみれば、人生って、空腹だった感覚を覚えていられるかどうかじゃないかな。空腹を知っているから、満ち足りることもわかる。食に限らず、渇望と満足のメリハリが人生の基本なんだろうなあと思うんです。

粥茶屋 写楽 居酒屋
粥茶屋 写楽
飄々とした主人が
演出する空間で
旨い魚と酒に舌鼓

●骨董屋と間違う客がいるというほど、店内は琥珀色を帯びて趣がある。人をびっくりさせるのが好きというご主人の藤代一雄さんは、「予約を入れたからといって安心しないで」と冗談めかす。料理もさることながら、茶目っ気のあるその人柄に惚れること必至。大船駅、鎌倉駅からタクシーで10分程度。
●神奈川県鎌倉市常盤330-1
TEL.0467-32-1904
営業時間/19:00〜翌4:00 無休 カード不可


  1. キチジの塩焼き5800円は、通年のメニュー。焼き物はすべて炭火を使う。ご主人が好きなものだけを揃えたという日本酒は田酒、風の森、石鎚、くどき上手など1合800円〜。
  2. ぷるんぷるんの湯葉入り汲み豆腐1200円は、大豆の力を感じる一品。最初は醤油なしで。
  3. 魚は地元にこだわらず、函館のタコ、高知大トロなど、全国各地の美味を。それぞれに舌に印象を残す旨さを有している。刺し身の盛り合わせは2000円程度から。写真は3〜4人前9000円ほど。
  4. 辛子明太子粥900円など締めをやさしく飾る粥類は600円〜。メニューは日々、仕入れの状況によって変わる。

蕎麦
よし田


つまみから蕎麦まで
心惑わす品々で和む宵

●明治18年創業。銀座界隈では、最も古い歴史を誇る。蕎麦以外にも肉じゃが、このわた、塩辛など、居酒屋のごとくつまみが充実しているのが魅力。現在の店舗は昭和33年建築。佳き時代の情緒が残っており、銀座ながら気取った感は皆無。ゆるりとひとときを過ごせる。
●東京都中央区銀座7-7-8
TEL.03-3571-0526
営業時間/11:30〜22:00 土曜、祝日〜21:00 日曜定休 カード不可


よし田
  1. 明治の頃に考案されたというコロッケ蕎麦950円は、素揚げした鶏のしんじょがのっている。しんじょはしっとりなめらかかつ、軽やか。コロッケという名前に臆することなく、お試しを。甘みをたたえたつゆは、ほっこりした笑顔を彷彿させる。
  2. 活穴子を使った天ぷら1500円は、キス、季節の野菜などと合わせて。ぽきぽき折って食べる揚げた蕎麦が、大道さんのお気に入り。
  3. 卵を3個使い、ふっくらと焼き上がった玉子焼き800円は、心和む存在。
  4. 鴨の塩焼き1200円は、粗塩だけで炙る。シンプルなだけに肉の旨み、ネギの甘みがぐっと引き立つ。
 
 
PRESIDENT 2007年8.13号
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