航空・証取、勝ち残りの鍵は
「ネットワーク外部性」にあり
航空業界や証券取引所において、国際アライアンスが加速している。
去る6月には、ニューヨーク証券取引所とユーロネクストの合併が発表された。
筆者は、「市場の厚み」と「市場の広がり」を増大するために、
国際アライアンスは有効である、と論じる。
なぜグローバル・ネットワークが必要か
まず本題に入る前に、国際的アライアンス(企業連合)のわかりやすい例から始めよう。
世界では航空会社の国際的アライアンスが進んでいる。日本の航空会社の一つである全日本空輸は、米国のユナイテッド航空やドイツのルフトハンザ航空等と同じアライアンスであるスターアライアンスに加盟している。一方の日本航空は、現在は、どのアライアンスにも所属していないが、近くワンワールドに加盟する計画がある。ワンワールドは、米国のアメリカン航空や英国のブリティッシュ・エアウェイズ等が加盟している。このほかに、米国のノースウエスト航空とフランスのエールフランス等が加盟しているスカイチームもある。これらは共通してグローバル・ネットワークの構築を強調して、それによるサービスの向上を顧客にアピールしている。これらの航空会社の企業連合がグローバル・ネットワークにこだわる理由は、世界各都市を結ぶネットワークを構築することによってサービスが格段と便利になるからである。
グローバル・ネットワークによって何が便利になるか。例えば、成田からアメリカ・サンディエゴに出かけるとしよう。まだワンワールドに加盟していない日本航空を利用すると、成田空港から日本航空でロサンゼルス空港(LAX)まで飛び、LAXで日本航空とのコードシェア便であるアメリカン航空に乗り換えて、サンディエゴに向かうことになる。たとえLAXからサンディエゴまで日本航空のコードシェア便であっても、搭乗手続きのためのシステムがつながっていないために成田空港でサンディエゴまでの搭乗手続きができず、もう一度LAXで搭乗手続きをしなければならない。大体LAXは混み合っているので、時には1時間も搭乗手続きに時間を要することがある。グローバル・ネットワークが構築されていれば、LAXでこんな不便な目に遭うことはない。グローバル・ネットワークによって世界中でシステムがつながれば、成田空港でサンディエゴまで登場手続きを済ませられる。
グローバル・ネットワークは、ネットワークが単に国境を越えるだけではなく地球規模で構築されることを意味する。今や経済活動(先に挙げた航空サービスなど)のグローバル化が進むなか、その基盤となるシステムもグローバル化する必要がある。航空業の例では、ネットワークのグローバル化が競争原理によって進んでいる。グローバル・ネットワークにおいては、ネットワーク外部性が作用すると言われている。ネットワーク外部性の内の「外部性」とは他人の行動が本人の利便性・効用にプラスの効果を及ぼすことを意味する。そして、ネットワーク外部性の「ネットワーク」とはその他人の人数が多ければ多いほど、プラスの効果が大きくなることを意味する。ネットワークがバイ(二つ)の関係を言わず、マルチ(多角的)の関係を言うように、ネットワークのマルチ化が進めば進むほど、そのプラスの効果は増大するのである。
「ネットワーク外部性」が
有効な情報通信業
ネットワーク外部性が強く作用するのは、航空業のように人・モノの移動に関わる産業のみならず、情報の移動に関わる産業である情報通信業やソフト産業もそうである。さらに、資金の移動に関わる産業でも同様である。資金の移動と言っても、現代においては実際に「おかね」が移動するわけではなく、情報通信技術(ICT)を利用して情報として資金が移動する。昨今、自宅にいながら、インターネットを通じて自分の銀行口座から他の銀行口座へ振り込みを行うことができる。確実に銀行の窓口に並ぶ機会が減っている。実際にそれぞれの銀行の支店では窓口の占める面積が縮小し、その代わりにATMがたくさん並ぶようになった。中にはかつて銀行の窓口のあった場所にコーヒーショップやコンビニが占めいていることがあり、銀行が徹底的に効率化を進めている証左であろう。
このように金融業も資金移動という情報伝達を行うという意味で情報通信業と同種の産業と言えよう。したがって、航空業や情報通信業と同様に、資金の移動を商売とする金融業もネットワーク外部性が作用し、グローバル・ネットワークが重要となる。そのグローバル・ネットワークを多国籍企業として単独で構築することも考えられるが、金融業、とりわけ証券取引所はアライアンスによってグローバル・ネットワークが構築される。
