職場の心理学 [166]

営業「日本一 vs 世界2位」
クロージングの決めゼリフ

 
 
営業パーソンが確実に実績を伸ばしていくには、
相手が自分の意思で決断を下すように導くシナリオづくりと、
シナリオ中のプロセスごとに相手の気持ちを確認する
決めのセリフを持っていることが大切となる。
 
 
ノンフィクションライター・翻訳家
野崎稚恵 = 文
Chie Nozaki
のざき・ちえ●
1967年新潟県生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。証券会社のディーラー、トレーダー、雑誌編集者を経て独立。経済、金融、経営分野で活躍中。翻訳本にレイ・クロック自伝『成功はゴミ箱の中に』がある。
高橋常政 = イラストレーション
illustration by Tsunemasa Takahashi
 
 

ヒアリングで聞き出しておきたい
三つのポイント

 顧客に決断を迫るクロージングとは、商品やサービスの説明を行い、納期や金額等を確認し、「よし、買おう!」と顧客に決定してもらうための最終プレゼンテーションの場ともいえる。ここで、いかに相手の不安を取り除き、喜んで購入したいと思わせることができるか否かは営業パーソンの手腕にかかっており、また、そこへ至るまでには、おさえておくべき様々なプロセスがある。

 リクルート社員時代、情報通信・ネット・広告関連商品の営業で6年連続トップセールスを記録したセレブレイン社長高城幸司氏、英語学習プログラムを販売するブリタニカで、世界142社中2位の販売成績を収めたペリエ社長和田裕美氏という、豊富な営業経験の中で輝かしい実績を誇るお二人に、相手の意思を確認し、購入へと促すクロージングの決め台詞と、七つのプロセスにそって重視すべき点を聞いた。

●シナリオをつくる

 準備段階として、相手先に訪問する前に、商談のゴール地点を明確にしておく。初回訪問の場合なら、「提案書を渡し、その内容を完全に理解してもらう」など、訪問の目的を定め、自分の話したい内容と、相手から予測されるリアクションへの対策をあらかじめ準備しておく。「シナリオを複数用意して商談に臨むことができれば、想定外の事態が起きても説得力ある切り返しを行うことが可能です」(高城氏)。

●自己紹介する

 初回訪問では、まず、自分が何者なのかをきちんと伝える。さらに、訪問の目的(例「今日は御社の売り上げ拡大のお手伝いをするためにお伺いしました」)、この商談にかける自分の熱意(例「御社のビジネスモデルに非常に興味があります。ぜひ御社と一緒に新しいビジネスに関わっていきたいんです」)、過去の実績という3点を会話に盛り込んで、相手の注意を喚起しつつ、打ち解けた雰囲気をつくるアイスブレークを行う。

 ここで気をつけるべきなのは、自己ピーアールしすぎないこと。「売りたい気持ちが先行するあまり、押しが強すぎる営業パーソンは、たいがい相手に引かれ、警戒されてしまいます。簡潔に自己紹介をすませたら、ヒアリングに入りましょう」(和田氏)。

●ヒアリングを行う

 ヒアリングを始める前に、「御社の事業戦略に最適なご提案をするため、御社の状況について詳しく伺いたいと思います」「お時間は約30分程度、5〜6個の質問をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」と趣旨を簡潔に説明して、相手の警戒心を解く。続いて、

(1)相手が困っていること(たとえば、現在のスタッフの人数では、仕事量が多すぎて捌ききれないなど)

(2)決裁までの流れ・手続き(誰が稟議を上げ、誰が決裁するのか、キーマンはどこまでの権限を持っているのか、それぞれのプロセスで、どれくらい期間が必要か、キーマンの判断基準など)

(3)自社にとっての競合(○○の分野で相手が最も信頼している企業名、その企業を評価する理由、その企業を超えるために必要な要素など)この3点において相手の状況を詳しく聞き出すことに成功すれば、ここで抽出した課題をベースに、事業戦略に最適な提案を行うことが可能となる。

「留意したいのは、自社の商品やサービスの導入を前提とした質問は行わないこと」と高城氏はいう。なぜなら、限定的な質問をされてしまうと、抱えている本質的な課題や潜在ニーズにまで思考が及ばない可能性があるからだ。よってヒアリングの段階では、テーマを絞らずに質問を投げかけ、自由に回答してもらうのが望ましい。

●提案する

 ヒアリングで得られた課題をもとに、後日、顧客に対し説得性の高い提案を行う。ここでのポイントは、(1)オーダーメードの提案になっていること、(2)誰が読んでも理解できる提案になっていること、この2点だ。「この提案は、お客様の現状や今後の戦略に合わせたオーダーメードになっています」と自信を持って伝えられるものでなければならない。また、専門用語だらけの難解な説明では、せっかくよい内容を考えていたとしても、相手にはまず伝わらない。相手にぜひ利用したいと思わせる、リアルでわかりやすい提案を行うよう心がけるべきだ。さらに、「シーンをビジュアル化して見せつつ、『イメージしてみていかがでしょう?』と利用をシミュレーションしてもらうよう促すのも効果的です」(高城氏)。

「『これを購入することによって、あなたの生活がこんなふうに便利になります』というように、どんなふうに役に立つものかを具体的に言葉で伝えると、よりイメージが描きやすいでしょう」(和田氏)

