職場の心理学 [174]
ユニクロ式教育
「店長は2年でつくる」
入社してすぐに始まる管理者教育、幅広い仕事を経験させる「社内インターンシップ」など、
同社のスピード人材育成の仕掛けを紐解く。
ユニクロ大学とOJTの繰り返しが
短期育成を可能に
管理職の最大の要件は? と問われれば誰もが異口同音にマネジメント能力と答えるだろう。しかし、現実に管理職に起用する際にマネジメント能力が最も重視されているかといえば、必ずしもそうとは言い切れない企業も少なくない。彼はプレーヤーとして優秀だから課長になってもうまくやってくれるだろう、という曖昧な根拠と期待を込めて起用している企業がおそらく多いのではないか。
その背景には、自社の理念・価値観に根ざした明確なマネジメント像が確立されていないこと、もう一つはマネジメント教育を通じたアセスメントの不徹底がある。マネジメント研修といえば、管理職になって初めて実施する企業が多いが、本当に優秀なプロのマネジメントを欲しているのであれば、管理職になる前の段階で教育とアセスメントを通じて養成するべきだろう。
その点、多店舗展開する外食・流通企業では比較的若くして店長に起用するケースが多く、早期のマネジメント教育という観点では大いに参考になる。
ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングは売上高1兆円を目指して「大型店戦略」を推進中だが、全社的なメッセージとして「成長」を最大のキーワードに掲げるとともに、会社の成長を支える社員個人の成長を促す人事戦略を展開している。
「成長しなければ死んだも同然という強い成長志向が当社のDNAといってもいい。当然、個人の成長なくして会社の成長もないし、会社の成長なくして個人の成長もないという一貫した考えが根底にあります。ただし、成長するのはあくまで自己責任というのが大前提。誰かが成長させてくれるのではなく、会社は働くステージを提供するなど支援はしますが、成長のチャンスを掴みとるのは個人の責任です」(ユニクロの柚木治・人事担当執行役員)
近年は自己責任を振りかざし、社員の教育を現場に任せっぱなしにしている企業もあるが同社は違う。どうすれば成長できるのかというプロセスが可視化(見える化)されている点が大きな特色だ。同社は入社後の若い段階でビジネスの基本である店長を全員に経験させることにしているが、店長になるための教育を成長の基礎として重視している。
同社の店長は年間数億円の売り上げと従業員数十人を抱える責任者であるが、早い人でじつに入社後1年、平均2年で店長に起用されている。まさに短期速成型育成であるが、それを可能にしているのが「ユニクロ大学」と呼ばれる、内部の機関が保有するスキルや能力育成などの教育カリキュラムだ。この徹底した座学研修とOJTの繰り返しによって社員の成長を促す。
同社は近年400人強の新卒を採用している。うち8割以上が店舗に配属され、店長教育を受けるが、その内容は一般的な企業レベルをはるかに超える密度の濃いものだ。まず2泊3日の集合研修が半年後の10月までに4回実施される。一般的には入社直後の新入社員研修と10月のフォローアップ研修の多くて2回だが、同社は4回を通じて管理職教育も施す。
具体的には初回の研修は社会人としての自覚を促すマインド研修を中心に実施し、段階を踏みながら店長としての実務的な技能・スキルの学習を経て、最終回では採用を含めた要員計画などのマネジメントスキルを習得する。まさに「入社した途端に管理者教育が始まる」(柚木執行役員)仕組みだ。当然、新人にはカリキュラムをこなす自覚と努力が要求される。
「本来なら社会人として認められて、次のステップに進みますが、私たちは一緒にやります。店長候補という位置づけであり、社会人としての学習とマネジャーとしての学習を半分ずつ、このスピードで実施しますということを言ってあります」(橋本真一・人事部店舗人事チームリーダー)
集合研修で学ぶだけではなく、与えられた課題を現場で実践し、その結果を踏まえて次の研修で学習するというように座学とOJTを繰り返すことでレベルアップを図る。また、カリキュラムをこなしさえすれば誰もが店長になれるわけではない。日々の成果が毎月「業務評価」と呼ばれるチェックリストで評価されるが、それをクリアしなくてはならない。
評価シート上に店長に必要なヒト、モノ、カネに関する管理項目が設定され、それができているかいないかを×式でチェックする。まず本人が自己評価し、それを見て店長が評価し、その上の上司が最終評価を下す。仮に×をつけられた場合、所定のトレーニングガイドと呼ばれる教本にしたがって再び学習し、実践でその成果が問われる。当然、どの程度項目をクリアしたのかによって個々人の進捗状況は異なってくる。
そのうえで業務評価の結果を点数化し、一定の水準に達した者のみが店長の資格試験を受けることができる。つまり、毎月の業務評価と資格試験の二つのハードルをクリアしなければならず、その結果「早い人は1年で店長になる人もいれば、1年半、2年、あるいはそれ以上要するなどバラツキが発生する」(柚木執行役員)ことになる。
25歳店長が背負う重責は
プロのマネジャーへの近道
同社の店長は契約・パートなどの店舗スタッフの採用と教育、人事考課の権限を持つだけでなく、在庫計画に基づく発注権限を持つ。もちろん、人件費やテナント料、広告費を含めた経費も考慮に入れた利益責任も伴うなど権限も大きい半面、責任も重大だ。弱冠25歳の若さでそれらをすべて引き受けなければならない。
自身も入社後1年で店長になったという前出の橋本氏は「すごく大変ですし、逃げたい、辞めたいと思うこともあります。しかし、若いから、経験がないからという理由で責任ある仕事を与えられないよりは、店長を任せてもらえることにモチベーションが喚起され、自分も成長したいという貪欲な人が集まってきている」と指摘する。
