日本企業誘致に熱!
大連「人づくりの現場」

 
 
筆者はこの5月、中国東北の中心都市・大連を訪れた。
「持ち帰り型輸出生産拠点」として発展した大連だが、1998年頃から、
日本企業の進出が激減する。中国市場を視野に入れ、上海を中心とした長江デルタ地域に
進出していったためだ。日本企業誘致のために、大連がとった戦略とは。
 
 
一橋大学大学院商学研究科教授
関 満博 = 文
text by Mitsuhiro Seki
せき・みつひろ●
1948年、富山県生まれ。成城大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修了。専修大学商学部助教授を経て、98年より一橋大学に勤務。経済学博士。
著書に『地域産業の未来』『現場主義の知的生産法』『世界の工場/中国華南と日本企業』などがある。
尾黒ケンジ = 図版作成
 
 

2500社にのぼる日本企業の進出

 2005年5月末、中国東北の中心都市である大連を訪問した。私にとっては8カ月ぶりであったが、また新しい発見を重ねることができた。この4月には中国の主要都市で「反日デモ」が繰り返されたが、大連では全くそうした動きはなかった。もともと大連は中国の中でも最も親日的であり、日本企業が大量に進出していることで知られている。その数は約2500社にものぼるのではないか。現在の大連の発展の基礎を築いたのは「日本企業の大量進出」とされている。

 ただし、1998年の頃から、日本企業の大連進出は激減する。それまでの大連進出は、日本から材料部品を投入し、大連で加工組み立てして日本に戻すという「持ち帰り型輸出生産拠点」の形成であった。そのような視点で中国を眺めると、大連の優位性は著しい。日本に近く、港湾能力にも優れ、日本語能力も高い。

 だが、98年の頃から中国は「世界の工場」に加え、「世界の市場」になっていく。その場合、日本に近い大連は、逆に中国の国内市場に最も遠い所になるであろう。その頃から、中国市場を視野に入れる日本企業はいっせいに上海を中心とする蘇州、無錫などの長江デルタ地域に進出していった。

 このような事態に直面した大連は、衆知を結集して次の戦略ポイントを探り、全中国の都市の中で大連の際立った特色を「日本企業の集積」「高い日本語能力」と見定めていく。そこを焦点に「人材の育成」が深く意識されていく。そして、数年がたち、この大連で「人材」をめぐる興味深い動きが重ねられていたのであった。

 今回は、私が「ふるさと大使(しらゆり大使)」を務めている岩手県北上市の訪問団と同行した。北上市は企業誘致による成功で知られているが、進出企業が中国へ展開することなどもあり、その実態把握、また中国企業の北上進出への誘致なども視野に入れ、3年前から伊藤彬市長を団長に地元の若手経営者、後継者を組織して訪中を重ねてきた。一昨年は南の広東省深セン〜東莞、昨年は上海〜蘇州、今年は大連〜北京のコースをたどった。連日、北上関係の企業、地元ローカル企業の訪問を重ねた。当然、観光など全くない企業視察である。

 また、05年5月23日は、岩手県と宮城県の大連経済事務所の開所式でもあった。04年8月に東北6県の知事が大連を訪問したが、その場で増田寛也岩手県知事と浅野史郎宮城県知事が共同記者会見をし、大連に共同事務所を開設することを発表している。その意思決定の速さに驚かされたものだが、05年4月から実際には事務所がスタートしていた。両知事は大連の発展ぶりに驚愕し、中国東北と産業連携する必要性を痛感したとされている。今後、日本の東北と中国の東北が経済交流を深めていくことが期待される。

 なお、この23日、小泉首相との会談をキャンセルした呉儀氏がモンゴルに向かう途中に大連に降り立った。そのため、大連市長は出迎えることになり、共同事務所の開所式、パーティ出席はキャンセルされた。副市長の代理出席となったが、波紋はそこかしこに広がっていた。

職業訓練校の標的は
日本企業への就職

 民営中小企業として紹介された明達工貿を訪れ、機械加工工場に入ってやや緊張した。旋盤に向かっている若い職工さんたちの全員が迷彩服に身を固めていた。近くの国防中等職業技術学校が設立した企業との説明がなされた。「国防」と聞いて軍関係をイメージしたのだが、そうではなかった。軍隊式に教育するというのであった。

 この学校は99年に設立された私立の専門学校であり、特に機械加工、熔接などの技術を焦点としていた。3年制、4年制であり、学生総数は約3000人。うち女性が5分の1。授業料は年3000元(約3万9000円)から8000元(約10万4000円)であり、大学とほぼ同じ程度ある。実技と日本語を教えており、大連に進出している日本企業への就職をターゲットにしていた。オーナー校長は40代の元気のいい女性であった。スター精密、パンチ工業などの機械加工系の仕事を基本としている日系の50数社が登録され、大量に卒業生を受け入れていた。

