職場の心理学 [164]

1000人アンケートで判明!
営業現場と経営幹部の深い溝

 
 
経営層は、実際には現場を把握しているのだが、
現場は「上は理解してくれない」との強い不満を持っている。
なぜこのような深い溝はできるのか。
そして、どうすれば埋めることができるのか。
その答えは数字の話ばかりになりがちな、「営業会議」に隠されていた。
 
 

カーナープロダクト代表取締役
横田雅俊 = 文
Masatoshi Yokota
よこた・まさとし●
長野県生まれ。設計士として活躍後、外資系ISO審査機関にて営業職を経験。最年少、最短、最高記録を更新し、世界八カ国2300人のトップセールスになる。営業に特化したコンサルティング・トレーニングファームとしてカーナープロダクト設立。近著に『1000人のトップセールスに学ぶ「売れ続ける会社」の営業法則』。


面澤淳市 = 構成

高橋常政 = イラストレーション

ライヴ・アート = 図版作成

 
 

目標を共有しても
なぜ現場とトップは
歩み寄れないのか

 社長「われわれ経営陣はこのような考えで営業方針を立てている。ところが現場は、われわれの意図をなかなか理解しようとしない。まったく、どうして伝わらないのか……」

 営業マン「うちの会社はやることが場当たり的で、ライバルの後手にまわることが多い。それは現場の声が上に届いていないから。もう何を言ってもムダだと諦めていますよ……」

 私は営業に特化したコンサルティングおよびトレーニングファームを主宰しているので、経営者や現場の営業マンから営業に関する話を聞かせていただく機会がたいへん多い。そのなかで常に気になっているのが、たいていの会社で、双方の口から冒頭に紹介したような“嘆き節”が飛び出してくるということだ。社長など経営層と現場の営業マンとの間には、どの会社にもほぼ共通して、このような意識のギャップが存在しているのである。

 もっとも、私のような第三者の立場から判定させてもらえば、両者は決して対立しているわけではない。たいていの場合、社長も営業マンも「会社をよくしたい」「会社を儲けさせて、自分も報酬をたくさんもらいたい」という思いは共通している。ということは、社長と営業マンの意識のギャップをうまく解消すれば、もっと効率よく「会社を儲けさせる」という共通の目的に到達できるのではないだろうか?

 このような仮説のもと、当社では、顧客企業を中心とした1064人(社長を含む経営層と現場の営業マン)を対象に、数年前からアンケートを取りはじめた。

 その結果、両者には意識のギャップが確実に存在していることが明らかになったほか、どうすればそのギャップを解消できるかのヒントを抽出することができた。

 まず、最もギャップを感じさせられたのは以下のような設問である。

「マネジメントは(注・経営層に対しては「あなたは」と質問)営業の現場を知っていますか?」

 経営層(社長・会長および常務・専務などの役付役員)の場合は、当然ながら86.4%もの人が「YES」と答えている。これに対して「NO」は9.2%、「どちらとも言えない」は4.4%にとどまった。

 同じ質問を一般の営業マンにぶつけたところ、「YES」は5.2%、「どちらとも言えない」も3.4%に過ぎず、大多数の91.4%は「NO」と答えるという正反対の結果が出た。

 では、現実に経営層は営業現場を把握しているのだろうか?

 公平に見れば「把握している」というのが適当だろう。具体的には社長自身が個々の営業マンと面談することもあれば、営業部長が面談してデータだけ経営層にあげているといったケースもある。いずれにしろ、経営層はさまざまなルートから営業現場の把握に努めているのだ。

 むしろ問題なのは、経営層が「把握している」事実が、なぜか営業現場には伝わっていないということだろう。

 一方、営業マンは、当然ながら経営層にあげるべきお客様の声や現在の課題、会社が抱える営業手法の問題点などを知悉している。ところが、それを伝えるための機会や手段がないので、せっかくの情報が生かされていないと感じている。だから9割以上がこの設問に「NO」と答えている。

「たまに思いつきで会社がアンケートを取るとかヒアリングをすることはある。しかし、その後のフィードバックがない」

 私自身がさまざまな営業マンと接触して話をうかがったところでは、このような不満を漏らす人が非常に多い。営業マンは現場情報を上層部に伝えるルートが閉ざされていると感じているのだ。

 経営層も営業マンも「情報を共有してみんなで効率よく営業をしよう」という同じ思いを抱いている。しかし現実には情報を共有できていない(と感じている)。いわばコミュニケーションのパイプが詰まっているのである。

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 その結果、現場の営業マンは「うちのトップは現場を把握していない」と思い込んでしまう。この状態を放置しておくと、やがて「現場を知らないトップに何を言ってもムダだ」という雰囲気が醸成され、問題点や改善点が見えているのに、上へ報告しない無責任体質ができあがってしまうだろう。

 そうなると、さまざまなことを隠蔽する風土が生まれ、最悪の場合には、トップも気付かないうちに問題点がどんどん蓄積され、不祥事というかたちで一気に爆発するおそれがあるのだ。

