戦略的なパートナーと「突っ込んだ話」をして関係を壊さないためには

最重要取引先に
「無理難題」を呑ませる法

 
 
photo
ビジネスにどうしても欠かせない戦略的
パートナーに、厳しい要求や新たな計画を
提示するときには、慎重にことを運ぼう。
彼らの機嫌を損ねれば、
致命的なダメージを招きかねない。
 
 
ローレンス・サスカインド = 文
text by Lawrence Susskindディプロマット = 翻訳
 
 

 ビジネスパートナーはすべて重要だが、なかでもとくに重要なパートナーがいる。たとえば、主要部品のサプライヤーは代わりがきかないことがある。

 一例として、二つの架空の会社──コンピュータおよび周辺機器を製造しているブラトルベリー(B社)と、同社のインクジェット・プリンター用にプラスチック製インク・カートリッジを供給しているヴァイアテック(V社)の関係を考えてみよう。両社の10年におよぶ関係は双方に利益をもたらしてきた。年間の契約額は過去5年間の平均で3000万ドルに達している。

 だが、B社の総売り上げはこのところ予測を下回っている。おまけに、同社のサプライヤーの多くが同社の定期的な見積もり要請に不満を募らせていることが調査で明らかになった。2年ごとに新たな契約交渉を行うことは、B社にとってもサプライヤーにとっても時間と経費を要することだった。

 そのためB社の経営陣は、戦略的パートナー──つまり、V社のようにきわめて重要な資材を供給している企業とともに、コストを削減する方法を模索することにした。これらのサプライヤーは簡単には取り替えがきかなかったし、短期的な企業目標を達成するにはこれらの企業の協力が不可欠だった。

 このような関係には特別な注意と対処が必要だ。きわめて重要なパートナーと交渉する際には、ネゴシエーターは一方ではできるだけ低い価格を引き出す必要があり、他方では協力関係を維持・強化する必要があるため、その二つをうまくバランスさせなくてはいけない。

 戦略的パートナーと交渉する際には、通常の交渉戦術や交渉戦略をどのように調整すればよいか──その五つの方法を次に紹介しよう。

(1)相手の独特のニーズには敏感に

 長期的な戦略的関係を維持する意欲を相手に伝えるためには、ネゴシエーターは互いの考えや思いにじっくり耳を傾ける必要がある。つまりは、ニーズを突き止めるために相手と頻繁に会うということだ。

 V社を戦略的パートナーと見定めたのち、B社は同社に対し、年間コストの5%引き下げと引き換えに、より長期の契約を結ぶという案を提示することにした。それに加えて、このコスト引き下げを可能にする創造的な方法を見つけるために、仕様や規格を変えるなどの協力を惜しまないと約束した。

 両社の代表者は数カ月にわたってミーティングを重ね、コスト削減のために実行できる四つの方法を特定した。

●V社はカートリッジの素材を、現行よりかなり安く調達できるが欠陥率が若干上がるプラスチックに変更可能である。

●V社は現在、B社の各種プリンター・ラインのために3種類のデザインのカートリッジを製造している。B社は、V社が1種類のカートリッジを製造すればすむように仕様を変更できる。

●B社は、各四半期の最低納品量と最高納品量を決めることができる。そうすればV社は、閑散期に社員を解雇し、繁忙期にあらためて雇用・訓練する必要がなくなる。

●製品の欠陥についてB社がさらに大きな責任を引き受ければ、V社は工場での品質検査の回数を減らしてコストを削減できる。

 双方の利益になる実行可能な方法を特定したら、それぞれの側が別々に、個々の変革案について実際の費用と削減額を算出する。変革がもたらすチャンスと内外からのプレッシャーによって、どちらの側でも利害が変わることを忘れてはならない。頻繁にミーティングを行うことで、戦略的パートナーはそれぞれ相手の利害の変化をしっかりと把握し、双方の利益になる予想外のチャンスを見つけることができる。

(2)分配をめぐって争うよりも価値の創造を重視しよう

 交渉には必ず価値の創造と創造された価値の分配が関わってくる。価値の創造が協力的な活動であるのに対し、価値の分配は一方が得をすればもう一方はたいてい損をする。

 きわめて重要な戦略的パートナーと交渉する際には、非戦略的パートナーと交渉するときよりもなお一層、価値の創造を重視しよう。すなわち、ブレーンストーミングにより多くの時間を費やすとか、通常より複雑なパッケージを検討するとか、こちら側のニーズを通常より詳しく伝えるといったことになるだろう。

 同時に、分配される価値の最後の一滴まで「こちら側」に取り込むことはさほど重要ではなくなる。長期的な関係を維持すれば、ある取引で断念した価値を取り戻すチャンスはいくらでもあるということだ。

