職場の心理学 [133]
「両性型リーダーシップ」のススメ
政治家然り、営業ウーマン然り、キャスター然り……。
しかしながら、ここで「男まさり」の中身を分析してみると、
リーダーシップの本質が見えてくる。
「男性性が強い女性は
キャリア志向的」という伝説
このほど発表された「世界のパワフルウーマン100」(フォーブス誌)では、1位にアメリカのライス国務長官、2位に中国のウー・イー副総理をはじめ錚々たる女性のリーダーが名をつらね、日本人ではただ一人ダイエーの林文子会長兼CEOが66位にランクインしている。経営危機に陥っていたゼロックスを就任後1年で黒字転換させたアン・マルケーヒー氏など、現役の43人の経営者がこの中に含まれる。
実は、「女性とキャリア」については一つの伝説がある。それは「男性性が強い女性はキャリア志向的だ」ということである。この伝説は、日本の研究でも欧米の研究でも、また実際に仕事をもつ女性に関する研究でも、女子学生についての研究でも一貫して支持されてきた。さらにこの伝説を裏づけるように、いくつかの研究が、キャリアウーマンの代表格である女性社長や専門職女性は、一般の女性に比べてケタはずれに男性性が高いことを報告している。したがって、女性とキャリアとの関係を理解するうえで女性の「男性性」は重要なキーワードといえる。
このような男性性(masculinity)、女性性(femininity)とはいったい何だろうか。男性と女性とでは、社会の期待や、望ましいと考えられる行動や性格特性に違いがある。男性には「なにかを成し遂げる」ことが期待され、それと関連して「実行力」「積極性」などの行動や性格特性が望ましいと考えられている。
一方、女性は「他人の福祉や幸福に温かい関心を持つ」ことが期待され、それと関連して「人に尽くす」「温かい」などの行動や性格特性が望ましいとされている。男女に望まれる行動や性格特性のこうした違いに着目して、アメリカの心理学者ベムは有名な「性役割調査表」Bem Sex-Role Inventory (BSRI)(*1)を作った。図表3はその日本語簡略版である。
この中で「男性性特性」には、自信がある、独立心があるなど、男性に望ましいとされる10の行動や性格特性が挙げられており、「女性性特性」には、従順である、明るいなど、女性に望ましいとされる10の行動や性格特性が挙げられている。
こうした行動や性格特性は、アメリカ社会での男女の性役割価値観を基にしているので、そのまま日本人に通用するのかという問題がないではないが、日本人の性役割価値観はかなり欧米化しているうえに、ベムの調査表は日本でも広く使われているので、とりあえずこの日本版によってあなたの性役割タイプを診断することにしよう。
「男性性特性」「女性性特性」にある20の行動や性格特性のそれぞれについて、自分自身がどのくらいよくあてはまるかを1から7で評価し、あなたの性役割タイプを出してみていただきたい。4つのタイプのどれになっただろうか。
「エッ、私が男性型?」「なんでオレが女性型なんだ!?」などとその結果を信用できないと思うかもしれない。無理もない。多くの人が、男性性、女性性はそれぞれの性に固有のもので、男性性、女性性ともに高い人がいることはありえないと考える人も多いだろう。
だが、性差の研究が進むにつれて、男女いずれにも男性性・女性性特性があり、両者の強さのいろいろな組み合わせによって、男性性、女性性ともに強い「両性具有型(androgyny)」、男性性が強くて女性性が弱い「男性型」、女性性が強くて男性性が弱い「女性型」、男性性、女性性ともに弱い「未分化型」があることがわかってきた。
人はだれしも、自分と相性のいい仕事には自信が湧き、積極的にその仕事を続けたいという気持ちになる。したがって「男性性が強い女性はキャリア志向的」という伝説は、女性が持っている男女両性の度合いのうち、男性性のほうがキャリア活動と相性がよく、仕事に対する自信との関係が深い、ということを意味していると考えてよい。
ついていきたくなるリーダーには
女性的な気遣いが備わっている

- 図表1、2
そこで女性の男性性、女性性と仕事に対する自信との関係を調べるため、日本の4会社(化粧品、製薬、化学製品メーカーおよび広告代理店)の本社に勤務する女性正社員412人に、アンケートに無記名で回答してもらい、つぎの[1][2]の二つの指標をつくった。(*2)
