ハーバード式 仕事の道具箱 [126]

「言葉にできない感覚」に重要な情報が隠れていることもある

なぜ「直感」を使うとうまくいくのか

 
 
photo
なぜかわからないけれど
「どことなくいやな感じ」がしたり、
「なんとなくいい」と思ったりすることは
ビジネス上でもよくある話。
これは「パターン認識」のなせる業だ。
その正しい使い方とは?
 
 
リチャード・ルエック = 文ディプロマット = 翻訳
 
 
アイコン

「なんとなく」何かを
決めてしまう理由

 危機的状況にあるか何かで、関連事実の収集・分析ができないうちに決定を下したという経験はないだろうか。「何もかも理にかなっているように思われるのに、どうも気に入らない」と思った経験はないだろうか。あるアイデアがとても魅力的に見えたので、十分なデータがないにもかかわらず、そのアイデアを推し進めたという経験はないだろうか。もしあなたにそうした経験があるとしたら、決定を下すうえで直感がなんらかの役割を果たしてきた、ということになる。

 直感、第六感、内なる声といったものは、事実の系統だった分析の助けを借りずに状況を読み取り、判断を形づくる心的プロセスである。直感は何よりも「パターン認識」の問題であり、頭の中に多くのビジネス・データが蓄積されていればいるほど、直感が過去の経験と現在の経験の有意なつながりを認識する可能性は高くなる。

 マサチューセッツ州のソフトウエア会社、チャールズ・リバー・ディベロップメント(CRD)の創立者で社長のピータ・ランベルタスは、これを次のように表現する。「ビジネスの直感は、現場に出ることで磨かれる。クライアントと付き合ったり、販売の現場に関わったり、市場と絶えず接触することで勘が働くようになる」。

 直感のプラス面は、「何かがおかしい」という有益な警告を発してくれるという点だ。マルコム・グラッドウェルのベストセラー『第1感──「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』(2006)は、ある彫像の興味深い話で始まっている。その彫像を本物と証明する多くの資料が存在していたにもかかわらず、それが偽物であることに芸術のプロたちが即座に気づいたのだ。

 直感にはマイナス面もある。直感の力を過信してしまったら、ビジネス上のあらゆる重要な決定に必要な「客観的分析」を省略してしまおうという誘惑にかられるおそれがある。

 もう一つの危険性は、「認知バイアス」によって決定が歪められるおそれがあることだ。たとえば、現在の状況は実際には過去の状況とは大きく異なるにもかかわらず、両者の間に有意な類似性を見出す間違った類比のために、決定を誤ることがある。

 直感をうまく利用するコツは、どのような場合に直感を信用するべきかを知ることにある。本稿では、直感が決定の助けになりうる二つの状況を紹介しよう。

アイコン

その1──
「嗅覚テスト」として利用する

 事実に基づく分析が本当に正しいかどうかを調べる手段として直感を利用しよう。客観的分析では「進め」と出ていても、直感が待ったをかける場合には、決定を保留するべきだと、ボストンのマーケティング・リサーチ会社、ウォレス・アンド・ウォッシュバーンの社長、キム・ウォレスはアドバイスする。

「論理的に納得でき、感覚的にもこれでよいと思えるようになるまで決定を先送りしよう。脳の両側、つまり論理の側と直感の側が一致しないときは、論理的観点からも直感の面からも同じ決定になるまで、別の情報源や別の人たちから情報やアドバイスを得よう」

 一例として、ウォレスは自分の会社で始めようとしていた新しい電子メールによるリサーチ・サービスのブランド名とロゴを直感で決めたときの経験を挙げる。そもそもウォレスは「人の心をとらえる名前とロゴでなければ、人々はわが社の電子メールを開いてアンケートに答えてはくれないのではないか」と思っていた。社内で候補に挙がっていた名前はいずれも知的観点からは理にかなっていたし、採用されていたらうまくいっていたかもしれなかったが、ウォレスにとってはどれも皆、何か、具体的にこれと特定できない何かが欠けていた。そのため彼は決定を先送りした。