 そして、この学校が明達工貿という企業を設立していた。機械加工、金型、熔接などの加工をテーマとし、主として日本企業からの受注を視野に入れていた。大連には日本の機械、電機関係の企業が多いが、いずれもかなりの経験を重ねており、加工の「現地化」を意識しているが、それに対応しようというのである。

 ワーカーは学生であり、実習の一環として位置づけられていた。大連の機械加工などのワーカーの月の賃金は約1000元(約1万3000円)だが、学生の実習であることから月300元(3900円)ほどとなる。人件費が低く、競争力は抜群であろう。また、学生にとっては授業料の足しになるのであろう。このようなビジネスが組み立てられていた。

 また、今回は以前にも紹介したことがある「大連ソフトウエアパーク」の東北大学東軟信息学院を訪れ、丁寧に案内してもらった。この大学は瀋陽の有力理工系大学である東北大学が設立している東軟集団という企業が、約400キロ南の大連に情報系の大学を01年に開学した私立大学である。ソフト技術と日本語を教えている。学生数は約9000人、05年6月末に本科生が初めて卒業する。日本語のできるソフト技術者を大量に養成しようというのである。アメリカに対するインドのバンガロール、日本に対する大連を意識する大連政府の意向にも沿ったものである。

 東軟集団はこの大連以外に、広東省の南海、四川省の成都でもほぼ同様の大学を設立している。国立の東北大学が民間企業を設立し、外資との合弁を重ね、そしてさらに各地の地元民営企業と合弁で情報系の私立大学を設立しているという構図である。とても日本では考えられない仕組みであろう。大学の敷地の中に、日本のアルパイン、アメリカのヒューレット・パッカード(HP)のかなり大型の開発センターが設置されていた。産学連携を強く意識しているようであった。

 さらに、校舎の一つは学生による起業を支援する施設とされ、7企業が実際に動いていた。模擬的に会社を設立し、東軟集団から受注をもらいながら学習を重ね、さらに外部から受注し、本格的な事業にしていくというスタイルをとっていた。日本からの受注を視野に入れている学生企業もあった。大連でこのような実践的な教育がなされているのである。

ライブドアも進出
コールセンター事業に注目

 この大学の周りにはIBM、GE、DELL、NOKIA、マイクロソフト、エリクソン、アクセンチュア等の約300社のソフト関連企業が進出しているが、日系はソニー、松下、NEC、日立など50社ほどである。その中のライブドア(中国)を訪れた。ライブドアの100%出資の企業であり、00年10月にスタートしていた。ライブドア・グループのソフト開発拠点の位置づけであり、全中国を検討し、結果的に大連に着地している。ケータイ向け、インターネット向けのゲームソフトを開発していた。この部分は従業員130人ほどであった。ただし、この1〜2年のライブドアの注目度の高まりにより、急拡大しているようであった。

 もう一つの事業は、日本向けコールセンター事業であった。大連は現在、日本向けの中国人による日本語対応のコールセンターとして注目されているが、ライブドア(中国)では、70人のメンバーがすべて日本人であった。

 日本で募集し、インターンとして大連に派遣する形をとっていた。期間は数カ月の短期もあるが、基本的に1年間。延長もある。早朝と夜間には中国語教育の機会を提供している。1日の就業時間は8時間。食事と寮は提供するものの、月の賃金は生活費レベルの3000元(約3万9000円)というものである。ライブドアならではの新たなビジネス・モデルのように見えた。平均年齢は24〜25歳ほどだが、なかには30歳を過ぎている人もいた。自分探しをしている若者たちからすると、海外での生活経験と中国語の学習が魅力のようであり、希望者は少なくないようであった。

 企業に同行する訪中は、私の場合、現地調査に加え、参加企業の反応を見ることを一つのテーマにしている。今回の訪中団は総勢17人。大半は中小企業の後継者たちであり、30歳前後のメンバーが多かった。初めての訪中経験者、数回の経験者など多様な人材から構成されていた。4月のデモ騒ぎでどうなるかと思っていたのだが、伊藤彬市長をはじめ全員が参加してきた。

 全員に共通する反応は「カルチャーショック」というものであった。まず、大連の街の風格、清潔さに驚愕したようであった。日本の東北にはこれほどの街はないことを痛感させられたのではないか。

 また、先の職業訓練学校が学生を使った企業を起こすこと、国立大学が私立大学を起こし、日本語とソフト技術を教えていること、大学の中に学生が起業していくための支援施設があることなどは、日本では考えられないと呆然としていた。

 さて、大連の数日を経験した若い後継者たちが、日本に戻って何を考え、どのように行動していくのか。デモ騒ぎなどを内に含みながら、中国の現場は刻々と進化していく。それをどのように見ていくのか。日本企業の最大の進出拠点である大連は、次のテーマを「人材」と見定め、興味深い取り組みを重ねているのであった。私たちはそうした動きに一歩踏み込んでいけるのかどうかが問われてきているのである。

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