あきらめてはいけない。「絶望的状況」にも勝機はある

勝ち目なき交渉を
逆転させる三つの戦略

 
 
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どう見ても状況が自分に不利な交渉でも、
戦略次第では最悪のシナリオを
避けることはできる。
どうしたら圧倒的に弱い立場から
脱することができるか。
 
 
ディーパック・マルホトラ = 文ディプロマット = 翻訳
 
 

 交渉に関する講座やセミナーを受講したマネジャーや企業幹部がよく口にする不満は、弱い立場で交渉するときはどうすればよいかを十分教えてもらえない、というものだ。あなたのBATNA(best alternative to a negotiated agreement)、つまり交渉が決裂した場合の代替案がどうしようもなく弱いとき、あなたは何ができるのだろう。

 あなたの交渉力がどうしようもなく弱そうに見えるとき、それを強くするためにできることはいくつかある。本稿では、自分の立場を強くするための三つの主な戦略を紹介する。(1)自分のBATNAを隠し通す、(2)自分に対する相手の依存度を高める、(3)同じ弱い立場の他企業と組んで力を高める、の三つである。

(1)弱いBATNAを悟られない

 先だって住宅探しをしていたとき、私は大きなタウンハウスを見つけてオファーを出すことにした。売り手の希望価格を払う用意はあったが、必要以上に高い額をオファーしたくはなかった。どれくらいの額にすべきか考えるなかで、私はいくつもの要因を比較検討した。私がとくに注目したのは、このタウンハウスが空き家になっていることだった。オーナー一家はすでに転居しており、現在、2軒分の住宅ローンを払っているのは明らかだった。私との交渉が行き詰まったら、オーナーはかなり苦しい立場に追い込まれるだろう。この点に気づいたおかげで、私はその家に住居者がいた場合に比べて低い額を、自信を持ってオファーすることができた。売り手は結局、私の最初のオファーにきわめて近い額(希望価格とはかけ離れた額)を受け入れた。

 オーナーは自分の交渉力を高めるために何をすればよかったのか。一つは、家が売れるまで家具の一部または全部を残しておくことだったと思われる。そうすれば、自分の弱いBATNAを隠しておくことができたはずだ。

 交渉でよくある、代償の大きいミスは、自分のBATNAをさらけ出してしまうことだ。BATNAが弱いときは、この代償はかなり大きく膨れ上がる。だが、相手はえてしてあなたの弱い立場に気づかないものだ。交渉がまとまらなければあなたがどれほど窮地に陥るかをわざわざ教えてやって、相手を有利にしてやることはない。あなたに他の選択肢がないことを相手が知らなければ、弱い立場はさほど悲惨なものではない。

 MBAコースを卒業する学生からよく聞かれるのだが、就職の交渉で会社側から他社からのオファーについて質問されたら──そして他社からのオファーがないときは──どう答えればよいのだろう。質問に答えないという選択肢は、まずありえない。ウソをつくのも利口な作戦ではない。それよりも、「他のオファーはまだきていません」と、自信満々で答えるべきだ。確たるオファーを受け取っていなくても、あなたのBATNAが弱いわけではないということを伝えるのである。

 企業幹部が時間のプレッシャーのなかで事業の売却について交渉する場合にも、サプライヤーときわめて重要な購入契約について交渉する場合にも、独自のサービスを提供している事業者と外注契約について交渉する場合にも同じ力学があてはまる。これらのケースでは、その取引の緊急性やその購入契約の重要性、あるいはそのサービス提供者の特権的立場など、あなたの弱さの原因を相手に悟られないよう注意しよう。そのためには、その話題を避けたり、(どれほど少なかろうと)自分の立場の強みを強調したり、自分のBATNAから相手のBATNAに話の焦点を移したりするとよい。

(2)相手の依存度を高める

 弱い立場に置かれたら自分の弱いBATNAだけに注目して、相手のBATNAについては検討しないネゴシエーターがあまりにも多い。われわれはともすると、交渉が決裂したらどうなるかという点に関心を奪われて、自社がその取引に提供する独自の価値を見落とすきらいがある。