若くして店長の重責を担わせるという同社の戦略は、近年増えている、現場での“修羅場の体験”を経験させてプロのマネジメント職を養成する手法に近い。店長職をビジネスの基本と位置づける同社はその後のステージも用意している。もちろん、本部の管理部門やマーケティング、生産をはじめ海外事業部門で活躍する道も開かれているが、店舗営業系の職階では店長の上がスーパーバイザー、その上がブロックリーダーになる。
スーパーバイザーは6店舗程度を統括するマネジャーであり、ブロックリーダーは全国15ブロックの一つを統括し、約50店舗、売り上げ約300億円を預かる営業総責任者である。ちなみにスーパーバイザーへの昇進は早い人で26歳、平均で30歳。ブロックリーダーは早い人で28歳、平均でも32歳という若さである。
また、同社のユニークなところは、こうしたライン職とは別に専門の店舗経営職のコースを人事制度上に位置づけている点だ。スーパー(S)店長とスーパースター(SS)店長の二つに分かれ、本人の実績と能力によって格付けされる。通常の店長と違い、発注や在庫の調整権限が大きく、給与体系も他の店長より業績に対する変動幅が大きくなるように設計され、高い業績を上げればそれだけ報酬も増える仕組みである。店長として一定のレベルに達したと評価されれば、このコースを選択することも可能だ。さらにSS店長の中で審査に合格すれば、同社のフランチャイズ(FC)店として独立する道も開かれている。
社員の報酬も年齢に関係なく、本人の実力に応じて決まる仕組みだ。同社の給与体系は職責と役割に基づく10段階のグレード給(月給)と業績を反映した賞与で構成される。グレードの「昇格」と賞与は評価によって決定されるが、スーパーバイザーまでは店長と同様に面接と筆記による試験が課され、合格すれば昇格と同時にグレード給も上がる。
評価は行動評価と業績評価の二つに分かれ、行動評価は「グレードごとに要求されるマネジメント能力、全社への影響力、会社の改善についての情報発信力などの各項目についての総合評価を行う」(柚木執行役員)仕組みである。業績評価は売り上げ、利益、人材教育などの評価項目に基づいて査定される。評価は半年に1回行われ、昇格のチャンスが年に2回あるだけでなく、評価結果しだいでは2階級“昇格”もある。半面、降格もあるなどアップダウンも激しく、社員は日々実力の発揮が問われる。会社はチャンスを提供するが掴みとるのは個人の責任という考え方がここでも貫かれている。
前述したように店長を経験しても必ずしも店舗営業系の世界を歩くだけではなく、様々な職種・職場で活躍できる道も用意している。
「本部のいろんなセクションをはじめ海外で働くこともできれば、ファーストリテイリングのグループ企業の中で活躍することもできます。いろんな経験ができるということが個人の成長につながりますし、社員にいろんな選択肢を提供することを会社の方針としています」(柚木執行役員)
社内インターン制度で
他部署を1カ月体験
自らの希望により好きな部署に異動できる仕組みの一つが年2回実施している社内公募制だ。社内イントラネット上で公開される各部署の人材募集に応募し、レポートと面談により合格すれば異動できる。さらに今年から社内の人材交流を活性化すべく導入した仕組みが、「社内ローテーション制度」と「社内インターンシップ制度」である。
社内ローテーションとは、1年間の期間限定で本部などの他の部署に異動し、仕事を経験するものだ。本人の申告に基づき異動部署と面接して決定するが、場合によっては1年過ぎても、双方が合意すれば“社内移籍”となる可能性もある。社内インターンシップは、1カ月間限定で他の部署での仕事を経験する。働いてみたい部署を第3希望まで出すが、これは全社員に実行してもらうことを考えている。
「店長をやるうえでも本部のいろんな仕事を知り、視野を広げてほしいという思いがあります。また、店舗と本部のコミュニケーションの活性化や人的ネットワークをつくってほしいという期待もあります。いろんな情報やチャンスを与えて個人の成長を促そうというのが最大の狙いです」(柚木執行役員)
店長というマネジメントの基礎的訓練をベースにあらゆる部署での経験を通じて個人の成長力を高め、その果実が会社の成長に直結するというのが同社の人事戦略の基本にある。また、正社員の成長力促進のみならず従業員の多くを占めるパート・契約社員の活性化にも取り組む。
同社は今年4月からパート、アルバイトなどの店舗スタッフを正社員に登用する「地域限定正社員制度」を導入した。従来から契約社員の店舗スタッフを正社員に登用する仕組みはあったが、優秀な女性であっても転勤があるために応募者が少なかった。今回導入したのは転勤がなく、地域に限定した社員と位置づけることで「有能な人材にもっと活躍してもらう仕組みとして導入した」(柚木執行役員)ものだ。
導入にあたり、スキルや技能に応じて昇格・昇給していく地域限定正社員独自の賃金体系を構築。店長への昇進も可能であり、さらに地域限定正社員から転勤のある社員への道も開かれている。同社には店舗のパート、アルバイトの総数が約2万人いるが、うち5000人のフルタイム勤務者を2年かけて順次地域限定正社員に移行していく計画である。
正社員、地域限定正社員、パート、アルバイトといった多様な雇用形態を抱える流通業にとっては、個々の従業員の役割に応じた能力をいかに開花させ、戦力化することが人事戦略上の最大の課題といえる。同社の取り組みは、正社員に限らず、従業員個々のモチベーションを刺激する多様なチャンスを提供することで個人の成長を促そうという好個の事例といえるだろう。











