職場の心理学 [157]
表のリーダーを操る
裏のリーダーとは
という経験をした読者も多いのではないだろうか。プロジェクト成功の秘訣は、
優秀なリーダーよりリーダーを操る「陰のリーダー」にあるという。
彼らは組織の中で、どんな動きをしているのだろうか。
変革に必要なのは
「下からのリーダーシップ」
「勝ち組」として生き残るためには企業は常に「変革」し続けていかなくてはいけない。しかも、その変革のスピードは年々速くなり、そのうえ、解決しなくてはいけない課題も複雑かつ、多岐にわたっている。しかし、いったん組織の内部に目をやると、相も変わらず営業部長と製造部長が対立して承認が下りず、結局そのしわよせは現場のマネジャークラスに……と社内変革推進者となるプロジェクトマネジャークラスには景気の良し悪しにかかわらず、経営陣から年々ハードなリクエストが続くといったケースは多い。
我々コンサルタントは、あらゆる組織の変革推進者と「待ったなし」の状況で接し、彼らの実行支援をしている。例えば、新聞雑誌等のマスコミをにぎわす大規模M&Aや事業再生などの現場では通常複数のプロジェクトが発生し、同時に組織横断的に活動する。各プロジェクトのメンバーとのやりとりの中で、プロジェクトが成功するか、しないかを見極めるうえで興味深いことがある。
それは「変革を成功させるには、優秀なリーダーは必ずしも必要ではなく、リーダーをも動かしてしまうフォロワーシップ、つまり下から上へのリーダーシップを発揮するメンバーがいるか、いないかがキーになる」ということだ。
もちろん優秀なリーダーは組織の中に存在する。しかし現在の組織変革活動においては、複数のプロジェクトが同時に進んでおり、すべてのプロジェクトに優秀なリーダーを配属する余裕がなくなる。そうなると、エースの補欠までプロジェクトをリードしなくてはならなくなる。
リーダーには本来のリーダーシップを発揮し、陣頭指揮をしてもらいたいのは山々であるが、この状況ではそこまで期待するのは難しい。
そこでキーとなるのが、下からリーダーシップを発揮する、いわば「スーパーメンバー」である。スーパーメンバーはリーダーの指導力を引き出し、リーダーの舵取りを支える。そして気づいたらリーダーも他のメンバーも、用意したシナリオどおりに事にあたっているという状況をつくり出している。ごく自然に周囲を巻き込み、全員がコミットして活き活きとしているところがスーパーメンバーたる所以で、プロジェクトの成功の陰に必ず存在する現場の力となっている。
譬えるのであれば、現代版水戸黄門の「助さん・格さん」である。時代劇の水戸黄門では悪事に対して助さん格さんが現場で対応し、そのうえでご老公がどのタイミングで動いたらいいかのシナリオを作成する。そして必要に応じて他のメンバーと協働しながら「ここだ!」というタイミングでご老公を動かし、「控え! この紋所が目に入らぬか」と問題解決に導く。
すぐに実践できる
スーパーメンバーの行動特性とは
このスーパーメンバーには、ある共通の行動特性がある。それは普通のメンバーの行動特性にほんの少しプラスもしくは変更したものにすぎない。誰でも身につけられるちょっとした「考え方・思考・行動の工夫」なので、ぜひ参考にしていただきたい。
一般的なメンバーはリーダーに「理想のリーダー像」を期待し、その理想と現実のギャップからリーダーに対して「物足りなさ」を感じているが、スーパーメンバーは実は最初からリーダーに「理想のリーダー像」を期待していない。リーダーは完璧ではないということを理解しつつ、プロジェクトを成功に導くために、リーダーがどのように判断し動けば関係者全員がWin-Winになるかを考え、リーダーを活用するというスタンスで事にあたっている。
スーパーメンバーは「仕事で自分の価値を高めたい」と考えているため、リーダーもメンバーもすべて含めて、自分の価値を高めてくれる大事な資源であると認識している。資源であるがゆえに、関係先はすべて自分の味方であるというスタンスに立ち、誠実な貢献と建設的なフィードバックを使い分けながらポテンシャルを引き出すように心がけている。
例えば、あるプロジェクトに関わる二つの部門で部門長同士が犬猿の仲で全く事が進まない場合、スーパーメンバーは相手先部門長のことをよく思っていなかったとしても、周りはすべて味方であると捉え直す。そして、どうすれば最大限の効果を発揮できるかシナリオを考え、相手先部門長の二番手と手を組むなどして、関係者を上手く巻き込み、両部門長が承認せざるをえない状況にもっていく。自分の利益にもこだわらず、その手柄を両部門長の手柄にしてでも最善の着地を目指す。相手先の部門長からは「最初お宅の部門長とは全く話し合いにすらならなかったが、あなたのお陰で、やっとまともな話し合いになった。実際に進めてみると、自分たちとしても非常にやりがいを感じるので、今後もあなたが間に入ってくれるのであれば、全面的に協力するよ」などと言われ、昨日までの対立先も味方につけてしまうのである。
仕事を進める資源としてリーダーを捉える場合、スーパーメンバーは他のメンバーとは違う視点からリーダーの資源を見出している。一般的なメンバーはリーダーを「鳴りもの入りで昇格異動してきたわが社きってのエース」というように主観にみちた「色眼鏡」で見てしまう。
色眼鏡で見ると、一つの現象や思い込みでリーダーのすべてを判断するハロー(後光)効果を起こしてしまい、リーダーが具備している本来の資源が見えなくなってしまう。
