ハーバード式仕事の道具箱 [125]
メンバー同士の「縄張り意識」を乗り越えるには「合意」が不可欠だ
多国籍チームが「一丸となる」三つのカギ
チームを率いるマネジャーの悩みは深い。
なぜなら失敗したときに失うものが、
より大きいからだ。
どうすれば個々人の才能、気質、利害を
一つにまとめて成果を出せるのか。
国境を超えたチームが効果的に機能できない場合には、会社のブランドイメージ、拡大計画、顧客基盤、サプライチェーン、販売ネットワークのすべてが痛手を負うことがある。
グローバルに事業を展開しているフォーチュン1000企業の無数のチームに対してコンサルティング業務を行うなかで、われわれは、文化的・地理的制約を超越した成果をあげるチームを築くためには、次の三つの分野で共通理解を達成することがきわめて大切だという認識に至った。
・戦略・執行目標
・役割と責任範囲
・意思決定要領
本稿では、さまざまな産業のさまざまな企業のグローバルチームが、価値を高めるためにどのようにして合意を達成し、その潜在的な力をフルに発揮してきたかをお伝えする。
(1)戦略・執行目標について合意する
数年前、わが社のクライアントだった世界的な消費財メーカーで、こうした認識の相違が重大な事態をもたらしたことがある。この会社の北米の幹部チームとヨーロッパの幹部チームが、世界全体の戦略を決めるために会議を開いた。北米チームは提案されたばかりの新しい戦略を支持した。ヨーロッパチームは合意しているように見えたが、じつはそうではなかった。
会議が終わって両チームのメンバーが各自の事業所に戻ったとき、北米チームが持ち帰った戦略の前提とヨーロッパチームが持ち帰ったそれとはまったく別個のものだった。当然ながら、作成された製品開発計画や販売計画は大きく異なっていた。「合意のように見えるもの」は合意と同じではない。この会社はこのことを苦い経験を通じて学んだ。わずか18カ月足らずのうちに、この会社の新製品パイプラインは空っぽになり、製品化までにかかる時間は業界の標準より30%も遅くなっていたのである。
時間がかかっても
誤解は最初に解いておく
グローバルチームが会社の戦略に本当に同意しており、その戦略が業務執行にどのような意味合いを持つのかを理解しているか否かを調べるためには、チームのメンバーに次のような質問をしてみるとよい。
「われわれの戦略は、次の事項について何を伝えているか」
・今後提供する(また提供しない)製品やサービス、およびそれぞれに置く相対的ウエート
・今後対象とする(また対象としない)市場や顧客集団やセグメント、およびそれぞれの市場・顧客集団・セグメントに置く相対的ウエート
・将来必要となる人的資源や資本資源
・将来期待される財務の向上や成長
「われわれの年間計画、長期計画、および予算には、われわれの戦略・執行目標がどの程度反映されているか」
それぞれのメンバーに答えを書かせ、それからチーム全員で議論させよう。この作業は、ずいぶん時間がかかる場合もあるが、誤解や認識のズレを表に引き出すことができるので、時間をかける価値は十分にある。
(2)役割と責任範囲について合意する
グローバルチームの中では役割や責任範囲が重なる危険性が急激に高くなる。われわれがコンサルティング・サービスを提供した、ある大手ヘルスケア企業のグローバル人的資源担当副社長は、次のように語る。
「地域プレーヤーは強い縄張り意識を示すことがある。彼らは、グローバルな成長を推進する最善の方法は自分の地域を成長させることだと考える。だが、グローバル・カテゴリーの責任者は、グローバルな成長を推進することに責任を負う人々だ」
われわれはこの会社のチームに、各メンバーの責任範囲を理解させるためにそれぞれの役割を明確化する作業を行わせることにした。
まず、メンバーに次の二点を質問した。「自分の役割と責任範囲についてどの程度明確に把握していますか」「他のメンバーの役割と責任範囲についてどの程度明確に把握していますか」。
それからひとりひとりに、自分の仕事をさらに詳しく他のメンバーに説明するよう求めた。その後で、他のメンバーに意見を求めた。「皆さんはこの説明に同意されますか。それとも、この人の役割と責任範囲について別の認識をお持ちですか」と。それに続いて交わされた議論から、いくつかのズレが浮き彫りになった。
こうした作業は、メンバーの役割の見直しにつながり、結果的にすべてのメンバーの利益になる。
(3)意思決定要領について合意する
意思決定のスピードと効率を高めるために、チームは意思決定のルールをつくり、それについて合意しなければならない。たとえば次のような点は、あらかじめ明確にしておくべきだ。
・決定は単独でなされるのか
・決定は協議によってなされるのか
・決定は総意によってなされるのか
メンバーはどの意思決定方式がどの状況に適用されるのかを知っておく必要がある。さもなければ、混乱や不快な感情やごまかしが生じることになる。
意思決定のルールを決める際には、チームが下す必要のあるすべての決定をリストアップし、それらを人事、予算、販売、新製品等のカテゴリーに分類するとよい。その後で、各カテゴリーの決定を最もうまく下すにはどうすればよいかを決めるのだ。
特定の状況での決定の下し方を決めることに加えて、チームのリーダーは、誰が決定を下すのかも決める必要がある。たとえば、キネティック・コンセプツ(テキサス州)のCEOキャサリン・バージクは、以前、アプライド・バイオシステムズ(AB)(カリフォルニア州)の社長を2年間務めていたが、彼女はそこで、15人の副社長で構成されるチームのために次のような意思決定要領を定めた。
「戦略レベルの決定はすべてメンバー全員によって下され、より低いレベルの決定はサブチームに任せる」
バージクの最も効果的なサブチームのひとつが、四つのグローバル事業部門の社長で構成される評議会だった。評議会のメンバーを「結果に直接責任を負う人々」に限定したことで、現場に最も近い人々が、重要な観点を吟味したうえで決定を下す仕組みができた。
「後戻り」をさせないルールづくり
いったん決定が下されたら、それを批判したり覆そうとしたりしてはならないという「後戻りなし(no hands from the grave)」ルールを設けることが役に立つ。このようなルールがない場合には、混乱や対立が起きやすい。
われわれはかつて、ヨーロッパのアパレル企業九社で構成されるパリの大手国際企業と仕事をしたことがある。これら九社はいずれも独立した事業体だったため、市場でたびたび競合した。九社の社長で構成される執行委員会の会長は、会長になって間もないころたびたび遭遇した混乱に対処するため、「後戻りなし」ルールを導入した。
それぞれの会社がどのスタイルを提供するかについて執行委員会で合意が成立したものと思っていたのに、後になって一社の社長から、別の会社が合意に違反しているという半狂乱の電話を受けることがよくあったのだ。違反した社長は決まって、「合意に従っていたら自分の会社の利益が落ち込んでしまう」と文句を言うのだった。
そこで彼は、執行委員会のメンバーを説得して、決まったことは決まったことという原則に従うことに同意させたのである。それ以後、社長たちは、揺るぎない合意が成立して議事録に記録されるまで散会しないようになった。後から批判したり過去に遡って変更したりすることもなくなった。
合意は単なるお題目ではなく、効果的に業務を遂行するチームの欠かせない要素である。戦略・執行目標、役割と責任範囲、意思決定要領という三つの主要分野で合意を達成することにより、メンバーの能力とエネルギーを縄張り争いやごまかしにではなく、会社の目標を推進することに注ぎ込むチームを築くことができるのだ。
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