一見勝ち目のなさそうな強い相手に「なすがまま」にされないために

業界トップ企業の
過酷要求をかわすコツ

 
 
photo
無茶な要求を突きつけてきた相手は
業界屈指の巨大企業。
オファーを受け入れるか、市場から
締め出されるかという状況に直面したとき、
あなたの選択肢を増やすには
どうすればよいだろう。
 
 
ローレンス・サスカインド = 文ディプロマット = 翻訳
 
 

 あなたの会社はこれまでに、市場を支配している巨大企業、いわゆる「体重900kgもあるゴリラ」と交渉せざるをえない状況に陥ったことはないだろうか。今日では多くの産業で一つか二つの企業がすべてのルールを決めている感がある。ネゴシエーターのあなたは、相手が差し出すものがどれほど少なくてもそれを黙って受け入れるか、それとも市場から完全に締め出されるか、という極端な選択に直面している。

 次のような仮定の事例を考えてみよう。写真現像会社、ピクチャークイックは、グローバルに事業展開している巨大安売り小売りチェーン、スーパーマートのアメリカ国内の全店舗に1時間スピード現像ブースを設けている。現在の契約は双方に利益をもたらしているが、スーパーマートはすべてのブースを対象とする全国一括契約の更改にあたり、どの業者でも参加できる競争入札を行うことにしたといきなりピクチャークイックに通告してきた。ピクチャークイックには、競合他社が利益を度外視した安値で喜んで入札するのが目に見えている。何千ものブースを他社に奪われたら、同社は壊滅的な財務的打撃を受けるおそれがある。

 通告からしばらくすると、スーパーマートはピクチャークイックに次のように伝えてくる。「1社から魅力的なオファーがきている。御社が契約を維持するためには、御社の店内売り上げのわが社受け取り分を10%引き上げ、なおかつブース賃借料を10%引き上げる必要がある。これを受け入れなければ、御社とのつきあいはこれまでだ」。

 この要求を呑むという選択肢のほかに、ピクチャークイックの幹部にはどのような選択肢があるだろう。

 弱い立場のネゴシエーターはきわめて強力に見える相手とどのように交渉すればよいのか。こうした場面で使える、三つの交渉戦略を紹介する。

【戦略1】エレガントな解決策を探す

 強力な相手から魅力的とは言いがたいオファーを受けたとき、最善の選択肢はエレガントな解決策、つまり相手が押しつけようとしている案より大きな価値を双方にもたらすことになる対案を探すことだ。こうした対案を生み出すにはどうすればよいのか。

 まず第一に、自分のBANTA(交渉が決裂した場合の最善策)を強くするために、自社の事業戦略を変えることを検討する。具体的には、現在の契約でもっと大きな利益を生み出すために低コストの方法を探す。ピクチャークイックにとって、これは自社の年間売り上げを増やすと同時にスーパーマートの売り上げ目標も満たすということだ。ピクチャークイックは、ブースでオンライン・フォトアルバム作成ソフトなど、新しい商品やサービスを加えることを検討してもよいだろう。あるいは、フォトアルバムやマウスパッドに画像を印刷する会社など、関連商品やサービスを提供するパートナーを見つけるという手もある。このようにすれば、ピクチャークイックはスーパーマートが要求している追加の10%を生み出し、同時に自社の利益を高めることもできる。

 第二に、相手の関心をさらに探ってみることだ。スーパーマートがどのような人口動態セグメントを新たに店に呼び込みたいと思っているかを突き止めるのだ。スーパーマートの現行製品ラインで収益性が落ちているものは何か、競合他社に負けている分野は何か──このような情報を手にしたら、ピクチャークイックはスーパーマートが現在の問題を解決するのを手助けできるかもしれない。スーパーマートが現在扱っていないコンピュータゲームを販売するという副次的なビジネスを提案してもいい。こうやってスーパーマートの店舗に出店したいと思っている潜在的パートナーを巻き込むのだ。

 第三に、強い側にとっての価値を生み出す他の方法を検討してみよう。ピクチャークイックは、出来上がった写真を自社独自の封筒に入れて渡すのではなく、スーパーマートのロゴをあしらった共同製作の封筒に切り替えてもよいだろう。

