特集/数字の謎、お金のカラクリ40

PART1
ニュースな会社・経営の謎
[10]企業再生

AP・丸紅連合620億円のダイエー支援は、
再生すればいくら儲かるのか

 
 
樽谷哲也 = 文宇佐見利明 = 撮影
 
 

 産業再生機構を活用しての再建が始まったダイエーは、去る3月30日、臨時株主総会を開催した。支援企業(スポンサー)に大手商社の丸紅と、投資ファンドのアドバンテッジ パートナーズ(AP)連合が決まったことを受けて開かれたもので、資本金の99%減資と、1120億円の第三者割当増資を決議した。

 再建のお目付け役たる産業再生機構も、そのうち約500億円を引き受けて出資比率は33.4%となり、APは434億円を引き受けて23.4%を出資した。また、丸紅は、すでに取得している0.9%分に加え、186億円(10%)を引き受け、10.9%の出資者となった。

 丸紅は、大株主としてダイエーグループのマルエツとの関係が深い。年間約700億円の取引があるダイエーの再建にかかわることで、商品の開発や供給の面でいっそう密接なつながりを持ちたいというねらいがある。

 そして、APは、投資ファンドである以上、最良のタイミングで持ち株を手放し、投資家から預託された資金を運用益とともに返すことになろう。

企業再生における
投資ファンドの役割とは

 近年、とみに見聞きする投資ファンドとは、いったい、いかなる業容であるのか。APの竹井友二パートナーに訊いた。

「われわれは、投資の対象となる企業そのものをよくしたり、よみがえらせたりすることに価値を置いています。投資をしたあと、株主総会や経営会議に出るのはもちろん、私どもでチームをつくってその会社の中に入っていって、実際のビジネスのお手伝いをします。取引業者と会って取引条件の交渉をしたり、あるいは、新商品開発の会議に入って一緒に案を練ったりもします」

 つまり、包括的な経営コンサルティングに近い。投資先とのこうした長いつきあいは、ときに10年に及ぶ。投資先企業が再生を果たせば、第三者に売却することもあるし、あるいは、株式公開に漕ぎ着けて、投資した資金を大きな見返りとともに回収することも可能となる。

 1992年に設立されたAPは、投資家から資金を集め、97年に30億円、2000年に180億円のファンドを設けているが、昨年8月に設立した第三号ファンドでは465億円という巨額を組成した。これらの潤沢なファンドに加え、投資家から集めたダイエー専用ファンドからダイエーへの出資もなされている。

 新生ダイエーは、産業再生機構のもと、食品スーパー100店を出すことで経営再建を図るとしている。そこで、97年9月に1614億円の負債を抱え、会社更生法を申請して経営破綻したヤオハンジャパンの再建劇を例にとりたい。

 再建支援に乗り出したイオン(当時ジャスコ)は、5億円を出資してヤオハンを傘下に収め、食品スーパー「マックスバリュ東海」として再出発させることにした。重視したのは、旧ヤオハン従業員による自主再建であった。

 陳列する商品に事欠きながらも、従業員が知恵を絞りながら営業をつづけていた。地元住民からは、店舗存続を求める署名運動まで起きていた。社員やパートたちがやる気を失っていないばかりか、地域の顧客からは根強く支持されている。本来のマネジメントを放棄し、会社を事実上の倒産に追い込んだ旧経営陣の姿とは対照的であった。

 マックスバリュ東海の専務を務めた早水惠之氏(イオン執行役)は、振り返る。

「店を回ってみて、こんなにひどかったのか、と驚きました。従業員の人たちはエアコンもないような蒸し暑い部屋で休憩している。そのうえ、トイレの調子も悪かったりする。野菜を切ってパック詰めにする作業場は、夏には35℃を超える高温です。これでは人間もたいへんだけど、野菜も傷んでしまうと思いました」

 のちに、ヤオハン旧経営陣による粉飾決算事件が世間を騒がせることとなる。一言でいえば、国内のヤオハンの店舗でせっせと稼ぎ出された利益は、旧経営陣によって海外法人に持ち出されていたのである。当然、老朽化した店舗の改装費用さえままならなかった。