[1] 男性性および女性性の強さ──ベムの性役割調査のオリジナル版を用い、それぞれの特性がどの程度自分にあてはまるかを7点尺度(1=全然あてはまらない、7=非常によくあてはまる)で回答してもらい、男性性特性得点、女性性特性得点を求めた。この値が大きいほど、男性性、女性性が強いことを意味する。
[2] キャリア活動への自信──アメリカの心理学者ホランド(*3)は、仕事の環境をつぎの6つに分類している。
・現実的環境(機械を組み立てたり、操作したり、コンピュータのプログラムを作るなど)
・研究的環境(自然現象、社会現象のデータを分析して結論を出すなど)
・芸術的環境(美しいものをつくったり飾ったりするなど)
・社会的環境(人に会って説明したり説得したりするなど)
・事業的環境(目標達成のために人々を指導するなど)
・定形的環境(簡単な計算をしたり書類をつくるなど)
そこでそれぞれの環境について、典型的な活動事例を10ずつ挙げて、合計60の具体的な活動リストをつくり、それぞれをうまくやれる自信がどのくらいあるかを5点尺度(1=全然自信がない、5=非常に自信がある)で回答を求め、それぞれの領域の平均値を自信の度合いとし、その合計をキャリア活動総合自信度得点とした。この得点が高いほど、仕事に対する自信が強いことを意味する。
図表1は、男性性、女性性とキャリア活動総合自信度得点との相関関係を直線の傾きで表したものである。直線の傾斜が急であるほど、相関が強いことを意味する。男性性の直線(青)は右上がりになっており、男性性が強いほどキャリア活動総合自信度が強いことを示している(r=0.35)。一方、女性性の直線(赤)はほぼ水平で、女性性と仕事に対する自信との間には関係は認められない(r=0.11)。これらのことは、「男性性が強い女性ほどキャリア志向的」という伝説に一つの根拠を与えるものと言えよう。
では、女性のキャリア生活は、男性性が強ければそれだけでハッピーなのであろうか。キャリア生活の中核を占める「仕事を成し遂げること」には、自信、独立心、積極性などの男性性特性が必要であることは確かである。だが、その「仕事」は、周囲の人々と良好な関係を築けてはじめて成し遂げられる。そうした人的環境に適応するためには、他人への理解、同情心など、女性性特性が必要となる。したがって、仕事に対する適応力と自信は、男性性だけが高い「男性型」の女性よりも、女性性も高い「両性具有型」の女性のほうが高いという仮説が成り立つ。
図表2は412人の被験者のキャリア活動総合自信度得点を性役割タイプ別に計算して、その平均を比較したものである。期待どおり、「両性具有型」の自信度得点がもっとも高く、「男性型」がそれに次いでいる。
男性性だけが高い「男性型」の女性よりも、女性性も高い「両性具有型」の女性のほうが、仕事への適応がよく、自信も強いという事実は、男性であれ、女性であれ、管理・監督者には「両性具有型」の人が望ましいことを示唆する。管理・監督者には、
・計画どおりに仕事を推し進める
・部下に対して情緒的なサポートをする
という2つの役目がある。前者の役目を果たすには、自信、独立心、積極性など、強い男性性が必要である。一方、後者の役目を果たすには、部下に気を配り、部下の気持ちを理解し、時には慰め励ましてよい人間関係を築くなど、女性性が必要となるのである。

- (*1):Bem, S. L. (1974). The measurement of psychological androgyny. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 42,155-162.
(*2):Matsui,T., & Onglatco, M. L. (1991). Instrumentality, expressiveness, and self-efficacy in career activities among Japanese working women. Journal of Vocational Behavior, 39, 241-250.
(*3):Holland, J. (1985). Making vocational choice: A theory of vocational personalities and work environments (2nd ed.). Englewood Cliffs, NJ:Prentice-Hall.
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