特集/プロ管理職
PART2「選択と集中」創意と技術力を磨け

HOYA
鈴木 洋CEO

仕事のボールを30個回せる「名ジャグラー」

 
 
 2005年3月期の連結売上高予想が3060億円、同営業利益予想850億円、同純利益予想630億円と高収益を維持するHOYA。
 かつて主力製品だったメガネ用レンズにかわり、いまや売上高の50%強を占めるのはエレクトロニクス分野。一時停滞の感もあったデジタル家電向けの需要も回復の感があり、05年度も好調に推移しそうだ。
 委員会等設置会社への移行、積極的なM&A戦略、海外での現地生産・販売を徹底し、現地法人のトップには現地の人材を配するなど、株主利益を最優先にした効率的な会社運営や真のグローバル化を果たす姿は、日本の株式会社が向かうべき未来形を見ているようだ。隠れた最先端ガバナンス企業・HOYAで活躍する管理職とは。
 
 
大宮冬洋 = 構成小川 聡 = 撮影
 
 

真っ逆さまに落ちていく
リーダー不適格者

 前提として話しておくと、当社は事業ごとの収益責任を高めるために、事業部制を導入している。6つの事業部は人事権を有しているし、法務部門も持っている。営業から管理部門にいたるまですべての機能が備わっていて、ほぼ独立した「会社」と言っていい。勝手に上場して資金調達をすることまでは許していないが、それ以外のことは事業部長の権限で遂行できる。

 実は、一度ある事業部に配属されると、原則的に人事異動はない。稀にトレードをやるぐらいだ。現場の戦力を整える作業は事業部長の仕事だ。

 また、企業理念など大きな根幹のルールは同じでも、事業部によって細かなルールは違っている。たとえば、給与水準や賞与の額も違うし、昇進のルールも違う。賞与は最終利益の3分の1を原資に配分するため、ゼロの事業部もあれば8カ月出る事業部もある。同じ課長であっても、事業部が違えば年収で2倍近い差がつくこともある。事業部間の人事異動が行えないというのが正確な表現だ。

 一つの事業部で20年かそれ以上、仕事をしていけば、その分野ではスペシャリストに育つ。スペシャリストが揃う組織内で競争し、優れた者がリーダーへと選抜されていく。残念ながらリーダーとして不適任とされた社員が、他事業部へ横滑りするといった「逃げ」は許されない。同じ事業部のなかで真っ逆さまに落ちていくか、真横にビタッと貼り付けられるか、そのどちらかしか道はない。

──スタッフから社長に至るまでの階層はどうなっているのか。

 それぞれの事業部は、一般社員、係長(グループリーダー)、課長(マネジャー)、事業部長(ゼネラルマネジャー)の4階層になっている。その上に私を含め、社内取締役3人、社外取締役5人ですべてだ。現在、単体で約3000人、グループで2万1000人の社員を擁しているが、管理職と呼ばれる人の数は極めて少ない。事業部あたりだと、課長クラスは十数人しかいない。当社の特徴といえるかもしれない。

 ある事業部長などは、中国とタイに工場があって、顧客が米国とEUにあって……飛行機の中で暮らしているようなものだ。年に数回しか顔を合わせることがない。組織階層が少ないので、現場での問題がさっと上がってくる。その都度、判断を迫られる。そのすべてをカバーしているのだから、ひとつひとつの仕事を深く見ていられないのが現実だ。

 だからこそ、課長が担う業務範囲はかなり広く、権限や責任も他の会社の課長に比べれば非常に大きい。

課長が2人いれば、工場が建つ

photo
Hiroshi SUZUKI
1985年、HOYA入社。89年HOYA LENS(S) PTE LTD.社長。91年HOYA OPTICS,INC.社長。93年HOYA CORPORATION USA社長。同年6月からHOYA取締役。以降、常務取締役、専務取締役を経て、2000年に社長就任。03年より現職。

──課長に求められる条件とは何か。

 一言で表現するならば、優秀なプレイングマネジャーであることだ。大道芸に例えるならば、「仕事」という名のボールをより多く、より速く回せるジャグラーのようなイメージだ。

 当社は、年齢・性別・国籍・新卒か中途かに一切関係なく、ボールをどんどん渡していく。まず、3個ほどボールを回させて、それを上手にジャグリングできるようならば、4個、5個とボールを増やしていく。4、5個のボールで手一杯になってしまう人はいつまでたっても「そこで終わり」ということになる。

 たとえば、ある課長であれば、4つの工場の品質管理をかけ持ちして、顧客対応をこなしながら、営業にも出るという感じだ。20や30のボールを回してもらわないと困る。

 それだけの数のボールを回すのだから、当然、部下に仕事を任せることが必要になるのだが、あいまいな指示をするタイプや、自分が入っていかないと気がすまないようなタイプはジャグリングできるボールの数がおのずと減っていく。リーダーとしての能力が不足していることが目に見えてわかる。下からの突き上げも強いから、やはり不適格ということで降格してもらわざるをえない。

 部下を上手に管理して、グループとしていい仕事をするような労務管理的マネジャーは当社では評価されない。一個一個のボールが持つ情報を正確に把握して、外部との調整をしたうえで部下に手渡し、トップダウンで的確な指示を素早く与えられるプレイングマネジャーが評価されている。しかも、いくつもの仕事を同時並行で行っていないといけない。