利益を追求するトップ、
ノルマしか見えない営業現場

 もうひとつ例を挙げよう。

「商品と価格のバランスは適切だと思いますか?」

 やはり経営層と営業マンとの間で対照的な回答結果が出たのが、この質問である。回答が「NO」または「どちらとも言えない」の場合は、その理由をあわせて尋ねた。

 経営層では「YES」、つまりバランスは適切だと答えた人が42.4%いたのに対して、「NO」は21.3%にとどまり、「どちらとも言えない」は36.3%だった。

 他方、営業マンは33.1%が「YES」と答え、「NO」は44.3%。「どちらとも言えない」が22.6%となった。

 注目したいのは「NO」の比率の違いである。経営層と営業マンとで倍以上の開きがある。さらに、なぜ「NO」と考えるのかという理由を分析すると、それ以上に深刻なギャップのあることが見て取れた。

 たとえば経営層はなぜ「NO」と答えるのか。これはおおむね次の三つのパターンに分類できる。

(1)いまの価格では採算に合わないから

(2)いまの価格は価格競争に巻き込まれた結果であり適正ではないから

(3)下請けであり自社に価格決定権がないから

 いずれにしても「適正価格に比べて安すぎる」という前提に立っている。

 これに対して、営業マンが「NO」と答える理由を三つに集約すると、次のようになる。

(1)競合他社に比べて高いから

(2)値段で競り負ける案件が多いから

(3)あまり考えたことがない

 こちらは「適正価格に比べて高すぎる」という見方である。つまり、完全に視点がズレている。経営側は経営側の視点だけ、営業マンは営業マンの視点だけでものごとを見ている。

 こういう回答が出てくる会社では、「指示を下に降ろす」あるいは「情報を上にあげる」といった場面でも、相手の考えを理解せず、一方的に伝えようとしているのではないだろうか。

 そこには「営業マンはこう思っているのだから、こういう言い方をすればみんなが理解できるはずだ」、あるいは「社長の視点で考えれば、こういうことを言えばわかってもらえるんじゃないか」という想像力が欠落している。そのため指示が徹底しなかったり、現場の情報がうまく伝わらなかったりするのである。

 たとえば、社長が「値下げをして売るな」という指示を出したとしよう。これは「会社を運営するには適正な利益が必要であり、その利益は次のサービス向上につながっていく」という経営者の合理的な発想に基づいている。

 ところが、指示を受けた営業マンは、社長の意図を素通りして「じゃあ、売るなということか!」と受け止めてしまう。なぜかというと、営業マンは先々の経営の話よりも目先のノルマのほうに関心があるからだ。まず売り上げのノルマがあり、それを達成すべく努力しているのに、安くして売ることはまかりならんというのでは、どちらに行っていいのかわからなくなってしまうのだ。そうなると、せっかく指示を出しても利益が上がるどころか営業マンのモチベーションが低下するだけ、となってしまうおそれもある。

 それでは、こうしたコミュニケーションの“パイプ詰まり”を解消するにはどうしたらいいか。

 よく営業マンに対して「経営者の意識を持て」というが、経験していない立場でものごとを考えろといってもそれは無理。ふつうの従業員は、会社が儲かるよりも自分のボーナスが増えることのほうがうれしいのだ。

 しかし経営者はかつて現場を経験している。営業経験のある人も少なくない。だから、コミュニケーションを円滑にするには、もっぱら経営者サイドが相手(営業マン)の立場や考え方、目的に合ったかたちで、よく噛み砕いた説明を心がけるべきだろう。

 いちばん効果的なのが会議の活用である。営業部門に限らず、会議はふつう営業マンなど下の者が上にプレゼンする場所になっている。だが、本来は経営者が営業マンなど下に対してプレゼンをする場所だと考えるべきだ。

 現状では、経営者がプレゼンする場合は「数字だけ」ということが多い。たとえば「今年の売り上げ目標は50億円であり、そのうち第一営業部には20億円の予算がついている。だから、あなたの予算は6000万円です」となる。

 しかし、そういうプレゼンを受けた営業マンが必ず漏らすのは「会社の方向性やビジョンが見えない」ということだ。50億円なり20億円なりを売った先に何があり、自分は経営者として将来何をしたいのか、そしてこの会社はなぜ存在しているのか、ということを社長が伝えていないからだ。

 もちろん社長の頭の中には、それに対する答えが全部入っている。社長自身としては納得してやっていることなので、あえてアウトプットする必要性を感じない、というのが真相だろう。

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 しかし、営業マンは別の人間なので社長の内心など知るはずがない。だから社長は、心に抱いている部分を繰り返し繰り返し、徹底してアウトプットしていくべきなのだ。

 その結果、個々の営業マンが「うちの会社はこういう会社で、今年50億売るのはこういう理由があるからか。じゃあ、俺が売らなきゃダメだな」と自分から考えるように仕向けていければ成功である。

 会社の規模などによっても異なるが、私がポイントだと感じているのは「社長個人が人間として話す」ということだ。「俺はこうしたい」という社長のメッセージが伝われば効果的だろう。社長と営業マンとの距離感がぐっと縮まるのである。

 もちろん情感に訴えかけるだけでは意味がない。重要なのはロジックである。とりわけ「なぜ予算が50億円なのか」「なぜ新人を10人採用するのか」という「なぜ」の理由をしっかりと全部説明できる社長は、現場との距離を感じさせない。

 以上はほんのさわりだが、営業マンと社長の意識のギャップを埋めるためには、社長の側からの働きかけが大事であるということを理解していただければ幸いである。

 
 
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