特集/「最優秀社員」100人の秘密
PART4.やり遂げる力──困難や逆境を楽しむ

三菱地所
小森勇二(37歳)
住宅事業部主事

超高級マンションで連勝、
「足まめ男」に敵なし

 
 
白石宏一 = 文坂本政十賜 = 撮影
 
 

照り返す夏の街を歩いて
土地を探す

「住宅事業部は会社でも仕事の結果が明確に表れる部署と聞いていましたから、最初は緊張しました」

 小森勇二は言う。『パークハウス』ブランドでマンションを建設・販売している住宅事業部の主事である。東京に赤坂パークハウス(赤坂7丁目)ができて早36年、小森が2006年に手がけたパークハウス赤坂新坂とパークハウス赤坂氷川は、パークハウスゆかりの地での久方ぶりの新物件だった。

「住事は個人商店の集まりのような部署。自分で土地を買わないことには仕事がないということでもあるのです」

photo

 03年に異動した小森は千代田、港、渋谷区を担当した。用地買収は情報力、企画力、そしてスピードが勝負の熾烈な競争世界。ピカピカの更地はまず、ない。先任者から引き継いだ物件を扱うだけの日が続く。プレッシャーのみが募る。

「1年以上、買えませんでした」

 そんなとき、外へ出ろと先輩にアドバイスされた。自分もそうしてきた、と。言われた通り、住宅地図を片手に実際に歩いて見てまわる。

「担当エリアはほとんど歩きました。土地の形状、使われている状態、マンションを建てられそうかなど、いろいろ考えながら歩いていると、そのうちピンとくるようになるのです」

 異動2年目、04年の夏は長く暑かった。最高気温30度を超える真夏日が東京で70日もあって、太陽がギラギラと燃える。立っているだけで汗が噴き出す。消耗する。

 青山通りからカナダ大使館の裏手に広がる静かな住宅地に足を踏み入れた日も、猛烈に暑かった。頭上を木々が覆い涼しい日陰にホッとする。赤坂8丁目の新坂近くに、高い塀に囲まれたあまり使われていない建物があった。

「その場でインターフォンを押しました。登記簿で持ち主を探し、つてをたどって持ち主の会社の専務さんにお会いすると、会社の創業に深く関わる土地ということで有効利用を考えておられたというのです」

 絶好のタイミング。その土地がパークハウス赤坂新坂になった。

「この仕事ではオーナーさんに信用してもらうことが一番大切です。だから正直、誠実を心がけています。話し合いの時点でわからなければごまかさないでわかりませんと言う、デメリットも隠さない、近隣の方々との話し合いでも誠意を尽くす……」

 様々な事業手法のシミュレーション、改善を重ねた建物プランと資料を揃えて何度も足を運ぶ小森の熱意がオーナーを動かす。ライバル会社との提案競争にも勝利し、その年の暮れには基本的な合意にこぎつけた。

 贅を凝らした7階建て高級マンションの構想が出来上がる。06年5月発売、1億2500万円台から5億円台の高価格にもかかわらず、短期間で完売。竣工はもうすぐ07年2月の予定である。

「時間や予算の制約はプレッシャーです。でもうちは用地買収から商品企画まで一貫して担当しますから、自分が頑張れば事態がよくなりそうだと思える局面が多い。おそらくそれで、できた建物が自分の“作品”だと思える。いつかそれを娘に見せたいと思えば熱も入ります。そうやって造った物件が完売すればそりゃあ嬉しいです」

テニスで鍛えた積極性で
大規模物件を扱う

 もう一つ、小森の手がけた物件、パークハウス赤坂氷川は、三菱地所初の「マンション建替え円滑化法」によるマンション建て替え事業。コンサルタント会社から入札への参加を打診された。しかし、数十人の地権者の合意形成が必要なマンション建て替え事業では、建て替え決議がなされる前の段階で事業協力を決定するのはデベロッパーにとってリスクも高い。小森は、様々な手法を駆使して事業リスクを軽減し社内を説得する一方、地権者にも積極的な事業参画姿勢を示し、建て替え協力者の座を射止めた。設計監理は最高裁判所を設計した岡田新一設計事務所に、施工は鹿島建設に依頼することに決まり、こちらは08年6月竣工予定。

 数十人の権利者の権利調整、容積率などの緩和制度の利用、事例の少ない「マンション建替え円滑化法」に基づく建て替えと、複雑なスキームを持つこの事業は平坦ではなかったという。

「もう事業が成立しないのではないかという場面が何度もありました。でも建て替え組合の方々の努力を無駄にはできない。コンサルタント、設計者と一緒に必死で危機を乗り越えました。無事、古い建物の解体工事が着工し、組合理事の方々とお祝いの懇親会をしたときは、本当に嬉しかったですね」

 自分が頑張れるのは、こうしたやり甲斐を味わえるからだと小森は考えている。

 身長185cmを超えようかという小森は、中学校から大学までテニスに熱中したスポーツマンらしく、すべてに積極的。入社後に配属されたパートナー事業部は地主と共同事業を行う部署で、「不動産の学校」と呼ばれるほどあらゆるケースを扱った。地権者と協議しながら事業化していく能力はこの時培われたものだ。コンペで他社に仕事を攫われたこともある。常に「勝ちパターン」で成功し続けてきたわけではないのだ。

 だが、それも大切な経験。小森は失敗にはあまりこだわらない。勝ち負けは時の運と考え、気分転換を図るようにしている。マンション建設を巡る近隣との折衝で無理を言われても、仲間と酒でも飲んで少しグチれば立ち直れるという。そもそも相手あっての仕事、その人間の素晴らしい面を見つけるように心がけ、仕事への興味と意欲を失わないようにしている。それになんといっても会社人だけに、それなりの制約はある。だが、規則一辺倒ではない上司がよく理解し、小森を支えてくれる。

「マンションに使えないかと、最近はインテリア雑誌もよく読みます。あちこちのショールームにも立ち寄るし、街を歩いていても、レストランでも内装なんかが気になります。いつでも、すべてが勉強です」

 販売が完了して収益が確定する、成果が見えやすい仕事に新たな意欲を掻き立てられる、と小森は絶好調だ。

 
 
PRESIDENT 2006年12.18号
PRESIDENT 2006年12.18号
税込価格 650 円
売り切れ
 
PRESIDENT公式twitterアカウント

メールマガジン <プレジデントニュース>

 
 

「プレジデント」編集部員による取材現場でのこぼれ話やビジネスマンに役立つオリジナルコンテンツ、新刊書籍案内などを、週1回のペースでお送りいたします。

メールマガジン申込・登録変更