ようやく本題に入ろう。去る6月2日にニューヨーク証券取引所(NYSE)とユーロネクスト(Euronext)が対等合併を協議することを発表した。この新しい大西洋をまたいだ証券取引所のグループは、ニューヨーク証券取引所ユーロネクスト(NYSE-Euronext)と呼ばれることになる。ニューヨーク証券取引所は説明するまでもないが、ユーロネクストについては説明を加えておきたい。ユーロネクストは、ヨーロッパのクロスボーダーの証券取引所組織である。2000年9月にパリ(フランス)とブリュッセル(ベルギー)とアムステルダム(オランダ)の取引所が合併して発足した。その後、リスボン(ポルトガル)証券取引所とロンドン国際金融先物オプション取引所(LIFFE)を合併した。パリ、ブリュッセル、アムステルダム、リスボンの証券取引所でクロスボーダーの株式とデリバティブが取引されている。デリバティブについてはこれらの証券取引所に加えてロンドン(LIFFE)もユーロネクストの一部となっている。これらの取引所の合併戦略によって、現物取引、デリバティブ、決済・清算のためのITプラットフォームを統合することにより両取引所の取引システムが統合される。これによって、流動性が増し、費用効果が高まることが期待される。世界最大規模かつ最も流動性の高い証券市場としてのNYSE-Euronextが完成することになる。
ユーロネクストが00年に発足したのは、1999年1月1日にEU11カ国(現在、ギリシャを加えてEU12カ国、07年にはスロベニアを加えて、EU13カ国に拡大する)で金融取引において単一の共通通貨ユーロが導入されたことが大きく影響を受けている。共通の通貨であるユーロ建て資金の移動は、92年に完成した資本市場統合(上場ルールや売買ルールの統一)とともにユーロの登場によって加速されている。99年以降のユーロ導入によって、ユーロ導入国から構成されているユーロ・エリアの短期金融市場では金利裁定取引によってこれらの各国短期金利は完全に均等化されている。長期資金と取り扱う証券市場でもその国特有のソブリン・リスクに起因する長期金利差がわずかに残るだけとなっている。このような動向は、ユーロ導入前後で顕著な相違が見られる。
流動性が不足しているアジアの債券市場
証券取引所の再編の動きは、00年にパリ、ブリュッセル、アムステルダムの証券取引所が合併して、ユーロネクストができたときから見られていた。ヨーロッパでは、ユーロネクストに対抗して、ドイツ取引所とスイス取引所がデリバティブ部門で提携して、ユーレクスをつくる一方、04年暮れにはユーロネクストとドイツ取引所がそれぞれロンドン証券取引所を買収しようとして、両者とも失敗に終わっている。さらには、NYSEのほかに、ドイツ取引所がユーロネクストに合併を提案し、結局はユーロネクストがNYSEを選択した形となっている。
EUの中での証券取引所の合併は、EUにおける資本市場統合に伴う上場ルールや売買ルールのハーモナイゼーションの結果、その効果が直接的に出てきている。例えば、ユーロネクストでは、投資家はパリ証券取引所からアムステルダム証券取引所に上場されている株式を売買することができ、投資家が増大し、ユーロネクスト傘下の証券取引所の「市場の厚み」、すなわち、流動性が高まっている。そして、流動性の高まりから、上場企業も増加し、「市場の広がり」が見られる。一方、NYSEとユーロネクストはそれぞれアメリカとEUの上場ルールと売買ルールに従わなければならず、EU内における「市場の厚み」と「市場の広がり」を容易には増大することはできないかもしれない。逆に言うと、NYSE-Euronext合併の効果が現れるためには、米国とEUとの間の証券取引のルールのハーモナイゼーション、さらには、共通化が必要となる。しかし、このような証券取引所間のグローバル・ネットワークの構築に阻害になるような証券取引ルールの相違は市場のニーズにより取り除かれていく可能性もある。実際にEUの金融資本市場統合が実現したのだから。
目を東アジアの証券取引所に転じると、東アジア諸国の通貨当局の先導によってアジア債券市場イニシアティブ(ABMI)やアジア債券ファンド(ABF)イニシアティブが進められている。現段階ではこれらのイニシアティブがそれぞれアジア債券市場の供給サイドと需要サイドのインフラを整備することから始まっている。そのときに問題となるのは、アジア債券市場の「厚み」、すなわち、流動性の不足である。東アジア諸国間の証券取引所のアライアンス、および、米国とEUの証券取引所とのアライアンスが市場に「厚み」を加えるには有効であろう。











