職場の心理学 [137]

増殖する
「仮面ニート族」への対処法

 
 
かりそめに職場に身を置いてはいるものの、意欲や目的を失ったまま
働き続ける「仮面ニート族」が増えているという。
仮面ニート族がドロップアウトしていくと、競争力を維持向上するうえで、
会社は必要不可欠な戦力を失うこととなる。
 
 
トーマツコンサルティング ディレクター
寺崎文勝 = 文
text by Fumikatsu Terasaki
てらさき・ふみかつ●
早稲田大学第一文学部心理学専修。役員制度改革、組織人事改革のコンサルティングを数多く手がける。著書に『勝てる会社の人材戦略』『役員報酬・評価改革のすすめ方』などがある。
高橋常政 = イラストレーション
illustration by Tsunemasa Takahashi
 
 

社内失業状態に置かれている
「仮面ニート」たち

 日本経済が復調し、大企業を中心に業績が回復するなかで企業の採用意欲が高まっている。特に新卒採用に関してはバブル経済崩壊後の“就職氷河期”から一転して売り手市場になっており、優秀な若手社員の確保が多くの企業にとって重要な課題となっている。

 若年層を中心に労働市場の需給関係がタイトになるなかで、ニート(働いておらず、学校にも通っていない、職業訓練も受けていない若者たち)の問題は、日本経済ならびに企業の持続可能性に暗い影を落としている。

 64万人とも85万人ともいわれるニートについて、現時点では学校を卒業したものの働くことへの第一歩が踏み出せない「新卒ニート」に関心が集まり、その対策が急がれているが、企業経営においてはむしろ、いったんは職に就いたものの、その後就業意欲を失ってしまった「退職型ニート」の存在に目を向ければならない。

 内閣府の「若年無業者に関する調査(中間報告)」によると、20〜24歳で非求職型ニート(就職希望を表明していながら求職活動は行っていない者)の52%、非希望型ニート(就職希望を表明しない者)の27%が一度は職に就いたにもかかわらずニートとなったとされている。これが、30〜34歳となると非求職型で76%、非希望型で37%まで上昇することからも、退職型ニートをいかにして減らすかが人材マネジメントの重要な課題であることがわかる。

 働く意欲を持ち、夢や希望を抱いて入社してきた若者が、働く意欲をなくしてしまい、失意のまま退職してしまうのは、若者にとって不幸なのはもちろんのこと、会社にとっても競争力を維持向上するうえで必要不可欠な貴重な戦力を失うという大きな損失を被ることになる。

 若手社員が退職型ニートに転落するのを防ぐためには、退職型ニートの前段階となる「社内ニート」の芽を摘むことが肝要である。社内ニートには2種類あって、一つは、なにかのきっかけで、ある日突然働けなくなって離職するリスクが高い「ニート予備軍」である。このタイプはニートとなってしまうまでは普通に、あるいは人並み以上に働いている者が多い。

 もう一つは、働く意欲や目的を失ったまま働き続ける「仮面ニート」であり、かりそめに職場に身を置いてはいるものの、実質的にニートと変わらない者である。

 このタイプは、本人に働く意欲がない、またはその結果仕事をするうえで必要なスキルを身につけることができないがゆえにやる仕事がなく、仕事を与えてもらえない社内失業状態に置かれていることが多い。

 誤解のないように言っておくが、仮面ニートを「仕事に情熱を持つことなく、会社への帰属意識もないままほとんど働きもせず、ただ来て帰るだけの給料泥棒」と単純に現象面のみを捉えてしまっては本質的な問題を見誤ることになる。

 ニート予備軍と仮面ニートの違いは、ニートとなるリスクが顕在化しているか否かの違いにすぎない。問題なのは、もともとは働く意欲を持って職場にやってきた若者が社内ニート化してしまう点にある。これにはいくつか理由があるが、ここでは「働くことの意味」に焦点をあてて話をする。

 ニート問題は若者が未来に希望を持てなくなってしまった日本社会にその一因がある。苦労して就職し、辛いことも我慢して一生懸命努力し、長い年月を通して働き続けても何もよいことがないのだとすれば、人はいったい何のために働くのだろうか。

 実はそれはニートの当事者である若者の問題であると同時に、親の世代、中高年世代の問題でもある。「自分はいったい何のために働いているのだろうか?」と自問して答えられないのであれば、年齢に関係なくいつニートになってもおかしくないのである。

 バブル経済崩壊後10年以上に亘って、企業は財務基盤を強化するためリストラクチャリングの名の下に人員削減を推し進めた結果、雇用は不安定なものとなり、一人あたりの業務負荷は心身共に高くなっている。

 一生懸命努力してもリストラで職を失ってしまう、過労死やうつ病になるリスクが高まる、きつい割には報われない。だとすれば働く先には灰色の未来しかないのだと思う若者を責めることはできない。

 社内ニートは、夢も希望も抱いて入社した職場で待っていたのが、まさにそのような現実であったことに端を発することが少なくない。望んで入ったはずの会社であったのに、自分なりに描いた働くうえでの理想と現実との埋めがたいギャップに打ちのめされて働く意欲を失ってしまうのである。

 嫌々やらされる仕事とは“労働”であり“苦役”である。働くということ、仕事をするということには本来は前向きなニュアンスが含まれていなければならない。仕事に夢が持てない職場、働くことにやりがいや面白みを見いだせない職場では、若手社員が社内ニート化するリスクが高い。

