特集/「上司と部下」の新常識
社長の本音分析「新型 vs.旧型、ここが違う」

アサヒビール社長・荻田 伍

現状不満足、スピード、現場第一主義

 
 
上半期(1〜6月)だけとはいえ、5年ぶりにビール系飲料のシェアトップの
座を明け渡したアサヒビール。アサヒの代名詞ともいえる「スーパードライ」は
好調なものの、発泡酒の不振でキリンビールにシェア逆転を許した。
巻き返しを図るアサヒは、今年3月、
アサヒ飲料をV字回復させた荻田伍社長をトップに抜擢。
アサヒ初の子会社からの返り咲き社長が期待する社員はどんな人材なのか。
 
 
岡村繁雄 = 構成尾崎三朗 = 撮影
 
 

 シェア逆転の背景には、当社のスーパードライに頼りすぎた商品開発や営業体質にあると指摘されます。スーパードライ発売時のことと比較されて、味がどうだ、パッケージがどうだとか、あるいは宣伝・広告がどうのと批判される。成功体験が問題なのではなく、私はむしろスーパードライの成功体験を生かしきれていないのではないかと考えています。スーパードライを発売するまでに、社員たちがどんな努力をしてきたのか。その体験がスポッと抜け落ちています。

 スーパードライはある日突然、ポッと出てきたわけではありません。当時、アサヒはヒット商品もなく長い間低迷を続けていました。業容もいよいよ厳しくなっていた1980年代、アサヒが再びお客様から支持を得るにはどうすべきかを考えなければなりませんでした。営業も生産も、総務も経理の社員も全社を挙げて問題解決に取り組みました。商品開発では消費者調査を徹底的に行いました。社員が考えに考え抜いて、スーパードライという形に結びついたのです。問題を把握し、その問題をきっちり解決していく成功体験を、私たちが次世代に伝えていかなければなりません。

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荻田 伍
●おぎた・ひとし 1942年、福岡県生まれ。65年アサヒビール入社。97年取締役・福岡支社長。2000年常務執行役員、九州地区本部長。02年アサヒ飲料副社長。03年アサヒ飲料社長。06年アサヒビール社長に就任。

 今年3月、私はグループ会社のアサヒ飲料社長からアサヒビールの社長に就任しました。それ以後、土日に関係なく、全国の支店や工場を回り、多くの営業マンたちと話す機会を持ち、アサヒの問題点を語り合ってきました。上半期にキリンにシェア逆転を許しましたが、現場は非常に元気です。それから前向きです。問題点が把握できているからです。

 シェアで業界トップに立った2001年以降、酒税の変更、発泡酒、新ジャンルの急拡大など、市場にはいろいろな変化がありました。ここ1年は市場の早い動きとアサヒの戦略との間にズレが生じ、新ジャンルの商品開発では少し遅れがあったように思います。

 さらに、これまで新商品開発は新商品開発、宣伝は宣伝、販売は販売とバラバラでした。たとえば営業マンが取引先から「どんな広告をやるのか」「誰をCMに起用するのか」と聞かれても、商談時期が早かったりすると答えられないケースもありました。そこでマーケティング本部を設置し、開発から宣伝、販売が一体となるマーケティングに変えました。低迷の原因はハッキリしていますから、それらにきちっと対応していけば、必ず結果を出すことができます。

 実際に、5月末に発売した「ぐびなま。」は好調で、次いで6月に発売したプレミアムビール「プライムタイム」も売り上げを上方修正しました。わずかですが、いい結果が出始め、会社全体がいいサイクルで回り始めています。

現状に満足した瞬間に
成長が止まる!

 私はすべての行動はその人の心の持ち方から始まると考えています。ここ数年、もしかすると私たち社員はスーパードライが売れていることに安住する気持ちがあって、新しい発想が出てこなかったのかもしれません。スーパードライのヒットに安住するのではなく、常に「不満足だ」と考えることが大事です。ここまでやったら十分と満足したら、その瞬間に成長が止まってしまいます。現状に満足するのではなく、不満足であると全社員が考えることができれば、新しい発想、新しい商品、新しい営業戦略が生まれてきます。アサヒは「現状不満足」集団になりたいと考えています。

 たとえば、ビールジャンルではスーパードライは50%を超えるお客様のご支持を頂戴していますが、ビールはこれで安心かというとそうではありません。私たちはシェアだけを見てるわけではありません。数年前から、鮮度の訴求や樽生をおいしく飲んでいただく活動を続けてきましたが、すべてやり尽くしたか、もっとビールが売れるマーケットはないか、今までと違う営業施策はないかと常に考えなければなりません。現状不満足という心の持ちようで、アサヒはさらにパワーを発揮し、積極的な行動を起こせると考えています。

 さらに社員に求めたいのは「現場第一主義」と「スピード」です。どんな思いで新商品を発売しようと、あるいはどんなパッケージで出そうと、お客様の支持を得られなければ、その商品は失敗です。その商品はどこかが間違っている。その間違いをすぐに軌道修正していかなければなりません。そのためにはまず売り場にいく。どういうものが売れているか、売り場にどんな変化が起きているか。お客様がどんなビール、発泡酒、新ジャンルの商品を求めているか、また不満を持っているかを探る。お客様の「不満足」を的確に掴み、その不満をどう解消していくか。要は、現場から発想し、スピードを持って対応しろということです。

 アサヒビールに限らず、グループ会社の社員一人ひとりを見ていると、意欲も知識もスキルもみんな一定レベルに達しています。体力だけで入社した私なんかとは全然違います。その優秀な社員がそのまま行動力を発揮できるかというとそうではありません。「知っていること」と「行うこと」は、実は天地ほどの差があります。社員たちに何かいうと、「それはわかっています」と答えが返ってくる。わかっていれば、やればいいんです。一つひとつ自分たちがわかっていることを徹底して実行すればいい。

 予算などの計画も同じです。計画はできたら終わりではなく、その計画をいかに実行するかが大事。90%の力で延々と計画をつくり、残りの10%で実行するのでは、計画を達成することはできません。実際にやってみなければ問題点が見えてこない場合もあります。まず行動すること、実際に動くことが大切です。

 社員のモチベーションをどう上げていくかでは、リーダーや中間管理職の役割が重要です。社員というのは仕事をするのが嫌だと思っているわけではありません。いい仕事をしたい、認められたい、そして自分に任せてもらいたいと考えています。上司からの押しつけの仕事ではなく、自分たちがいろいろ自ら考え、行動したいという意識を持っています。

 私は「任せる」ことが必要だと思います。人のやる気、モチベーションをどうしたら上げることができるか。それは認めることです。仕事を任せ、やらせ、そして認める。どんどん仕事を任せれば、自然に知恵もわいてきます。

 それぞれの現場で、やるべきことを着実に実行していけば、これくらいの逆風は克服できます。そういうパワーを現場は持っています。

 
 
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