職場の心理学 [163]

脱・三日坊主!
「ご褒美設定法」にトライ

 
 
仕事の目標、家庭での目標、健康上の目標……。
自分をその気にさせて1年後にその目標を達成する方法を心理学者が伝授する。
すでに目標がある人も、意外とその設定の仕方に問題があることに気付くはずだ。
 
 
心理学者
内藤誼人 = 文
text by Yoshihito Naito
ないとう・よしひと●
心理学者。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了。現在、(有)アンギルド代表。心理学の法則をもとにした人材育成や販売促進をレクチャーする企業研修や講演などで活躍。『信じるものは救われない』『「人たらし」のブラック謝罪術』など著書多数。
高橋常政 = イラストレーション
illustration by Tsunemasa Takahashi
 
 

 新年を迎えたばかりのときこそ、目標を立てるチャンスだ。この時期には、だれでも「今年はやってやるぜ!」という意識に燃えているもの。それを有効活用しない手はない。この時期を利用して、自分なりのスキルアップを図るのが賢いビジネスマンである。

 とはいえ、自分勝手に目標を立てても、結果としてうまくいかないことは、読者のみなさんも長年の経験からご承知の通り。「今年はやるぜ!」という熱い思いが、3日後には、早くも儚い挫折へと変わってしまわないように、ここでは、誰でも簡単に実践でき、かつまた、必ず目標を完遂できる具体的なアドバイスをさせていただきたいと思う。襟を正してしばし私の話に耳を傾けてほしい。

ご褒美を先に決めて
それに合った目標を考える

 サーカスでは、ライオンが火の輪を豪快にくぐったり、クマがボールで曲芸をしたりする。けれども、彼らは何も自分から好き好んでそんなことをやっているわけではない。ただ自分の大好きな「ご褒美」がもらえるから、それをやっているだけである。人間も同じで、「ご褒美」がなければ、やりたくもないことをできないものである。

 年間目標を立てる場合、多くの人は、「何を目標にしようかな?」ということをまず頭に思い浮かべようとするだろう。しかし、それが間違いなのだ。正しくは、「どんな“ご褒美”を自分にあげようかな?」と真っ先に考えるべきなのだ。まずご褒美を決め、それから目標をゆっくり決めていけばいいのである。

「そうだ、俺は釣りが大好きだから、釣りに行くことをご褒美にしよう!」「そうだ、俺は一度全身エステってやつを試してみたかったんだ!」。こうやってご褒美を用意すれば、そのご褒美を手に入れることが楽しみになる。それができてから、今度は目標を立てるのが正解だ。

 イスラエルの心理学者U・グニージー博士の研究グループが、高校生に各家庭を回らせて、障害者のための寄付金を募金させるという実験をしたことがある。

 その際、「集めたお金の1%をあげるよ」と小さな報酬を約束するより、「集めたお金の10%をあげるよ」と大きな報酬を約束したほうが、高校生も張り切って募金してくることが判明した。小さな報酬しかあげないグループでは、総額で153.6ドルしか集めてこなかったが、大きな報酬を約束したグループでは、総額で219.3ドルも集めてきたのだ。

 私たち人間はきわめて単純で、ご褒美が約束されていたほうが約40%もたくさん頑張れるのである。ご褒美もないのに、大変な努力や労力を払える人はいない。目標が完遂できるかどうかは、ひとえにご褒美の魅力にかかっている。

 ご褒美が用意できたとして、目標を決める際に注意すべきことが3つある。

 1つ目は用意したご褒美と、努力が見合っているかどうかだ。「毎日、単語を3つだけ覚える」という簡単な目標に対して、「それを2週間続けたら、世界一周の船旅のご褒美をあげよう」というのは、褒美のやりすぎである。よほど金銭的、時間的な余裕がある人なら、それもいいだろうが、あくまでご褒美と努力が見合っていなければいけない。

 決め手は、その目標が自分にとってやや困難と思えるかどうかだ。達成するのがあまりにも困難な目標を立ててしまうと、やる気がくじけてしまう。かといって、あまりにやさしい目標を立てても、何のための目標なのかがわからなくなる。困難すぎず、やさしすぎずを目安とするのがいい。

 米国メリーランド大学のE・ロックとG・ラザムは、目標設定に関する心理学の論文を400本以上も再分析し、私たちがもっともやる気をかき立てられるのは、やや困難な目標であることを突き止めた。

 私たちは、やれば100%できてしまうことに対しては、あまりやる気が出ない。簡単すぎるからである。手ごたえがないと、やりがいや達成感を味わえないのだ。努力をしてみて、だいたい成功の見込みが60%から70%くらいの目標がいいであろう。これが最もやる気の出る目標である。

