人に教えたくない店 [366]

料理の写真でなく、主人の顔写真で
行く店を決めています

林家正蔵さん

 
 
林家正蔵 = 談
Shozo Hayashiya
はやしや・しょうぞう●
1962年、東京都生まれ。前名は林家こぶ平。高校入学と同時に落語協会入り、卒業時には二ツ目に昇進する。87年には真打ち昇進。祖父・七代目正蔵、父・三平に続き、親子三代にわたっての真打ち昇進は史上初の快挙となる。その後は落語界だけにとどまらず、テレビ、映画、舞台などで活躍。2005年、九代目・林家正蔵を襲名。春風亭小朝、笑福亭鶴瓶らと、東西所属団体の垣根を越えて落語界の将来を真摯に考える「六人の会」を結成。その精力的な姿勢は昨今の落語ブームの牽引役的存在である。
須藤靖貴 = 構成浜村多恵(ストロバヤ)、馬場敬子(弁天) = 撮影
 
 

 顔はごまかしが利きません。そんなことを、料理に絡めまして。

 正蔵を襲名して2年。少しだけ自分を客観視できるようになったと思えるのです。いい噺をするために、うんと稽古しようと苦しんでいる自分。それを見るのが面白い。

 同時に、食事の感覚も変わってきました。店や料理を含味するようになってしまった。欲張りなもので、味以外のなにかを吸収したいと思いはじめたんですね。「うまいな」といった感想が、「悔しいな」「負けてるな」という具合に変わってきた。こちらの思う水準を超えられると「悔しいな」と口に出るんです。

 足繁く通う店ですと、いろいろなものが目に入ります。たとえば厨房で奮闘する二代目の姿。伝統の味を守るとか、時代と共に柔軟に変化していくとか、お店の空気の移り変わり、人間ドラマのようなものが見て取れる。そういう苦闘ぶりが料理や店の空気に表れるんじゃないかと。私も同じような情況にいるものですから、同世代のシェフがいい仕事をすると、「悔しい」と思ってしまう。自分もお客さまに「いい噺が聞けた」と思われたいし、期待以上の噺をして「悔しいねぇ」なんて言われたい。そんなことを考えてしまいます。

 今はグルメ雑誌で情報を仕入れることも多い。選び方にちょっとした工夫がありまして。料理写真は美味しそうに撮ってあるに決まってますから、店主の顔写真を見るんです。顔はごまかしが利きません。「この人の作る料理なら」と思えば出かけます。どんな顔がいいかと聞かれても難しいのですが……ただ実直で一所懸命な感じではなく、なにか一癖も二癖もありそうな。そんな人の料理は期待できる気がします。これも噺家に似ていますね。

「ストロバヤ」は居心地も味も最高です。ご主人の顔も(笑)。ベースはロシア料理ですが、いろいろと工夫がある。ロシア料理という看板に寄り掛からず、食に対する探求心が深い。美味しくて、勉強になります。

 浅草で寄席がはねたあと、みなで蕎麦を啜るなら「弁天」です。蕎麦はもちろんうまいし、酒のつまみもいける。丼ものもいい。全部がしっかりとうまいから、誰もが満足できます。実力があるのにあまり飾り立てない雰囲気が好きなんです。

ストロバヤ ロシア料理
ストロバヤ
ロシア料理に
フレンチ風アレンジを加えた
創意工夫が光る

●浅草で30年。大学工学部で学んだという秋山司郎氏は創意工夫のオーナー。ロシア料理をベースにフレンチ風アレンジを施す。生粋の浅草っ子であるマダムのサービスも気持ちがよい。
●東京都台東区西浅草2-15-8
TEL.03-3841-9025
営業時間/11:30〜22:00(休憩15:00〜17:00、21:00LO) 木曜休 昼は1890円〜 夜は3150円〜 「ツボ焼き・キャベツロールコース」はデザート、飲み物付きで5250円。


  1. 自慢の「キャベツロール」(1470円)。牛ひき肉と炒めた玉葱をキャベツで巻き、四角いバットに隙間なく敷き詰めて10時間、特製トマトソースで煮込む。コク深いのにさっぱりとして、手札サイズ2個のボリュームでもペロリと食べられる。
  2. 「ボルシチ」(630円)。牛バラ肉、鶏ガラで一日かけてスープを取る。脂を丁寧に掬っていて、濃厚さのほどがよい。
  3. 「森の茸とカニのツボ焼き」(1470円)。中身は4種類のきのことカニのホワイトソース。グリエールチーズのコクが豊か。
  4. 来客がほぼ注文する「ピロシキ」(2個735円)。皮が薄くて牛ひき肉がぎゅっと詰まった本格派。

そば
弁天
「ざる」と「もり」で
蕎麦汁を変えるほど
繊細な気配りあふれる
創業50年の老舗

●「見番」(芸者派遣の組合)の目の前にあり、今も芸者さんが店の暖簾を潜る。閉店時間が遅いのは客のニーズに応えるため。店主・宮嶋優介氏以下の家族のサービスが温かく、50年の老舗とはいえ一見客でも居心地がいい。
●東京都台東区浅草3-21-8
TEL.03-3874-4082
営業時間/11:30〜22:00(21:00LO。日曜は21:30まで) 水曜休 「牡蛎南蛮」(冬限定)「冷しぶた南蛮」などオリジナルも人気。


弁天
  1. 玉子焼き(1000円)は「おまけもの」と店主。卵6個に出汁や味醂を入れて焼き上げる。ふっくら柔らか。
  2. 名物「にしん煮」(850円)。身欠きにしんを秘伝の汁で一日煮る。濃色だがしつこくなく、食感はふわり。お酒が進む心憎い肴。
  3. なんといっても蕎麦だ。香り、歯応え、喉ごし申し分なし。人気の天せいろう(上1500円)。蕎麦汁は「もり」と「ざる」とで違う。鰹節の風味を引き立てた「もり汁」に返しと味醂を加えてコクを出したのが「ざる汁」。どちらも味わい深く、ざるに「もり汁」を注文する常連も。
 
 
PRESIDENT 2007年6.18号
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