 自分のBATNAが弱くても、相手のBATNAもまた弱ければ、さほど心配する必要はない。特定の会社と取引する以外によい代替案がなければ、それは問題ではあるが、その会社があなたの会社と取引する以外に選択肢がないとしたら、あなたのほうが強い。

 幸いにも、現実にはほとんどのネゴシエーターが、何らかの価値あるものを相手に差し出すことができる。重要なのは、どのような独自の価値を差し出すか(差し出せるか)を見きわめることだ。この価値を高めることができればできるほど、より大きな利益を得ることができる。あなたの会社に、あるいはあなたの会社の製品やサービスや提案に相手がどれほど依存しているかを浮き彫りにできれば、あなたは弱い立場での交渉にともなう不利益を軽減することができる。

 入札によって仕事を獲得する企業は、価格を下げることでしか仕事をとれない弱い立場にいるとよくぼやいている。全部で何社いるかわからない他の入札者と競争しなければならないのだから、これらの企業はたいてい、どうすればその仕事を獲得できるかという暗黙のシグナルを受け入れる。これらの企業が、(概してリスクの高い固定価格契約ではなく)コスト・プラス契約を要求しようものなら、顧客は帳簿を公開してコストを──したがってそれらの企業の取り分を──明らかにするよう要求してくるだろう。それはこれらの企業にとって最も応じたくない要求だ。

 そのような状況で、あなたの立場を強くするにはどうすればよいのだろう。まず、その潜在顧客とたびたびコミュニケーションをとって、彼らのあらゆるニーズや関心や優先事項を把握するよう努めよう。信じがたいことだが、入札企業はえてして、特定の顧客が「典型的な」顧客とどう違うのかを見きわめる作業にほとんど時間をかけない。情報収集が不十分なのは、一つには入札方式が概して価格というただ一つの問題に重きを置きすぎたものになっているためだ。その場合、入札者はコストを下げることだけに精力を集中させがちだ。しかし、その潜在顧客がプロジェクトの完了時期や支援スタッフのレベルをとくに重視していることを発見したら、あなたは他の入札者より優位に立つことができる。

 もう一つの方法は、価格以外の面で価値を付加できる方式を編み出すことだ。たとえば、一つではなく二つか三つのオファーを出すことを考えてみよう。一つのオファーは価格とサービスを低く抑え、もう一つは両方をいくぶん高くしてみてもよい。その顧客が本当にサービスを重視しているのなら、少し余分の費用を払えば一段上のサービスを受けられることを教えられたことに感謝するだろう。

 より一般的に言うと、入札する企業は、顧客のさまざまなニーズを理解し、それらのニーズに応える独自の価値提案を生み出し、それらのニーズを満たす自社の能力を伝えることが決定的に重要だ。このアプローチは、単に巧みな入札戦略であるだけでなく、顧客が求めているものでもある。

(3)同じ弱い立場の他企業と協力する

 あなたの交渉力を高めるためには、同じ立場の他の企業と連携することが最も効果的な場合もある。

 一例として、労働組合の基盤をなす論理を考えてみよう。被雇用者が経営陣と交渉するとき、一人ひとりの被雇用者は弱い立場にいる。

 それに対し労働組合は、被雇用者が団体で交渉し、それによって自分たちの弱さの原因を取り去ることを可能にする。一人の人物(もしくは一つのチーム)がすべての被雇用者の利益をまとめて代表するとき、会社は被雇用者同士を競争させることができなくなる。団体で交渉することによって、被雇用者は互いの競争を避けて協力するのである。その結果は、市場賃金を上回る賃金だ。このプロセスは市場の非効率性を生むが、力とカネを株主から被雇用者に効果的に移転する。驚くにはあたらないが、企業は概して社員の組合結成の動きを阻止しようとする。ウォルマートなど一部の企業は、昔から見事にそれに成功してきた。

 弱い立場で交渉することになったら、最善の策は自分のBATNAを強くしようとすることだ。だが、これが不可能だとわかっても、あきらめてはいけない。本稿で紹介した三つの戦略が、自分の立場を強くするためにあなたが必要とする力を与えてくれるはずだ。

 
 

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