特集/仕事に役立つ「歴史・古典」入門
「『古今のバイブルで解く』あなたの課題8」より、
[5] 100年後に評価される会社を目指せ
顧客満足と「論語」
自問自答を繰り返す渡邉社長の傍らには、いつも論語があった。
論語は漫画と同じように
寝そべって読む本
-

- ワタミ株式会社代表取締役社長・CEO
渡邉美樹
私は『論語』の本をベッド脇と書斎、車の中に一冊ずつ置いている。毎日読んでいるわけではないが、思い立ったときに手の届く所にあってほしいからだ。
論語を学ぶというと堅苦しくなるが、私は漫画と同じように、寝そべって読んでいい本だと思っている。もともと脈絡のない本なので、パラパラめくりながら、気の向いたところを読んでも差し支えない。孔子の物事に対する考え方は根本がぶれないので、どこから読んでもいいのだ。
論語は原文のままでは読みにくいが、大抵の本には読み下し文や現代語訳、解釈が併記してあり、決して難しいことはない。大事なことは、いくつかの解釈を読み比べてみることだ。厚みのある人間性を持つ訳者の文章ほど、論語の本質的な面白さが理解しやすいからである。
読み返すうちに、「こういう教えがあったな」と思い出し、ふと自分の生き方や経営のことを振り返る。気に入ったフレーズは手帳に書き写して見返すようにしている。いま書いてあるフレーズの一つは「50にして天命を知る」。あと3年で私も50歳。自分の天命が何かはわかっているつもりだが、それが正解なのかをこの3年間で見極めるつもりでいる。
いま一つは「死して後已む」だ。
「曾子
「仁」にはいろいろな解釈があるが、私は「自分以外の人の幸せを願う心」と理解している。他者の幸せを願い、実践していくことを「任」として、死ぬまでやり続けるのだと孔子は言っている。そして、こうも書かれている。
「子
子貢が生涯行うべきことを一字で表せるかと問うと、孔子はそれは「恕」、つまり思いやりだと言う。自分が望まないことを人にしないことが「恕」の精神。私は中学時代、クリスチャンとして聖書を熱心に読んだ。この孔子の教えは「山
私がいまビジネスで考えていることも、それ以外の何ものでもない。600店舗の外食を展開することができたのは、「お客さまがしてほしいこと」を私なりに考えてカタチにしてきただけのことだ。料理は手づくりで、食材には安心・安全な有機野菜を使い、なおかつ値段が安いという店である。人の幸せを願う心を自分の「任」とし、それをカタチにすることを死ぬまでやり続けようとしているだけなのだ。「恕」は、ビジネスにおいても、生きることにおいても、すべての根幹にあると私は考えている。
-

- 弟子の子貢が「生涯行うべきものを一字で表せるでしょうか」と質問した。これに対し、孔子は「それは恕だ。自分がしてほしくないことは、他人にもしないことだ」と答えた。他人を思いやる心の大切さを説いた一節。
新たに始めた介護事業が好評をいただいているのも、「自分の両親にしてあげたいこと」をカタチにしたからだと思う。たとえば、炊きたてのご飯を食べさせてあげたい、桧風呂に一人ずつゆっくりと入らせてあげたい、元気に体を動かせる土いじりの場を用意してあげたい……。そうした気持ちで施設の設備や運営方法を考えた。
世の多くの人は、まず自分のことを中心に考えているが、「まず相手のことを考えなさいよ、そうすれば全部うまくいくのだよ」というのが、子貢が問うたことに対する孔子の結論なのだと思う。
私は論語を読むとき、孔子の根本的な考え方、孔子が語った真実を軸に、いまを考えている。論語の読み方、使い方で私が一番嫌いなことは、一つの文節を取り上げて、その本来の意味はこうだと決めつけ、押しつけることである。
そうした人ほど孔子らしい生き方をしていない。孔子らしい生き方とは、人間らしい生き方である。自分の人生の目的として、よりよい社会にしようということに焦点をあてた生き方だ。自分のことよりも社会を優先する人である。
だから私は、社員に「論語を読め」とは言わない。押しつけられた教育は身にならない。読むことを強制しても論語の本質は伝わらないと考えている。何かを知りたいと思いながら、あと一歩でジタバタしている人、喉から手が出るほど教えを請いたいと願っている人にしか教えないと孔子も言っている。孔子ほど人間の心理に通じている人はいない。
さらに孔子は真実を短い文章で言いあてる人、その真実を実現したいと考える人、そして手段よりも目的が重要だと考える人である。人生の達人であり、見事なバランス感覚の持ち主であると思っている。
目先の売上高や利益は
ある意味でゴミみたいなもの
論語に「正直者の躬
正しいか間違っているかの判断をくだす前に、人間には損得や、好き嫌いの判断基準がある。正邪の判断の前に、人間は感情で生きているということを孔子はズバリと言いあてた。これは人の道を語る孔子のバランス感覚のすばらしさを物語るものだ。
教育問題やニート問題について考えるとき、必ず思い起こす言葉がある。
「冉
冉求が、「先生の道を学ぶことを嬉しく思わないのではないが、自分の力が足りない」と孔子に言った。「もうついていけない」というわけだ。すると孔子は、おまえはついていけないのではなく、ついていけないと心の中で決心しているのだとして、「冉求は自分の力を限定してしまっている」とズバッと指摘する。諦めたら、その時点ですべては終わるということだ。
孔子は「諦めない心」を持っていたにもかかわらず、生涯報われなかった。私が孔子に魅力を感じるのは、その点が大きい。孔子は生涯、諸国を回って就職活動をするが、職を得ることはなかった。おそらく孔子は人間的にできすぎていたのだろう。できすぎた部下を持つことを、上司は嫌うものだ。孔子のような人間を側に置いたら窮屈だと思ってしまったのではないだろうか。
しかし、孔子の死後、弟子や孫弟子たちが孔子の教えを論語としてまとめた。その結果、孔子の言葉は2000年以上にわたって生き続けている。その人の本当の価値や実績は、長い歴史の中で、数百年後にしかわからないのかもしれない。そう思うと、勇気づけられる。人間はすぐに成果を求める生き物だ。生きている間により高く評価されたいと思う。
だが、しっかりと自分の人生を掘り下げ、本当に価値のある仕事を行えば、何百年後かはわからないが、後世の人間は評価してくれるものなのだ。その意味では、目先の売上高や利益の上がり下がりは、ある意味でゴミみたいなものかもしれない。時間軸で考えれば、100年後には、この会社はどういうことをしたのか、どんな影響力を持ったのか、どういう真実を持っていたのか、真実とともにどう生きたのかを問われるだろう。論語を読む私は、ただただそのことを畏れて生きたいと思念し、また願っている。
おすすめコンテンツ
- プレジデント
- 相手が進んで従う「納得」の交渉術
- カリスマ性やビジョンだけでは人は動かない
- プレジデント
- プレジデント
- 仕事「一筋派」で泣く人、「二筋派」で笑う人
- 4542人大調査! 第8回本誌読者アンケートで見えた「根強い経済不安」
- プレジデント
- 書籍
- つぶれない会社を簡単に作る方法
- 新会社法対応! 勝ち組になる起業術
- 書籍