 B社とV社は、互いに相手の話にじっくり耳を傾けることによって、コストを削減し、価値を付加する四つの方法を特定した。だが、協力して生み出した削減分や利益を、両社はどのように分配すべきなのか。その答えは、それぞれの側にとって何が最も重要かで決まる。B社はV社に支払う金額を年間5%削減したいと思っていることを思い出していただきたい。そのため、B社とV社は、戦略的パートナーという関係を維持するためには、今年の3000万ドルの契約から150万ドル減らさねばならない。

(3)長期的な重要性を強調しよう

 ビジネス関係がきわめて重要な場合には、われわれはより多くの時間とエネルギーをそこに投入するだけでなく、自分自身のことを相手により深く知ってもらうことも必要だ。相手と個人レベルで知り合いになることで、あなたは社会的資本──長い付き合いのなかで引き出して使える好意や信頼──を築くことができる。ビジネスランチのようななんの変哲もないものでも、何かの問題で「これ以上は譲れない」と主張したとき、相手がその言葉を信用してくれる確率を高めることができる。

(4)相手を信じる

 新しい戦略的パートナーの代表者が、重要な納期に間に合わせられないとか、もっと高い価格でなければ契約できないなどと主張したら、「相手はこちらを操ろうとしている」と決めつけたくなるかもしれない。その結果、あなたは自分の立場を絶対に譲るまいとし、ますます強硬になる。「相手は交渉を左右する力を不当に握ろうとしている」と思ったら、あなたはおそらく過剰に反応して、対立が拡大することになるだろう。

 むしろ、戦略的パートナーが特別な要求を出してきたら、疑わしいと思っても信じてみよう。相手の言葉を額面どおりに受け取って、自社に損害を与えずに相手の問題を解決する方法はないかと考えてみよう。相手の要求を真剣に受け取っている様子を見せれば、不要な恨みを買わずに関係を維持することができる。

 V社とB社の隠れた目標を考えてみよう。V社の幹部はもっぱら社員の雇用を守ることに関心がある。毎年、前年以上の利益を上げられなければ、B社との協力を打ち切って他のクライアントを探すこともいとわないだろう。一方、B社のほうは、必ずしもV社からまるまる5%の価格引き下げを得る必要はない。2年ごとの見積もり依頼プロセスに関わる管理費をなくすだけで、向こう5年間で100万ドル以上の経費を実際に削減できるからだ。

 こうした真実を打ち明けるには、双方に相手に対する多大な信頼がなくてはいけない。

(5)不意打ちは避ける

 交渉で不意打ちを好む者はいない。交渉のテーブルにつく前に社内であらゆる可能性を検討した、と信じたいのである。良好な協力関係を決裂させる最も簡単な方法の一つは、思いもよらぬ手順の変更や交渉の余地のない要求で相手に不意打ちをくわせることだ。相手が準備しているはずのない問題を持ち出すことで相手の不意をつくのは、無礼な行為である。

 戦略的パートナーシップにとっての課題は、公正さと信頼を大切にしながら自然な流れで価値の創造に進んでいき、それから価値の分配に戻ることだ。このアドバイスに従うことで、ネゴシエーターは取引ゾーン(trading zone)──つまり、手にする価値を最大限にできるよう互いに本当に助け合う交流モードに入ることができる。

 
 

おすすめコンテンツ

 
 
  1. プレジデント
    異文化交渉 郷に入っては 郷に従え の勘違い
    押し付けも迎合も禁物!「違い」にばかり気をとられるべからず
  2. プレジデント
    勝ち目なき交渉を 逆転させる三つの戦略
    あきらめてはいけない。「絶望的状況」にも勝機はある
  3. プレジデント
    困ったときにウソを つかずにすむ五つの方法
    土壇場でウソに頼る「最悪」の方法はこうやって避けられる
  4. プレジデント
    マイケル・ポーターの「環境」戦略論(1)
    二酸化炭素排出コストを「機会」に変えるための発想の転換
  5. プレジデント
    「生存の臨界」に向かう 日本の消費財企業
  6. プレジデント
    交渉では「最初の数字」が 最終合意の鍵を握る
    「相手の出方を見て動く」という交渉の「常識」は実は間違っていた
 
 
PRESIDENT 2005年8.15号
PRESIDENT 2005年8.15号
税込価格 550 円
売り切れ
 

クイック・アンケート

 
 

厚労省によると1月の「所定外労働時間」が18カ月ぶりに前年を上回ったそうです

あなたの月平均の残業時間は?

 
 

メールマガジン <プレジデントニュース>

 
 

「プレジデント」編集部員による取材現場でのこぼれ話やビジネスマンに役立つオリジナルコンテンツ、新刊書籍案内などを、週1回のペースでお送りいたします。

メールマガジン申込・登録変更