●修正作業を行う

 商品を提案した後、そのままスンナリ契約を結ぶというケースはほぼ皆無だ。通常、ヒアリング時に相手は思いつくままに多くの要望をいうものである。それをすべて反映して作成した提案書を持っていくと、大概相手の予算をオーバーしていたり、不要なものまで入っていることがある。提案に対し、相手の反応がイマイチな場合、「この提案は御社にフィットしていますか?」「修正が必要であれば、どのあたりですか?」と具体的な問題点を確認する。「もう少しここの予算を削りたい」「この部分をもう少しこうしてほしい」といった要望が先方から上がってきたら、それをもとに、直ちに提案を練り直す。こうした修正作業を何度も繰り返しながら、ようやく契約へとたどり着くのが一般的なケースである。

 このとき、相手からの「ノー」の言葉に過剰に反応してしまう営業パーソンがいる。たとえばヒアリングをして作成した企画書に修正を求める相手に対して、「いや、いわれたとおりに作りました」と譲らない、あるいは「すみません」と謝ってしまう人がいるが、それはまったくの見当違いだ。

「ここで大事な点は、必要なものを絞り込み、不要なものを捨てるという作業をお互いに意見を交換し、確認しながら行うことです」(高城氏)

「納期、金額、クオリティ、この中で優先順位をどうつけるか、最終的な判断は相手に行ってもらうべきです。相手が自分の意思で決断を下すということが重要ですが、そこへ導くためのシナリオを、事前に複数準備しておくことが望ましい」(和田氏)

●障害の芽を摘み取る

 社全体のスタンスをきちんと捉えておかないと、ドタン場でひっくり返されてしまうこともあると高城氏は警告する。これらの確認を怠らないと同時に、相手の本気度がどのくらいなのか、躊躇せず確認すべきだ。

「『御社と取引を行いたく、本気でご提案したいので、単刀直入に伺います。今回の件で、弊社との競合はありますか? この案件において、社内の優先度はどの程度なのですか?』と、私ならストレートに質問します」(高城氏)

 提案内容に満足してもらい、色よい返事がもらえたとしても、喜ぶにはまだ早い。「自分の決断に不安を感じている」「提案内容を完全に理解していない」「時期的な問題がある」といったボトルネックがある可能性も考えられる。高城氏によれば、不安材料を打ち消し、購買意欲を自然と促すのは次のフレーズである。

「導入後も我々が全面的にサポートしますのでご安心ください」「御社に損をさせたら私たちも信用を失います。絶対にそんな事態は招かないようにいたしますからご安心ください」

 一方、本当は買うつもりがないのに、断るのが悪いからとズルズル引き延ばすという相手もなかにはいると和田氏。

「状況を判断したうえで、『ほしいか、ほしくないか、いま決めてください』と聞くことが望ましい場合もあります」(和田氏)

●イエスといわせる

 会社内での立場によって、相手の心に響くフレーズは異なってくる。たとえば現場担当者には、「作業負荷がぐっと減ります」「作業時間短縮のこんな機能がついています」と、日々の業務に関わる部分を重視する。一方、決裁者に対する場合は、「○%のコスト削減が期待できます」「導入しない場合、万が一の際に○○○万円の損害が発生することも考えられます」というように、収益に関連するフレーズを前面に出す。

 両方の心に刺さるものとするなら、「○○の機能によって、業務が大幅に効率化できます。これを人件費に換算すると、年間○○○万円のコスト削減効果が期待できます」と、メリットを業務・コストの両面からアピールすべきだ。

マニュアルを説明するだけの
営業パーソンは必要ない

 一般的に、商売という言葉にはどちらかが得をする=儲ける、というニュアンスがある。しかし、「接点」という発想を用いることで、スムーズに、ビジネスベースに商談を乗せることができると高城氏はいう。「ウィン=ウィン」の関係を構築するということを相手にアピールし、両者に共通したメリットがあると説得することに成功すれば、その接点によりパイプを広げることで、お互いが得をすると感じさせることが可能となる。

「相手も、自分もお互いハッピーになれる提案ができればベスト。このビジネスには双方にメリットがあるということを、相手にきちんと理解してもらうべき。それができれば、相手は気分よくイエスといってくれるはずです」(和田氏)

 こうしてみると、営業パーソンには、相手の状況に応じて、臨機応変に対応するコミュニケーション力が不可欠だということがわかる。

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「しかし、マニュアルでしか説明できない営業パーソンが多いというのが現実です。人の気持ちを察する力が乏しく、ひたすら商品の説明ばかりしてしまう営業パーソンは少なくありません。話がかみ合わないまま商談がダメになっても、彼らには原因さえわからないはずです」(高城氏)

 マニュアルに書いてあることを説明するだけなら、営業パーソンなど必要ない。相手の心を読み、理解したうえで行動してはじめて、互いの距離が近づき、商談が前に進むものだ。

 営業とは、相手の心理を読み、しなやかに相手に合わせながら、自社の利点を相手に訴求していくことなのではないか。顧客が何を悩み、どんな問題に直面しているのか。それを読み、理解したうえでセールスすれば、相手の心にまっすぐ響くはずだ。いったん人間関係を構築しておけば、リピーターとなってくれる確率も高まり、万一リスクが生じたとしても、被害を最小限に抑えることができる。

 営業の成否を左右するのは「手腕」よりも「姿勢」である。自分さえよければいいという考え方から、相手のために努力するという考え方にシフトできれば、それだけ相手からイエスをもらえる確率も高まるだろう。

参考:『法人営業のすべてがわかる本』(高城幸司)、『営業脳をつくる! 和田式「営業マン特別予備校」5日間トレーニング』(和田裕美)

 
 
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