きっかけは店舗の改装オープンだった

 そこで、店舗の改装を急ぐことになる。といって、資金はマックスバリュ東海が自前で捻出しなければならない。早水氏らが内部調査を進めると、当時およそ40店あった旧ヤオハン全店で商品の在庫期間を1日短縮すれば、手元に現金1億円のゆとりが生まれたのと同じ勘定になることがわかった。

「1店舗の平均改装費が3000万円から5000万円でした。そこで、在庫を1日改善したら、うまくいけば3店、少なくとも2店は改装できると、非常にわかりやすく考え方を共有できました」

 そして、更生法申請から5カ月後の98年2月には、裾野店(静岡県)が改装一号店としてリニューアルオープンを果たす。改装後、目に見えて増えたのは来店客数で、それに比例して売り上げも増加していった。順次、他店も、改装しながら売り場を一新していき、早くもこの年5月には、会社全体として単月黒字を達成して、回復基調に乗せた。

 旧ヤオハンがマックスバリュ東海として東証二部再上場に漕ぎ着けたのは、昨04年7月のことである。04年度末の公表数値によれば、イオンはマックスバリュ東海の株式を850万株所有している。本稿の締め切りである4月21日のマックスバリュ東海の株価は2760円であるから、イオンは時価234億6000万円の優良株式を手にしていることになる。単純計算で、5億円の元手が47倍に膨れ上がった勘定である。それだけではない。1株あたりの配当が25円なのであるから、株主として年間2億1250万円を受け取っていて、出資分を2年強で回収できた計算にもなる。

 イオン本部は、「私たちは投資ファンドでも何でもないので、単にリターンを求めてヤオハンさんを支援したわけではありません」としている。

 早水氏は、こう打ち明ける。

「会社更生法を申請した会社の再建支援をするのには、5億円という出資額以上のリスクが伴います。失敗したら、ヤオハンだけじゃなしに、イオンの信用やブランドも毀損してしまう。これはお金の問題ではありません。成功したからいいものの、もし逆の結果になっていたらと想像すると、ぞっとします」

 そうであるなら、なおのこと、血涙の結果は結果として明記されていい。

 旧ヤオハンは、業界でも屈指の優良食品スーパーに生まれ変わり、再建を支援したイオンにとっても、グループの拡大に貢献する、親孝行の子会社となった。

 忘れかけられていることがある。

 旧ヤオハンが経営破綻する直前の97年2月に、16のヤオハン大型店がダイエーに約330億円で買収され、従業員も引き取られているという事実である。いまや、その大半は閉店の憂き目に遭っている。かつて、総合スーパー(GMS)の覇者として、小売業日本一の売上高を誇ったダイエーは、旧ヤオハン大型店を呑み込んだまま沈み、マックスバリュ東海のような地域に根差した食品スーパーとして生き残りを図ろうとしている。栄枯盛衰は世の必然とはいえ、これほどの皮肉もない。

 早水氏が強調する。

「小売業というのは、いわば人間産業です。小売業の企業再生には、やはり従業員一人ひとりがいかに自分たちの力とやる気を発揮していくか、ということがいちばん大事なのです」

 仮に、ダイエーが再建を果たし、現在のイオンやイトーヨーカ堂と同等の株式時価総額になったとしたら、丸紅がこのほど出資した10%分の持ち株は、どのくらいの含み益が見込めるか。

 4月21日の株価から概算してみる。イオンと同じ時価総額1兆1708億円になれば、丸紅の所有株は1171億円になり、差し引き985億円もの利益を得る。イトーヨーカ堂と同じ時価総額1兆4530億円になれば、丸紅の所有株は1453億円となり、含み益は1267億円に膨れ上がる。

 株価からは推し量れぬ尊き財産にも目を向けたい。ダイエーに買収された16店舗に勤務していた従業員たちの多くが古巣に戻り、現在ではマックスバリュ東海の精鋭となっている。

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