 当然、ボールを落としてしまうこともあるだろう。前向きな失敗には寛容な組織だが、それは能力がある社員に限ってのこと。能力のない上司は現場から強烈な突き上げを受ける。権限も大きいのだから、自分で考え、実行していく習慣がない「指示待ち人間」では、リーダーとはいえない。たとえば、5億円ほどの装置を設計させて、導入するまでを1人の課長のイニシアチブで行うこともある。課長が2人集まれば、工場をゼロから立ち上げられるだろう。

課長の仕事は
「競争力の強化」に尽きる

──HOYAというと、「利益へのこだわりが強い」というイメージがある。

「収益は大事」とよく言うが、大きな会社ほど株主利益に反するようなカネの使い方を平気でしているように見える。その点うちには、無駄にカネを使わないというカルチャーがしみついており、管理職が口うるさく指導する必要はない。

 社員にとってみれば、利益の一定比率がボーナスにそのまま反映されるというインセンティブがあり、当然、利益への意識は高い。

 現場レベルでの収益改善は、課長がやる仕事ではない。むしろ一般社員や係長が率先して行うべき仕事だ。一般社員の管理も係長の仕事であって、課長の仕事ではない。

──そうなると、課長の仕事はなにか。

 商品・技術など、事業の「競争力を強化すること」に尽きる。もちろん、競争力を強化した結果が収益改善につながるのだが、短期的な利益を上げることは一般社員や係長の仕事であって、長期にわたって当社の命運を握る競争力を強化することこそが課長の役割だ。

 たとえば、営業とR&Dの間にあるコミュニケーションギャップを解消したり、製品の付加価値を高めるために新たな生産設備を導入するなど、すぐには数字に表れなくとも、担当している製品や技術の足腰を強くするために必要な施策は無数にある。それらの課題を自ら発見して、自ら改善策を考え、自ら実行していかなければならない。

 普通の会社ではこのような役割は事業部長が行うのかもしれないが、先ほど述べたように当社の事業部長は多忙を極めるため、競争力向上の実質的な業務は課長が担っている。それだけに、課長クラスの人間は絶対に他社に引き抜かれたくない。むしろ、それより上のポジションの人間は浅く広く仕事をしているため、抜けられてもそれほどの痛手にはならないのだが。

 当社が導入しているストックオプション制度には、社員とわれわれ経営陣、そして株主が常に同じ価値観と考え方を有する運命共同体でありたいという願いを込めている。「沈んだときも同じね」という意味で(笑)。この3者が同じボートに乗って、力を合わせてオールを漕いでいる状態が私の理想だ。

優秀な人材が
集まっているとは思わない

──優秀な課長になるためには、一般社員の時代にどのような経験をすればよいのか。

 課長や事業部長に比べると、一般社員ははるかに小さな範囲で仕事をしている。その仕事さえも満足にできなければ、係長にもなれないし、ましてや課長は務まらない。小さな範囲の業務を確実に遂行しつつも、より大きな範囲を考慮する視点を若いうちから持つことが大切だ。

 どんな仕事も、必ずタテとヨコの連鎖の中で行われている。自分が担当している業務が、どこにどういうふうに影響を与えているかを意識することだ。たとえば、工場の生産管理担当であるならば、「製品がどのように売られていくのか」まで関心を持つことだ。

 ただし、このような視点を持てるかどうかは素質と環境の両方にかかっている。いかに恵まれた環境にあっても、自ら何も見ようとしない人は当然成長しない。逆に、どんなに秀でた素質があっても、広い視野を持つことを求められるような環境がなければ、優れた人材に育たない。

 こんなことを言うと、社員に怒られるかもしれないが、HOYAに優秀な人材が集まっているとは思わない。いま、主軸をなす30代後半の人材といえば、バブル期入社。優秀な人材は金融に流れたはず。ただ、HOYAにはある特定の分野での優れたプレイングマネジャーを育てる環境は整っている。

1.5倍で買うというオファーがあったら……

──高収益を続けていく、そのモチベーションはどのように保たれているのか。

 どうも、うちの社員は会社のために働いているふうではない。むしろ、お客様であったり、工場の仲間であったり、上司であったり、任せられた仕事をやり遂げ、成果を出すことで、そういった周りの人たちに喜んでもらえるということが動機づけになっているのではないか。

 報酬面のインセンティブも働いているのかもしれないが、カネの効果はある程度のところまでしかない。それよりも、事業部単位で見て、HOYAの企業価値を下げるようであれば、売りに出されるという危機感、まさに運命共同体であるということも強い原動力となっている。

 本当に忙しい社員が多い。海外出張に行っても、一泊で帰ってくる。目を真っ赤にして。とにかく誰かに働かされているというムードは、当社には一切ない。

──最近、話題の「企業価値」や「敵対的買収」。どのように捉えているか。

 利益を上げて、すべてのステークホルダーに満足してもらうことだ。

 戦略面でいえば、大企業との直接競合は避け、ニッチ市場で高いシェアを取る「小さな池の大きな魚」を志向する。こうしたビジネスモデルを維持するために、国籍・宗教に関係なく、経営資源の投入を行っている。人材については、日本人とそれ以外を分けて考えたことはない。

 手元流動性はリッチだが、自社株買いには使わない。買収の待機資金と考えている。株価については海外のライバル社の水準から見て、やや安いと感じている。ボックスに入ってしまったようで、よほどのことがないと大きく抜けない。もし、1.5倍で買うというようなオファーがあれば、株主に「どうですか」と相談するだろう。明日、株価を1.5倍にできるかと言われると、それは不可能だから。私たち経営陣が退く、それだけの話だ。私もしょせん、雇われの身。しかも、サイズは多少大きいけども、ボールは2個ほどしか回していないので(笑)。

 
 
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