 その後のある晩、彼は映画『グラディエーター』を観にいった。映画の中でシーザーと群集が(闘技の敗者を殺すことに賛成か反対かを示す身振りとして)親指を立てたり(サムズアップ)、下げたりする場面で、突然ひらめいた。「『これだ!』とね」。

 その後行われた「サムズアップ・リサーチ」という名前とそのロゴの市場テストは、ウォレスの直感が正しかったことを裏づけた。他の名前やロゴだった場合に比べて最高で5倍も高い回答率を引き出したのである。

 論理と直感が一致しないとき、その背後には何があるのだろう。『意思決定アプローチ―「分析と決断」』(1999)の共著者で意思決定の専門家、ジョン・S・ハモンドは、客観的分析と直感の対立は、分析で何か重要な点が見落とされていることを示唆していることがあるとしている。そのような場合は、もう一度証拠を見直し、そこから引き出された結論を再検討せよとアドバイスしている。

アイコン

その2──
人を採用するときの「参考」にする

 採用は直感が決定の助けになりうるもう一つの分野である。私は先だって6人の企業幹部に、最も難しいと感じる意思決定はどのようなものかと尋ねてみた。6人全員が、それは人に関する決定だと答えた。人の採用で間違った決定を下すことが一番多いというのである。

 採用の決定を間違えることが多いという彼らの話は、驚くべきことではない。履歴書は好印象を与えることを目的としており、紹介状は必ずしも真実を述べてはいないし、しかも多くの求職者は徹底的に準備しているので、彼らの答えはすべて当を得ているのだ。

 CRDのランベルタスは、こうした状況では直感に頼ることにしており、直感を他の情報源と併せて利用している。「履歴書も経験もよさそうに見え、紹介状も申し分ない候補者と面接しているとき、直感がこの人物はどうもしっくりこないと告げることがある。それが何なのか特定はできないけれど、何かがよくないわけだ」。

 人についての直感的印象は、採用時にはたしかに助けになることがあるが、(法的トラブルにまでは至らないにしても)まずい決定に導くこともある。多くの人が類似性のバイアスにとらわれて、人種、性別、社会階層などの点で自分と似通った人物を無意識のうちに選ぶ傾向がある。そのため、求職者について直感が告げることは、客観的評価と組み合わせることで調整する必要がある。

 ランベルタスによると、彼の会社では管理職ポジションへの求職者を評価する際には、採用担当幹部は「4つのE」を検討することにしている。「この人物にはエネルギー(energy)があるか」「この人物は他の人々を元気づける(energize)ことができるか」「この人物は計画を実行(execute)できるか」「この人物は強さ(edge)、すなわち困難な状況で成功するために必要なタフさを備えているか」である。4つのEは、直感的印象と組み合わせることで、直感で感じてはいるがうまく言葉にはできない候補者の特性を具体的にとらえるのに役立つと、ランベルタスは確信している。

結局「内なる声」に耳を傾けるべきか

 さて、内なる声が聞こえてきたときには、その声に耳を傾けるべきか。答えは「イエス」である。

 内なる声とその背後にある多くの経験や無意識の記憶を素直に受け入れよう。それと同時に、ロナルド・レーガンの有名な言葉「信頼せよ、されど検証せよ」の両方のアドバイスに従うことも忘れてはならない。

 
 
PRESIDENT 2007年7.16号
PRESIDENT 2007年7.16号
税込価格 650 円
売り切れ
 
PRESIDENT公式twitterアカウント

メールマガジン <プレジデントニュース>

 
 

「プレジデント」編集部員による取材現場でのこぼれ話やビジネスマンに役立つオリジナルコンテンツ、新刊書籍案内などを、週1回のペースでお送りいたします。

メールマガジン申込・登録変更