スーパーメンバーはリーダーをいわば「虫眼鏡」で見るがごとく、さまざまな視点から観察・意見交換して場合によってはリーダー自身が忘れていた「潜在的」な資源までを発見している。
虫眼鏡的にどのような視点で見るか、それは三つある。
一つは「リーダーの能力・知識・経験」の視点である。リーダーも今はさまざまな調整業務に追われているかもしれないが、個人的に蓄積してきたプロフェッショナルとしての知識や技能があるはずである。したがって学ぶところはしっかり学習するし、周りにあまり知られていない能力・知識・経験がある場合、リーダーに気持ちよくのってもらい、スーパーメンバーのシナリオにそった業務を担当してもらったほうがお互いの幸せにつながる。
またリーダーは過去からのつながりで、意外なところに人脈をもっている可能性もあり、仕事に突破口を見つけたい場合の切り札にもなりうる。したがって、リーダーの社内外の人脈も押さえておくスーパーメンバーは多い。
二つ目は「リーダーの権限」について。スーパーメンバーは自分の仕事を進めやすいように、人・物・金をどこまで動かせるか、公的に決められた権限と社内政治的な実質の権限を把握することにより、プロジェクト内のストレスを減らすことができる。つまり、公的な権限だけでなく社内政治的な理由で制限が加わったり、反対に大きくなったりする権限の本質的なところを見抜くことで、リーダーに全く決裁権がない事項を「決裁してください」とリクエストして立ち往生することもなくなるし、効率化のための設備の増強、チームメンバーの増員、スキルや知識を身につけるための費用等を優位に動かすことも可能となる。
最後は「リーダーのありのままの姿」。リーダーも人間であり、すべて完璧なわけでもなく、常にいろいろな不安に悩まされながら奮闘している。リーダーにも感情があり、ロボットではない。さらに日本には伝統的な人間関係の中で、年上や目上の人に敬意を払う文化があり、それは重要なことであるが、目上であるがゆえに、人格者であり、有能でなくてはならないとリーダーに対して過剰に期待感を抱いていることが多く、そのことがプロジェクトの進行を妨げるケースもある。
ゆえにリーダーにある「べき」姿を要請するのではなく、ありのままのリーダーを受け入れることが、実はお互いの信頼関係強化につながることをスーパーメンバーは気づいている。
また、スーパーメンバーは、プロジェクトでどんなことが起きても、ネガティブな発言はしない。どんなに困難な状況においても「〜しかし、……」などと感情に流されることなく、逆に「〜だから、……」と常に当事者の視点から解決する意思をもって思考していることもその特長である。
リーダーのタイプ別に
アプローチの仕方を変える
人それぞれ、自分好みの「行動特性」がある。好みの行動特性がリーダーと一致していないと、事前にどんなに綿密なシナリオを練ったとしても、リーダーとかみ合わず、その結果承認がもらえなかったり、人間関係にひびがはいることもある。
スーパーメンバーはリーダー好みの「行動特性」を理解し、うまく合わせる形をとっている。例えば「統率が好きな親分肌タイプ」「論理しか信用しない頭でっかちタイプ」「夢を追い求める夢見タイプ」「みんなと明るく楽しくやりたい八方美人タイプ」等、リーダーをいくつかのタイプに区分することができる。
「行動特性」が違う場合、例えば親分肌のリーダーの場合は「俺についてこい!」と非常に統制が強く、長々と根拠となるデータを説明するとイライラしてしまい、最終的には「結論は何だ! 一言でまとめてこい」となってしまい、せっかく綿密に計画を練ってきたメンバーは「しゅん」となって出直すこととなる。提案の内容自体は十分納得するレベルに仕上がっていても、伝え方で間違えると、通るものも通らなくなってしまう。
その場合リーダーに承認をもらう場面では、親分タイプの行動特性なら最初から「結論」を問われるのは明白なので、最初に結論を述べ要点をシンプルに個条書きにしてプレゼンをすればよい。綿密なデータは質問を受けたときに具体的に答えられるよう手持ちで十分である。
「データと論理を重視する頭でっかちタイプ」の行動特性をもつリーダーの場合は、結論にいたる前に詳細な前提、検討プロセス、検討結果を示す必要がある。リーダーと最終意思決定者の好みの「行動特性」が違う場合には、承認をとるプロセスにも注意し、資料構成を差し替えるくらい綿密にシナリオを練ることをスーパーメンバーは怠らない。
まさに「人を見て法を説け」と言われる通り、仕掛けは一部の狂いもなく精密かつ大胆に進めることで、最小限の工数で最大限のパフォーマンスを生み出すことにつながることをスーパーメンバーは知っているのである。
仕事柄、組織を支えるビジネスリーダーとお会いすることが多いが、実は、ビジネスリーダーが若手の頃、修羅場を潜り抜けたときの行動特性は、スーパーメンバーの行動特性と一致している。
つまり、スーパーメンバーは将来会社を支えるビジネスリーダーが必ず通るべき「プロセス」を歩いているといえる。スーパーメンバーは、板ばさみとなり、さまざまな困難が待ち受けているが、それをチャンスと捉えて解決することで、優秀なリーダーに成長できるのである。
逆に修羅場を経験せずしてリーダーとなった場合に、冒頭のようなマネジャークラスに負担をかけるリーダーとなってしまうのである。組織を支える本物のビジネスリーダーに成長する一番の早道は、スーパーメンバーとして板ばさみを解消する経験を積むことではないだろうか。
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