特集/会議の技術

「儲かる知恵」が次々湧き出る秘密
#5
サイバーエージェント式

2週間で新事業を立ち上げる法

 
 
05年売上高前期比57%増の見込み。08年売上高1000億円を目指す話題の社長、
藤田晋氏率いるサイバーエージェント。その成功の裏にはわずか14日で
新規事業をつくるスピード会議が存在した。その全貌をここに明らかにする。
 
 
永井 隆 = 文
ながい・たかし●
1958年、群馬県生まれ。フリージャーナリストとして経済誌などで執筆中。11月に『現場力』(PHP研究所)を発売予定。
田辺慎司 = 撮影ライヴ・アート = 図版作成
 
 

「時間をとにかく短くするよう、僕が指示を出しました。若い人は、時間が経つほどに自分がもっているアイデアに固執してしまう。落選したとき、現状の仕事にすぐ戻れるよう配慮しています」

 インターネット広告代理店、サイバーエージェントの藤田晋社長は、社内公募による事業プランコンテスト「じぎょつく」について、審査スピードを強調する。

 じぎょつくは、昨年夏から始まり、1月と7月の年間2回実施されている。自分で事業をやりたいと希望する社員はエントリーして、社内審査を受けて認められれば予算を与えられて事業化される。認められた社員は事業の責任者になる。

 だが、驚くのは決定までの早さである。応募書類を提出してエントリーすると、わずか2週間で結果が明らかになるのだ。

 西條晋一取締役は「3年ほど前、『新事業をつくるパワーが低下した』『何か制度をつくったらどうか』と、役員間で話し合ったのが、じぎょつくをつくるきっかけでした。日頃、業務に忙殺されているものの、ビジネスアイデアを温めている社員にそれを出してもらう。その機会を提供している形です」と説明する。

 じぎょつくのスケジュールはこうだ。

 まず、イントラネット上の社内報に「告知」され、応募用のフォーマットも掲載される。社内では特製ポスターも貼られ、人事部主催の説明会が開かれる。

 説明会では、人事部が制度の趣旨を話した後、担当役員である西條氏がネットビジネス全般について講義。続いて、社内カンパニーのプレジデントが応募フォーマットにアピールすべきポイント、予選通過のための勘所を指摘。さらには、前回のグランプリ受賞者による、成功体験談が披露される。

 説明会は1時間半程度。ちなみに、説明会の出席者は30人程度だが、実際に応募するのは約20人。年齢的には同社の平均年齢の28.1歳と、ほぼ同じ。また、説明会に出なくても、応募可能。

 応募者はフォーマットに沿い、4、5枚の企画書を人事部に提出。人事部でスクリーニングした後、役員会に回す。通過すると、「じぎょつくアカデミー」という講義がある。この場で、西條氏が事業計画作成のポイントなどをレクチャー。

 そして、いよいよ最終選考会。全役員を前に、パワーポイントを使って15分前後のプレゼンテーションを行う。

 藤田社長ら役員から、マーケット分析やビジネスの将来の見通しなどについての質問が出る。応募者はこれに答えるが、「その答え方から、本人のやる気度をチェックします」(西條氏)。ちなみに、提案されるビジネスは本業に近いネット・IT関連である。説明会などですでに提案者に接している西條氏は、「私は“諭す感じ”で質問をします。役員から無茶な厳しい質問は出ない」と話す。

 提案者は自分のプレゼンを終えると帰ってもいいが、別の人のプレゼンを見ることも許される。

 プレゼンが終わると、別室で全役員が審査をして結果はこの日のうちに発表される。ビジネスドメインの将来性やビジネスのユニークさ、後発で競合がある場合は差別化できているか、本業との相乗効果があるか、そして何より本人の意気込みなどが審査基準。審査会議は「重苦しくはないけれど、真剣な雰囲気」(西條氏)というが、素早い会議である。

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業績は期待していない。
真の目的は人材育成

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上:「事業成功にはスピードが必要。でも僕がひっぱるのではなく、社員が自由に意見を出しあえる雰囲気づくりと成長できる機会を与えることを心がけています」と藤田社長。
右下:取締役の西條晋一さん。左下:広報担当の上村嗣美さん。

 藤田氏は「あくまで、人材育成が目的。事業を興すということは、そんな甘いものではありません」と話す。業績への貢献ではなく、人材育成を目的にしているのは、じぎょつくの特徴だ。

 藤田氏は次のように言う。

「基本的に若い人のアイデアは、使えません。素晴らしいアイデアが現場から生まれるのは皆無なのです。僕は24歳で社長になりましたが、実は何もわからなかったし、自分のアイデアに自信をもてませんでした。インターネットの営業会社という最初のコンセプトも有線ブロードネットワークス(現USEN)の宇野康秀社長が言ったものを、形にした。価格帯にしろ、商品特性にしろ、経験している人がやっているものなら間違いはない。この点、学生を含めて若い人は、自分のアイデアにひたすら固執してしまう」

 人材育成を目的にしているじぎょつくだが、大企業のような長期的な管理職の育成を目指してはいない。サイバーエージェントは、マネジメントができる人を早急に必要としている。会社の成長スピードに人材の絶対数が追いつけず、現在は「タマ不足の状態」(藤田氏)。新事業立ち上げ、既存事業のマネジメント陣強化、合弁企業の立ち上げと、矢継ぎ早の展開であり経営を担える人が足りない。

「ゼロからの事業立ち上げを経験した人は、応用が利く。たとえ失敗してもです。じぎょつくで立ち上げて、失敗を経験した25歳の女性をサイボウズとつくる合弁会社に送り込みます。一度打席に立った人間は、実戦でのパフォーマンスがまったく違いますから。じぎょつくとは実践教育なのです」

 と藤田氏。

 1回のじぎょつくでは、1、2件を採用、事業化する。提案者は事業責任者になる。今年1月には、使えなくなった子供服を回収してネット上で物々交換するビジネスが入賞。1月に決定、3月に事業化、7月にはサイトが立ち上がった。

 事業化されると、サッカーのJリーグに倣いJ3(新規事業)、J2(先行投資事業)、J1(中核事業)と昇格していく。例えば、J2昇格基準は3カ月から6カ月後までの月間粗利益500万円、赤字の下限が6カ月で3000万円。一方、それぞれ6カ月以内に昇格しないと、事業からは撤退しなければならない。

 大手企業でも、社内公募制、社内ベンチャー、さらには独立ベンチャーなどを設けている会社は多い。だが、たいていの場合、手間と時間がかかる。人事部や経営企画室が秘密裏に審査を行うためだ。審査に落ちると、応募者は継続して同じ職場で働くことになる。このため、人間関係を配慮し本人が応募したという事実を上司や同僚に伏せておこうとする。

 この点、サイバーエージェントはすべてをオープンにしているのが大きな違いだ。細かな手続きを必要とせず、審査会議で即決されていく。また、トップがじぎょつくの目的を明確にし、不必要な会議をなくしてスピードを加速させている。

 西條氏は実は某大手商社からの転職者だ。「もといた会社は順番待ちの文化。どうしても時間がかかる。独立ベンチャーにしても、経営経験のない経営企画室が密室で何度も会議をして決めていく。当社は経営者が直接決めるから話は早い」。

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新規事業存続の基準は明確かつシビア。タイムリミットは1年半。それまでにJ1に昇格できなければ事業撤退という厳しさだ。
 
 
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