 また、封筒にスーパーマートのクーポンを入れたり、出来上がった写真の裏にスーパーマートのロゴを印刷したりしてもいいだろう。共同ブランド構築などの新しい形の宣伝によって、ピクチャークイックは両社のパートナーシップに価値を付加し、他社に乗り換えるよりもこの関係を維持するほうがスーパーマートにとって得であるというデモンストレーションを行うことができる。

【戦略2】原則に訴える

 実際の交渉では、金銭以外の要因が交渉の一方または双方の当事者にとって、自分が思っている以上に重要であることが多い。あなたは相手側に彼らの関心について質問することで、これら他の要因を突き止めることができる。相手側が従っている基準や基本原則なりを突き止めれば、より強い立場で問題の解決方法について話し合うことができる。

 コツは、相手側が自分たちの成功をどのように測定しているかを突き止め、それから相手がその目標を達成するのを手助けできる方法、しかも、こちらのコストが最小限ですむ方法を考え出すことだ。たとえばこんなふうに切り出して相手の反応を見てみよう。

●どこかの会社がわが社と同じサービスをもっと安い価格でオファーしているとしたら、その会社は単に御社に入り込むために無理な安値を提示しているだけだ。その価格では質の高いサービスを提供できない。不満を持った顧客は御社から離れていくだろう。

●われわれはすばらしい協力関係を築いている。わが社の柔軟性と忠誠心は御社にとっていくばくかの価値がありはしないのか。

 このような訴えに対して「これを受け入れないなら、御社とはこれまでだ。喜んで出店してくれる別の業者がいるのだから」という反応が返ってくることも考えられる。しかし、賢明な企業幹部は、短期的な収益性の向上だけでなく堅固な協力関係や顧客満足も大切にすることの重要性を理解している。

 原則に訴える主張は、もちろん適切な人物に対して行うことが大切だ。可能なかぎりよい条件を引き出す責任を負っている中間管理職は、こうした主張を聞かせる相手として適切ではない。強い相手と取引しているときは、その取引関係が続いているかぎり相手側のトップ・マネジメントとのつながりを育んでおこう。

【戦略3】競合他社と戦略的提携

 前の二つの戦略は最も好ましいが、それがうまくいかない場合もある。交渉での弱い側であるあなたは、強い相手があなたの会社を排除するよりよいオファーを引き出すのを難しくする戦略的提携を結ぶことで、自社の力を高めることができる。

 ピクチャークイックが、現在の契約が終わる1年近く前にスーパーマートの強気の交渉を予想していたと想像してみよう。その場合、ピクチャークイックは入札で自社の対抗馬になる可能性が最も高い同業他社を簡単に見きわめられていただろう。ピクチャークイックのライバルの立場からすると、スーパーマートとの契約を獲得できれば、当初はほとんど儲からなくても、大成功ということになる。

 もう一つの選択肢は、最強のライバルではなく、2番目に強いライバルとの提携を模索することだ。この場合、業界リーダーのピクチャークイックは、3番手か4番手の業者にスーパーマートに対して合同入札を行わないかと声をかけることになる。あなたの会社とその格下の同業者は、2番手の同業者が単独で出せる条件よりよい条件を相手に提示できなくてはいけない。

 提携すると、二つの会社の総合力はそれぞれの力の合計を上回る。そのため、ピクチャークイックとスーパーマートがともに進出したいと思っている市場で活動しているパートナーを見つけることが、理想的な解決策になることがある。

 多くの場合、巨大企業は、自社の長期的な利益全般を重視することがいかに大切かを理解していないかもしれない。それどころか、あらゆる交渉を、豪腕をふるって弱い相手を打ち負かす機会とみなしているかもしれない。そうした状況では、あなたの最善の対応は、経営幹部に対して現行の契約よりよいエレガントな案を提示することだ。さらに、信頼性や忠誠心など、業者を変えることで損なわれるおそれのある重要な原則を持ち出して、議論の場をそれらの基準を満たす方法を探る場に変えてもよいだろう。

 
 

おすすめコンテンツ

 
 
PRESIDENT 2006年5.15号
PRESIDENT 2006年5.15号
税込価格 650 円
売り切れ
 
PRESIDENT公式twitterアカウント

メールマガジン <プレジデントニュース>

 
 

「プレジデント」編集部員による取材現場でのこぼれ話やビジネスマンに役立つオリジナルコンテンツ、新刊書籍案内などを、週1回のペースでお送りいたします。

メールマガジン申込・登録変更