絶対に勝てると思った交渉にあっさり負けてしまうのはなぜか
自信過剰の交渉者が
はまる「自滅」の罠
いくつもある。
相手の力を過小評価してしまったり、
いらぬ競争心をあおったり……。
こうした過ちをおかさず、
強みを活かしきるにはどうするか。
相対的に強い交渉力を持つネゴシエーターは弱い相手より大きな成功をおさめることが、研究により明らかになっている。しかし、力は大きな重荷になることがある。強いネゴシエーターは、誤った認識や壮大な幻想や間違った戦略にとらわれやすい。また、力は弱いほうの側に信頼できない行動や非情な判断や競争的な動きをとらせる。
本稿では、力が交渉での成功を保証してくれると思い込んでいるネゴシエーターのために五つの注意事項を示し、続いて、こうした間違いをしないようにするための戦略をお伝えする。
(1)相手は思っているよりも強いことがある
あなたが法人対象の営業マネジャーで、年に一度の昇給交渉の準備をしているとしよう。あなたは自分は貴重な社員であるだけでなく部内でトップの業績をあげていると思っている。そして、最も大幅な昇給を得られるはずだと確信している。しかし数人の同僚と雑談するなかで、彼らがあなたの業績を認めながらも、自分たちもあなたが思っている以上にチームに貢献したと確信していることに気づく。
どちらが正しいのだろう。交渉における力の影響を調べる研究で、ノースウエスタン大学のデービッド・メシック教授と私は、強いプレーヤーはさほど強くないプレーヤーの力を過小評価する傾向があることを発見した。われわれは被験者に模擬三者交渉を行ってもらうことにして、交渉の前に各ネゴシエーターに三者の力を評価してもらった。相対的な力の順位については三者とも同じ意見だったが、2位のプレーヤーの力については三者の認識が異なっていた。具体的に言うと、1位のプレーヤーは、2位のプレーヤーの力について、2位および3位のプレーヤーの認識よりはるかに低い評価を下していたのである(2位と3位のプレーヤーは、似通った認識を持っていた)。
このような自己過信の認識は、強いネゴシエーターに問題をもたらすことがある。強いネゴシエーターは、相対的に弱い相手が期待しているほど譲歩を申し出ないだろうし、当然受けられるはずだと思っているほど敬意や謝意を示さないだろう。
(2)自分は思っているほど有益な情報を持っていない
強いネゴシエーターが行う分析は、相対的に弱い相手が行う分析ほど有益でも正確でもない公算が高い。
コーネル大学のエリザベス・マニックスとスタンフォード大学のマーガレット・ニールは、強いネゴシエーターは弱い相手の利益をなかなか正確に判断できないという研究結果を発表している。
弱いネゴシエーターのほうが相手の利益をはるかに正確に判断する傾向がある。力を握っている人々が単純な情報処理を行う傾向があるのに対し、弱い側はより周到かつ複雑な情報処理を行うことが多い。
もちろん、交渉で強いプレーヤーと弱いプレーヤーが同一の情報を受け取ることはありえない。デービッド・メシックと私は、力は矢を防ぐ盾というよりも、むしろ矢を引き寄せるダーツ盤に近いことに気づいた。弱いネゴシエーターは認識上の力の不均衡を「正す」ために、情報を歪曲して伝えるなど、自分が必要だと思うあらゆる手段を用いる可能性が高い。われわれはある実験で、弱いネゴシエーターが強い相手に情報を伝えるときのほうが、その逆の場合より真実を曲げる可能性が高いことを発見した。
(3)あなたは無敵ではない
昇給交渉の話に戻ろう。たとえば、あなたと顧客のやり取りについて、明らかに真実ではない批判的な話を同僚があなたの上司に伝えたことがわかったとしよう。あなたは彼らの裏切りに驚き、ショックを受ける。
嫉みからであれ、不公平感からであれ、相対的に弱い側は強い相手に失敗してもらうために必要なことは何だってやるものだ。残念ながら、強い側は往々にして相手の悪意に気づかない。事実、われわれの研究では、人は強ければ強いほど、他人についても信頼できると思ってしまうことが明らかになっている。この思い込みのために、強いネゴシエーターは裏切りや他の形での力の奪取など、別の筋書きが見えなくなるのである。
