人に教えたくない店 [353]

男は歴史と文化がある飲食店で
育てられて一人前になるもの

平野寿将さん

 
 
平野寿将 = 談
Hisama Hirano
ひらの・ひさま●
1960年、愛媛県生まれ。京都「萬重」で修業した後、オーストラリアで日本料理と寿司の調理指導を行い、故郷・松山に懐石料理店を開く。その後上京し、91年に料理に対する功績により内閣総理大臣より表彰される。現在は「ヒサマズキッチン」オーナー。また、「口の悪さは日本一、つくる料理は天下一」というキャッチフレーズの下、お助け料理人としてテレビや雑誌『サンキュ!』などでも活躍中。著書は『あれこれ、惣菜。』『平野寿将流やさしい和ごはん』など。
斉藤由利子 = 構成交泰(P139)、古市和義(P140、141) = 撮影
 
 

 一歩入るなり「お、かっこいいな」と感じさせる風格。僕が飲食店を判断するのがこれ。最近とくに多い、効率重視のアメリカ的なかっこよさには少しも色気を感じないよ。

 ここ「テアトロ・スンガリー青山」は、フォーマルな迫力で出迎えてくれる店。ロシア料理といえばピロシキにボルシチとなめてかかったところ、その奥の深さに圧倒されるばかり。料理を食べればフランス料理のようで、しかも大陸の匂いもする。とにかく、おいしい。とくにロールキャベツの完成度は高い。ロールキャベツが家庭料理ではないことを思い知らされたね。

 こういう不変の味がある店は安心できるし、味を守り通すところに心意気すら感じる。僕自身は今まで若さとトンガリで勝負してきたから、こうした歴史を感じる奥深さにはあこがれすら感じる。

 だからなのかな、自分が通いたい店には文化的な匂いが漂っている。そして、いい店はスタッフが変わらない。テアトロ・スンガリーとは13年になるけど、みんな居るんだなぁ。ここは大人がいてサマになる店だから、つい誰かを連れて行きたくなっちゃうんだよね。

 そして今、定期的に足を運んでいるのが「湊鮨」。宇都宮の美容学校で月2回授業をしてたんだけど、その副校長に案内してもらった店。銀座辺りの寿司店に負けないネタ揃えで、仕事が実に丁寧。家族経営だけど、それぞれの分をわきまえていて、凛とした空気が流れている。最近はちょっと勘違いしている店が持ち上げられたりしているけど、どこまでも控えめなご主人の仕事ぶりに「店はやはり人柄だ」ということを実感させられる。

 実は湊鮨は昔、毎晩のように通った寿司店によく似てる。四国から出てきた若造だったけど、いつしか一人前の扱いを受け、東京で生きていく自信をつけてもらった。男は、飲食店に育ててもらうことがあるもんだよね。

テアトロ・スンガリー青山 ロシア料理
テアトロ・スンガリー青山
ロシア民謡の
生演奏を聴きながら
ロールキャベツに舌鼓

●毎夜ステージで生演奏が行われるシアター・レストラン。店主は歌手・加藤登紀子さんの姉。残念ながらこの12月末日をもって閉店することが急遽決まった。この店の先駆けで創業50年になる新宿「スンガリー」では、同じロシア料理、ウオツカなどを楽しめる。新宿東口本店TEL.03-3209-4937、新宿西口店TEL.03-3343-5047。
●東京都港区北青山3-5-17 青山ファッションカレッジビルB1
TEL.03-3475-6648
営業時間/17:00〜22:00(LO) 日曜定休(パーティーは対応) カード可 ※予約が望ましい、サービス料10%がかかる


  1. 平野さんが必ず頼む一品が、シベリア風ぎょうざのペリメニ1050円。ロシア料理に欠かせないハーブのディルとサワークリーム、バターで味わう。奥は名物のピロシキ1個315円。揚げずに焼くのがスンガリー流。お土産にする人も多い。前日までに要予約。
  2. ロールキャベツ1680円。焼いてから煮込む、本場ロシアのスタイル。しっかり煮込まれてやわらかいキャベツの中には挽き肉がぎっちり詰まっている。
  3. キャビア9450円(50g)とロシア郷土料理のケタ。いわゆるサーモンマリネで、2日がかりでじんわり漬け込むのがスンガリー流。とろとろの旨さだ。

江戸前寿司
湊鮨 みなとすし
銀座に負けないネタ揃えと
丁寧な仕事に
主人の人柄がにじみ出る

●東京・築地の寿司店で修業した後、故郷に戻って20歳で独立。日々勉強、日々努力を信条に今年還暦を迎えた。仕入れに特別ルートがあり、築地の目利きが選んだ魚介が毎日2便で届く。
●栃木県宇都宮市西2-1-3
TEL.028-634-4136
営業時間/11:30〜13:30、17:00〜22:00 日曜・祝日・第3土曜定休 カード可 ※昼はできれば予約、夜は要予約。個室2室あり


湊鮨
  1. 惜しげもなく分厚く切られた大間産本マグロの中トロの刺し身。ご主人・大島三郎さんの潔さが全開。これだけでも完全にノックアウトされてしまう。マグロは本マグロを中心にインドマグロも扱う。原価を気にせずに品質で仕入れるウニ、早い者勝ちの平目のエンガワなど、その日のおいしいものを見繕ってくれる。
  2. マコガレイの薄造り。鮮度の高さが身の透明感からも伝わってくる。これからの季節はヒラメになる。白身魚を担当するのは息子さん。ふぐの専門店で修業を積んだ包丁使いが冴え渡る。
  3. 一人前の握りの盛り込み例。マグロのトロは握りで、赤身はのり巻きでも楽しめる。この店ではほとんどがおまかせスタイル。昼は一人2000円〜、夜はお造り、焼き魚か椀物、お好み握り、フルーツの構成で一人1万円〜が予算の目安。
 
 

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