人に教えたくない店 [317]
人はなぜ故郷に帰るのか。そこには、いい意味での自己中心が
許された幸せな時間の記憶があるから。この癒しは大切です
御手洗冨士夫さん
故郷の大分に帰ると、どんな熾烈な状況下にあっても癒されます。それは庭に思い出が詰まっている実家であり、末っ子として愛を独り占めしていた母の存在でもありますが、いま振り返ると、いつも母の料理を食べていました。その田舎のおふくろの味は兄嫁がしっかり継いでくれ、母亡き後も私にご馳走してくれます。
しかし、大分の事業が拡大しつつある昨今、空港から3時間半ほどかかる実家(蒲江町)に足を運べないことも。そんなときは市内にある「本母」です。ここには探し求めていた大分の地の味があります。私にとって「大分のおふくろの味」なのです。
何がいいって、この店では空気になじめます。リラックスできます。東京では料亭などにも出かけますが、肩肘を張っていて、落ち着いて味わえない場合が多い。だから、ここでは仕事抜きで飯を食う。旨い、旨いって(笑)。そして思うんです。田舎へ帰ろうよ、と。欧米諸国に比して日本に欠けているのは「豊かな田舎」です。田舎は温かいし、人として豊かな生活があります。「豊かな田舎」こそが、これからの日本の力となるはずです。
ところで、大分の玄関には関所があるんです。空港にある「海甲」がそれで、決して素通りできません(笑)。頼まれてもいないのに必ず顔を出しています。魚処・大分にあって、とにかくネタの質や鮮度が別格。東京で大分行きが決まると、その瞬間から心の中には海甲の味が準備されます。そうなると他所の寿司では収まりがつきません。私が納得できる魚の味の基準値は大分にありますし、旨さが記憶に残っていますから。年齢を重ねる中で行き着いた海甲の味。馴染みの店というのはこうやってできていくのでしょう。
故郷には人の原点があります。最初に踏み出した一歩が刻まれています。前を向いて歩く元気を与えてくれる癒し。それが故郷の自然であり、食の記憶だと思っています。
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●料理工房
本母 ほんぼ
小魚でつくっていた母の味噌汁。虎魚だとかなり上品ですが、懐かしい味がよみがえります
●女将・本母ヒロ子さんの長男、龍司さんが関西割烹の名店で修業した基本を守りつつ、地元食材で腕を振るう。夜は6300〜1万500円。
●大分県大分市都町1-2-5
TEL.097-538-1818
営業時間/11:30〜14:00、17:00〜22:00、祝日は夜のみ営業 日曜定休 カード可 ※全個室、要予約

- 御手洗さんの好物、虎魚の味噌汁。繊細な旨みに麦味噌ベースのコクが香る。旬はこれから。事前予約で味噌汁とお造りをコース(1万500円〜)に組み込んでもらえる。
- コースは鯛の真子の含め煮、はまぐりグラタン、竹の子の木の芽ごろもなど、季節の味が盛りだくさん。
- 1万500円コースのみ、締めをじゃこ飯、カレー、蕎麦から選べる。御手洗さんに「ワン・オブ・ザ・カインド」と言わしめるカレーは、ブイヨンづくりから手がけ、スパイス約20種を調合。1週間がかりの傑作だ。

●寿司
鮨 海甲
関鯵、関鯖、城下鰈。
地元育ちの私にはごくごく
身近……。でも、いまは
心して味わっています(笑)
●東京で10年修業を積んだ親方の佐藤憲二さん。毎朝、佐賀関や日出に出かけて目利き、直接買いつける。旨くて安いのはこの努力による。
●大分県東国東郡安岐町下原13 大分空港ターミナル3F
TEL.0978-67-1713
営業時間/10:00〜19:00 無休 カード可 ※予約不可、ただしネタのみ予約可
- 18種のネタがひしめく海甲ちらし2000円。22年前のオープン以来の人気の味。
- 御手洗さんが必ず味わう城下鰈1貫700円、関鯵・関鯖は各1貫500円、玉子1切れ300円。弾力に富むネタはいずれも大ぶりで、脂のノリも最高。城下鰈と関鯖を同時に味わえるのは、4月前後と9月前後。
- 酒肴に最適な小鉢は各350円。関鯵などを醤油に漬け込む「りゅうきゅう」や城下鰈の皮の肝和えなど3〜5種類が常に用意されている。
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