目標はノルマではない
本当にかなえたいものを設定すべし

 2つ目は、目標を設定するときには、他人の意見に耳を貸してはいけないということだ。「みんなが○○の資格をとる勉強をしているから、俺もそれにしておくか」という目標ではいけないのだ。他人から押し付けられた目標では、さっぱりやる気が出ないのである。せっかく目標を立ててみたものの、全然やる気が出ないのだとしたら、それは自分自身がほんとうにかなえたい目標なのではなく、他人の意見などに影響された、ニセモノの目標なのだと疑ってみたほうがいい。そういう場合には、自分が本当にかなえたい目標に切り替えてしまおう。

 アメリカの鮮魚加工工場で行われた興味深い実験がある。カリフォルニア州にあるチャップマン大学の心理学者ケネス・デールをはじめとするグループが、従業員たちに50匹の鮮魚をできるだけ早く加工させ、その時間を測定した。ただし、実験に先立って次のような条件が割り当てられた。

(1)自分で、どれくらいの時間で終わらせるかの目標を決める

(2)他人に決められた目標で取り組む

(3)目標なし

 その結果、自分で目標を決めたときには、平均して538秒で作業が終わった。他人に目標を決められたときには、平均570秒もかかった。目標がないままに漠然と作業を開始したグループでは、なんと平均702秒もかかった。

 この実験でわかることは、他人から与えられた目標は、目標がないときよりは効果があるが、自分自身で決めた目標にはかなわないということである。「他人がどう思おうが、知ったこっちゃない。今年の俺は、これを目標にするんだ!」。こうやって自ら設定した目標のほうが、結局のところは達成しやすいといえよう。

 目標というのは仕事上のノルマではない。自分がかなえたいものを決めてよいのである。「そうは言っても、俺には自分でやりたいことなんてないからなぁ……」という人は、無理に目標など立てようとしないことである。そういう目標は達成できずに、「俺は何をやっても失敗するんだな」などと自己嫌悪に陥るのがオチだからである。

 3つ目のポイントは、目標の大きさである。たいていの人は新年を迎えたばかりで、大きな目標を立ててしまいがちだ。もしかしたら夢は大きければ大きいほどすばらしいと思っている人もいるかもしれない。しかし、それがそもそもの間違いで、実は小さい目標のほうがいいのだ。

 米国スタンフォード大学のアルバート・バンデュラたちの論文によると、短期でできる目標を立てさせたグループと、長期的な目標を立てさせたグループでは、最終的にやらせる内容は同一であっても、前者では74%が完遂でき、後者では55%しか完遂できなかったという。

 つまり、小さな目標を組み合わせるようにして、結果として大きな目標に結びつけるような設定の仕方が望ましいのである。大きな目標を立ててもいいのだが、まずはそれを小さく分割してできることから開始してみてほしい。

 ご褒美と目標が決まったら早速、行動開始だ。行動を開始するタイミングは早ければ早いほどいい。できれば目標を決めたその日から、少しずつでも始めるのが肝心である。「来週になったらゆっくりと」という態度では、目標は完遂できない。

 最初のうちは、どれくらい自分が頑張っているかを知るためにも毎日の「達成度」をチェックしよう。なぜ達成度チェックをするかというと、これによって自分が最初に立てた目標が、ゆるすぎるか厳しすぎるかを確認することができるからである。

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 実際に始める前はやや困難だと思えたことでも、やってみるとたいしたことがないと気付くことがある。その場合は、もう少し目標を厳しくするなどの修正が必要である。逆に、目標が厳しすぎて心理的にも身体的にも苦しすぎるという場合は、若干ゆるめてもかまわない。

 数日やっていると、自分に合うペースがわかってくる。こればかりは、実際に試してみないとわからない。そのため、毎日の達成度をチェックしてみる必要があるのだ。

 クイーンズ大学のジュリアン・バーリングのグループは、カナダにある自動車ディーラー60社に連絡を取り、セールスマンを対象にした調査を行っている。その結果、「やる気」のあるセールスマンは、自分が毎日、どれくらいの仕事をやっているかをきちんとチェックする習慣があることを発見した。毎日のチェックはやる気を維持するうえで、絶対に必要なのだ。

 毎日チェックするようになると、「今度は、もう少しこうしてみよう」とか、「明日は、違うこともやってみよう」などと頭で考えながら、自分に合うように目標を進化させることができる。だからこそ、やる気が失われないのである。一番ダメなのは、目標を立てっぱなしにする人だ。目標というのは、いわば道具であり、自分なりに使いこなすことが必要であるが、そのためには毎日のように自分で触っていなければならないのだ。

 
 

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