職場の心理学 [129]

「指示待ち部下」の
意識を変える質問の仕方

 
 
あなたは、部下に対して「どうもアイツは自分で動けないヤツだ」とか、
「自分の頭を使って考えられないようだ」などと感じたことはありませんか。
まずは、部下が指示待ちになっている原因を突き止めてみましょう。
 
 
コーチ・エィ エグゼクティブコーチ
粟津恭一郎 = 文
Kyoichiro Awazu
あわづ・きょういちろう●
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻修了。ソニーで人事等を担当後、ソニーヨーロッパ本社で目標管理制度、報酬制度等の企画・導入・運営を行う。帰国後、経営戦略グループでネットワーク技術を使った新規事業開発を担当。コーチ・エィでは経営者層を対象にコーチングを行っている。
中島 恵 = 構成高橋常政 = イラストレーション
illustration by Tsunemasa Takahashi
 
 

質問を変えると
部下の意識を変えることができる

「だからさぁ、こうすればいいんだよ。最初に目標をきちんと決めるだろ。それからチームごとに責任者を決めて、作業計画をつくる。必要なら派遣社員を増やせばいいんじゃないか。なんでできないんだ。あっ、納期とコストだけは気をつけろよ。あとは君のやる気次第だ」

 これは、先日ある会社で行われたプロジェクト会議での一場面である。進捗が遅れている理由を問われたマネジャーがボソボソと話し始めると、いらついた部門長がそれをさえぎって口にした言葉だった。

 目標を設定して、責任者を定め、計画を立てることが大事であることは、マネジャーもよく理解している。しかし、それを実行する方法がよくわかっていなかったのである。

 企業を取り巻く環境が激変する中で、職場での上司と部下の関係も変化している。従来の組織では全社員が一丸となってひとつの方向に突き進み、上司は一方的にコミュニケーションを取る「トップダウン型」が多かった。「指示待ち部下」が指示を受けて動けば、現場が回って、売り上げを伸ばすことができた。

 ところが、ビジネスのスピード化、競争激化がすすむと、業務を遂行するのに一つひとつ上司の確認を取らねばならないやり方では、どうしても遅れてしまう。

 もうひとつの背景に、人材や業務の多様化がある。新規プロジェクトには複数の部署から必要な人材が集められる。その際に、いつもの上司とは違う人がプロジェクトリーダーとなるので、いままでと同じ指示系統や受け身のやり方では対応できなくなっている。

 そこで必要になるのは、「指示待ち部下」ではなく、どのような変化にも柔軟に対応でき、「自分の頭で考えて行動できる人材」だ。「トップダウン型」のコミュニケーションに慣れていると、自分で考えて行動することができなくなってしまうのである。

 それでは、「自分で考えて行動できる部下」を育てるためにはどのようにしたらよいのだろうか。それは、部下に対して自分の頭で考えさせるコミュニケーションを取ることである。そのカギは上司の「質問の仕方」にある。上司が部下に投げかける「質問」を変えることによって、部下の意識を変えることができるのである。常日頃から考えさせる質問をしていれば、部下は自分で自分に対して質問する習慣が身につくようになる。

 それでは、考えさせる質問とはどのようなものなのだろうか。

「質問の仕方」にはオープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンの二つがある。

 オープン・クエスチョンとは5W1H(なぜ、どこで、だれ、いつ、なにを、どのように)を交えたもので、イエス、ノーでは答えられない質問。クローズド・クエスチョンとはイエス、ノーで簡単に答えられるような質問だ。実は、職場で交わされている上司と部下の会話の大半がクローズド・クエスチョンだといわれている。ここでクローズド・クエスチョンによる会話の一例を示してみよう。

上司「先方には連絡してあるの?」

部下「はい、しました」

上司「例の資料はあらかじめ送ってあるんだよね?」

部下「はい、送りました」

上司「じゃあ、明日の会議は大丈夫だね?」

部下「はい、大丈夫だと思います」

「当事者意識」と
「やる気」を高めるには

 職場でクローズド・クエスチョンが多くなるのは、上司には日常的に部下の仕事の進捗状況を把握する責任があるからだ。しかし、このような質問ばかりではコミュニケーションは一方通行で終わってしまい、部下に考えさせたり、部下からアイデアを引き出すことはできない。

 部下は上司から「Aという方法を取れ」と指示されるとその通りにする。しかし、Aは自分で導き出した方法ではないため、深い理解がなく、機械的に動いているにすぎない。その結果、次に似たような問題が発生したときにAを応用することができず、また同じミスを繰り返してしまう。