 それでも、自分が目標として目指そうと思えるロールモデルたりうる上司や先輩がいる職場で働く若手社員は幸せである。自分の仕事にプライドを持っていきいきと働く上司や先輩を見れば、たとえどんなに苦しかろうと働くということは案外、悪いものではないと思えるだろう。

 若手社員は、自分の5年後、10年後、30年後の姿を上司や先輩の“今”に投影して見ているのだ。その意味では、中高年社員がいきいきと働いていない職場で、若手に働くことの希望を与えることはできない。若手社員をニート化させないためには、中高年社員を“輝かせる”ための人事マネジメントでなければならない。

親の世代よりも豊かになれない
初めての世代

 われわれ中高年世代は、ニートとなってしまう若者に対してややもすると「辛抱が足りない」「甘えている」「働くということはそんな楽なもんじゃない」などと、自分の経験や価値観を踏まえて苦言を呈しがちである。しかし昔と比べて今の若者は辛い思いをしてまで“働く意味”を持つことが難しくなっていることを理解すべきだ。

 経済大国となった現代の日本では、働かない子供の面倒を見ることは以前ほど難しいものではなくなっている。文字通り“食うために”働くという必然性が薄れてしまったのである。つまり、心理学者マズローの欲求段階説における低次欲求がすでに満たされている状態で、豊かな若者は、より高次な欲求をワークモチベーションとして“見つけ”なければならなくなっているのだ。

 また、高度経済成長を肌で感じて育った世代であれば、働くこととは豊かになることであり、働くことでよりよい未来を手にすることができていることを信じることができた。しかし、今の若者が生まれて物心つく頃には、日本はすでに世界第2位のGDPを誇る経済大国となっており、豊かさを生まれながらにして享受している。

 米国では20世紀後半に、「親の世代よりも豊かになれない初めての世代」が顕在化して社会問題となったが、日本でも最近になって同様のことが起きているのではないか。「昨日より今日、今日より明日はきっとよい日」という希望に満ちた未来は失われてしまったかのように見える。

 働かなくてもすでに豊かであり、働けばより豊かになれるということが確約できないのであれば、若者に対して「豊かであるために」「楽ではないかもしれないが働け」と言うことはもはやできないだろう。

未熟な若者でも
レコグナイズするマネジメントを

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図:最終学歴別構成比

 若者にとって働くことの自明性がなくなってしまった今、彼らは“働くこと”の意味を強く求めるようになっている。自明性がなくなったということは、一人ひとりが自分なりに働くことの意味づけを行わなければならないということである。

 ニートが働かない、働けないのは、働くことの意味を見つけられずに身動きがとれなくなっている状態であると理解すべきだろう。

 だとすれば、若者に意欲を持って働いてもらうためには、われわれの世代が働くことの意味を見いだす手伝いをしてやることが必要であり、義務なのではないだろうか。

 あなたの会社では、働くことが自明であった時代の感覚をいつまでも引きずったまま、昔と変わることのないマネジメントを行っていないだろうか。

 ワークモチベーションが多様化する時代に「カネを稼ぐため」「出世するため」のみを前提とした人事制度はもはや機能しない。将来ある若手社員をむざむざニート化させないためにも、彼らの働く意欲に応えてやれるような人材マネジメントを実現しなければならない。そしてそれは若手のみならず、すべての世代の従業員のためでもある。

「人は何のために働くのか?」という問いかけへの答えはいたってシンプルである。それは「報酬を得るため」にほかならない。ただし、ここで間違えてはいけないのが“報酬=カネ”ではないということだ。報酬(リワード:reward)はおカネに限らず、その人が求めているもの、欲しいものすべてが報酬となりうる。

 ワークモチベーションを高めるための人材マネジメントの施策は単純明快で、そのような報酬を与えればよいのである。難しいのは、報酬は従業員の数だけ存在している点であり、ある人にとっての報酬は他の人にとっては報酬となりえないということである。

 若手社員の働く意欲を引き出し、ニート化させないためには、彼ら彼女たちが求めるものを会社が報酬として用意してやる必要がある。特に“いまどきの”若者たちは、「仕事自体の持つ面白さ」「働きがい、やりがい」「社会の役に立っている実感」「仕事を通しての成長」を重視する傾向がある。

 若手社員に働く意味を見いだしてほしいと本気で思うのなら、彼らがそう思えるような仕事を与えているか、そう思えるように動機づけているかを改めて考えてみることが大切である。

 例えば、若手が彼らの経験や能力の範囲内で自分なりにベストを尽くした仕事でも、上司から見れば、当然改善の余地が多々あり、絶対的なクオリティからすれば物足りなく見えるかもしれない。

 だからといって、それを否定するようなことをしてはならない。まずは、彼らなりに仕事をしたことを認めてやらなければならないのである。これは、人材マネジメントではレコグニション(recognition)として重視されている。

「いつもよく頑張ってくれているな」「おまえは間違いなく成長しているよ」「まだ半人前かもしれないが、俺はおまえに期待しているから」という言葉を、心の奥底から本人に伝えてみよう。

 未熟な若者だが、その存在を認める=レコグナイズすることが、若者にとってはこのうえない喜びとなり、「働くことも悪くない」と感じることに繋がるはずである。それは、働くことの本質的な意味を知ることになるのではないか。

 もちろん、おカネや出世のために働く若者は今も昔も変わることなく存在しているし、一方で仕事と私生活のバランス(work-life balance)を重視する者もいる。

 中途半端にどっちつかずの報酬を従業員に与えようとするのではなくて、できるだけ多様な報酬を用意しておく。それが、働くことの自明性を失った、現代日本社会で必要となる人材マネジメントなのである。

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