(4)あなたは厳しい基準に従うよう求められることになる
契約を破ることは非倫理的か。人々はこの問いに答えるとき契約を破った者の力を考慮に入れることが、われわれの実験で明らかになっている。契約を破った者が強ければ強いほど、その行為を非倫理的とみなす被験者が多くなるのである。この実験結果が示すように、力を持つ人々はさほど力のない人々より高い倫理的・道徳的基準に従うよう求められる。
あなたが強い側のネゴシエーターだとすると、「みんながやっていることだ」とか、「私は関与していなかった」などという言い訳は、おそらく通用しないだろう。
(5)あなたは熾烈な競争をけしかけることになる
交渉では、強い参加者はゲームの質を変えてしまう。認識上の力の差が大きければ大きいほど、自分の利益を最大にすることだけをめざすプレーヤーが多くなる。それに対し、力が比較的均等に分散されていると認識しているときは、ネゴシエーターは、すべてのプレーヤーの総合的な利益を最大にすることを究極の目的とみなす傾向が強い。
昇給交渉に関して言うと、彼らがあなたを勝者とみなしていればいるほど、彼らは部署の利益を高めるために団結するのではなく、自分個人の昇給のために戦う可能性が高い。
こうした落とし穴があるとしたら、強いネゴシエーターはどうすればよいのだろう。次のステップに従うことで、あなたは競争的行動ではなく協力的行動を促しながら、自分の優位を維持することができる。
●自分の力の基盤から離れてみよう
あなたは自分が優位にいると思っているかもしれないが、力は見る側の見方によって決まる。この現実を受け入れるためには、力の基盤をなすものについての自分の概念を広げることが往々にして必要になる。財力は一般に最も明白な力の源泉だが、よい人間関係を保つことや専門家とみなされること、それに双方に利益になる解決策を案出することも、力の基盤になる。これらのスキルの中心にあるのは、交渉相手の利益にプラスにであれ、マイナスにであれ影響を及ぼす能力だ。力は多面的であることに相手が気づいていたら(そしてあなたが気づいていなければ)影響を及ぼし合うゲームで相手が勝つことになろう。
●相手より多く準備しよう
強いゴリアテをさほど強くないダビデが打ち倒した話は、毎日ニュースに登場する。あなたが明日のゴリアテにならないためには、自分が相手の立場にいたら行うはずの徹底的な準備と分析を行うことによって、弱い側の有利な点を突き止め、理解するよう努めるべきだ。成功は間違いないなどとけっして決め込んではならない。
●データに自ら語らせよう
あなたが相対的に強い立場にいるネゴシエーターだとすると、最もしてはならない行動は強引に結果を引き出そうとすることだ。「そちらにどんな選択肢があるというのか」などと脅しをかけることや、「誰にとってもこれが最善の道だ」などと言いくるめようとすることは、あなたに対抗するために団結する動きをあおり、報復を促すだけだ。それよりも、データに自ら語らせよう。特定の解決策がよいことを示す客観的かつ論理的な根拠!)!)相対的に弱い立場の相手にとってはるかに受け入れやすい根拠を提示するのである。
●「中立」のメンバーを見つけよう
あなたがどれほど公平であろうとしても、交渉ではあなたの持つ力があなたに不利に働いて、疑念や怒りを招くことがある。交渉の関係者もしくは部外者のなかから、あなたの利益と連動する利益を持つ中立のメンバーを見つけて、そのメンバーに提案中の解決策がなぜお勧めなのかを説明する機会を与えてみよう。すべての当事者から道理がわかっていて公平とみなされているメンバーは、最も効果的なメッセンジャーになるはずであり、あなたの主張が受け入れられる公算を大幅に高めてくれる。
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