 一方、オープン・クエスチョンをしてみると、上司と部下の会話はどのように変化するだろうか。

上司「先方には連絡してあるの?」

部下「はい、しました」

上司「例の資料はあらかじめ送ってあるんだよね?」

部下「はい、送りました」

上司「明日の会議は新規プロジェクトのための第一歩として何とか成功させたいんだけど、そのために何をしておけばいいと思う?」

部下「……そうですね。アジェンダとタイムテーブルをつくって最初に会議の進め方について確認しておくというのはどうでしょうか?」

上司「なるほど、それはいいアイデアだね。アジェンダはすぐにつくれるのかな」

部下「つくることはできますが……」

上司「どうした? どんな問題があるのかな」

部下「実は、以前アジェンダを配ったときに、いろんな質問がきてしまって。僕はもともとエンジニアではないので、それじゃ困っちゃうんです」

上司「そうか。もっとも解決しやすい方法は何かな?」

部下「エンジニアにも参加してもらうことです」

上司「君が参加してほしいエンジニアにはどんな人がいるの」

部下「……そうですね。先輩のBさんとCさんです」

上司「じゃあ、彼らには私から、君から相談があったら応じるように言っておこう。それですぐに実行できるかな」

部下「はい。やってみます」

上司「では、明日の会議が終わったとき、どのような状態になっていれば会議が成功したといえると思う?」

部下「う〜ん、そうですね……。我々としては最低限、Dプランについて合意できれば成功だといっていいと思います。そう考えると、Dプランについて最初に話し合うのがよさそうですね。タイムテーブルはそういうふうにしておきます」

上司「なるほどな。じゃあ、よろしく頼むよ」

 二つの会話例を見てわかるように、オープン・クエスチョンを交えるとコミュニケーションの質が変わって量が増え、部下に考えさせることに成功している。そして、部下は自発的な行動を取っている。上司が答えを示してしまうのではなく、部下自身が考えて答えを出すことによって、当事者意識とモチベーションを高めることができている。

 オープン・クエスチョンをする際、上司が注意すべきことは威圧的なコミュニケーションを取らないようにすることだ。たとえば、オープン・クエスチョンの疑問詞のひとつ、「なぜ」という言葉を多用すると、相手に威圧的な印象を与えてしまう。

 聞く側の上司にとってはなにげない素朴な質問でも、受け止めた部下は自分にだけ矛先が向いているように感じ、気づかぬうちに部下を威圧してしまう。職場で多く見受けられるのは、次のような威圧的なコミュニケーションだ。

上司「なぜ、あんなミスが起こってしまったのだ?」

部下「……すみません」

上司「まあ、仕方ない。もう同じミスをするんじゃない、わかったか?」

部下「わかりました。以後、気をつけます」

部下が出した答えこそ
自ら行動できる解決策となる

 上司の威圧的な質問や「トップダウン型」の指示がもとで、部下は口をつぐみ、考えることをしないか、または考えたアイデアを口に出せなくなってしまう。ところが、「なぜ」を「なに」という表現に変えるだけで部下から見た印象はかなり違ったものになる。

上司「なにが原因であんなミスが起こってしまったんだと思う?」

部下「……いま考えてみると、原因は工程Eから工程Fの間で、受け渡しのチェックがもれてしまうことだと思います」

上司「そうか。もう二度と同じミスが起こらないようにするには、どんな方法があると思う?」

部下「そうですね……。EとFの間でチェックする人を三倍に増やします」

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「なぜ」を「なに」に変えると、矛先が部下に向くのではなく、「問題の原因」に向けられるように感じる。「なぜ」という表現に比べて部下は責められている感じが和らぐため、行動するためのアイデアが出てくる可能性も高まる。また、「どのようにすればいいと思う?」というように、「どのように」という表現を使うことで、関心を未来に向けさせる質問の仕方もある。

 コミュニケーションを取るうえで大切なことは、「何を相手に伝えるか」ではなく「何が相手に伝わったか」である。たとえば、GさんとHさんに伝えたのに、Gさんには言いたいことが伝わらなかったとしよう。つい「Gさんは理解力がないな、アイツはダメだ」と思ってしまいがちだが、そうではない。「自分がGさんに正しく伝わるように話したのか」を振り返って検証してみるべきである。

 上司として心がけておくべきことは、部下に対して「ああしろ、こうしろ」と答えを押しつけるのではなく、部下から答えを引き出す「待つ姿勢」でいることだ。部下が考えている間、じっと待たなければならないが、大事なのは「答えは必ず部下の中にある」と信じることである。部下から出てきた答えこそ、本人がやる気をもって行動できる解決策なのである。

 最初は、100のうち30のアイデアしか出てこないかもしれない。人は、100出てこなければ動くべきではないように思いがちだが、そんなことはない。「30を40にするにはどうしたらよいと思う?」とさらにじっくりと聞いてゆけばよい。それを繰り返していくうちに、自然と自分で考え、動く習慣が身につくようになる。

 冒頭のマネジャーのように、「わかっている」ことと「できている」ことは別である。「わかっている」ことを「できている」ことに変えるアイデアを本人に考えさせることが、上司の役割なのである。

「指示待ち部下」の意識を変えることができれば、競争を勝ち抜く組織に必要な頼もしい戦力となるし、人の可能性ややりがいを引き出すことにもつながっていく、と私は確信している。

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