無茶を言うのは不安だからなのか、わざとなのか、それとも……

「無理難題」の正体を
見極める三つのポイント

 
 
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あなたの前に現れた交渉相手が、理屈も
通じず、常識も備えていなかったとしよう。
この場合、焦ったりひるんだりせず、
相手がなぜそういう行動をとっているかを
見極めるのが賢いやり方だ。
 
 
ローレンス・サスカインド = 文
text by Lawrence Susskindディプロマット = 翻訳
 
 

 あなたが経験豊富な営業マンで、何年も順調に取引してきた会社との契約更改交渉に入ろうとしていると仮定してみよう。つい最近、相手の会社の担当者が、その会社に入って間もない人物、ジョーと交代した。

「私のルールを申し上げる」と、ジョーは挨拶もそこそこに切り出してくる。

「第一に、ミーティングは私のオフィスで行う。第二に、議題はこちらで決める。第三に、交渉する価格の幅はこちらから申し上げる。そして、交渉がまとまるまでは一切文書化しない」

 あなたは困惑して答える。

「そちらでお会いすることはかまわないが、弊社の生産部門の人間と御社の事業部門のどなたかを同席させるべきではなかろうか。彼らの利益にもかなう合意にしなければならない」

「いや、私はそういうやり方はしない」と、ジョーはあっさり拒絶した。

 あなたはこう説明する。「あなたの前任者はいつも事業部門の責任者を連れてきた。だから、いつも万事スムーズにいったのだ。われわれが話し合うべき問題は価格だけではない。こちらとしては、わが社の部品が御社固有のニーズを必ず満たすようにしたい」。

「それはあなたに心配してもらうことではない」と、ジョーは言い放つ。

 あなたはすっかり仰天する。ジョーは交渉不可能な相手のようだ。

 交渉の最も厄介な面の一つは、証拠や主張の理非では納得させられない相手に対処する方法を見つけることだ。不合理な行動や要求をやめさせるにはどうすればよいのだろう。本稿ではこの仮定の売買交渉を使って、強硬に見える相手や理屈が通じないような相手、あるいは完全に頭がおかしいように見える相手に対した場合のさまざまな可能性を分析していきたい。

【可能性1】相手はいたって合理的だ。彼の目に世界がどのように映っているのかをあなたが理解していないだけだ

 交渉の最も基本的なルールの一つは、相手が合理的であると想定することだ。新しい交渉には必ず心を白紙にして臨もう。人生経験の違いが、奇妙な行動に見えるものにつながることもある。だから、結論に飛びつかず、相手の目にはその交渉がどのように映っているのかを想像してみよう。

 もしかしたら彼は、交渉の進め方に関する会社の新しいガイドラインから外れるのを恐れているのかもしれない。「外部」との交渉を進めている間に「社内」の交渉をまとめることができず、痛い目にあった経験があるのかもしれない。こうした懸念に対処するにはどうすればよいのだろう。まず、あなたの新しい交渉相手がどんな問題に頭を悩ませているのかを直接尋ねてみよう。ジョーが社内で自分の身を守るための案をあなたから提案してもいい。

 第二に、新しいやり方が非生産的だとわかったら交渉を中止する権利を保留したうえで、相手の要求に応じることが考えられる。新しいやり方が非生産的に感じられても、そのやり方でやってみなくてはいけないこともある。そうすれば交渉がなかなか前に進まないため、最低でも、よりよいアプローチを議論する共通の基盤ができる。

 ジョーのオフィスで、一対一で話し合うという要求に応じるとしよう。

あなた われわれには明らかに共通の利益がある。御社はグローバル市場で競争力を維持するためにわが社の部品を必要としている。御社が現在の発注量を維持もしくは拡大されるかぎり、わが社には引き続きそれを提供していく用意がある。ご承知のとおり、お望みのものをお望みのときに納品するためには、われわれは生産システムを頻繁に調整する必要がある。発注量を維持もしくは拡大を前提として5年以上の購入契約を結んでいただければ、毎年わずかばかりのインフレ調整を行うだけで現在の価格を維持できるだろう。

ジョー とんでもない話だ。現在の単価からかなり値下げしてもらえないかぎり、御社と取引することに興味はない。それに、発注量はわが社が自由に増減できなくてはいけない。また、違約金なしでいつでも契約を破棄できる権利もほしい。さらに、期日どおりに納品できなければ、相当額の違約金を払うと保証していただきたい。

あなた ちょっと待ってもらいたい。わが社のコントロールの及ばない理由のために納品が遅れた場合でも違約金を払う? 単価を下げる? 発注量は随時、増減する? どこからそんな考えが出てくるのか。わが社の部品を御社ほど安く買っている会社はないはずだ。発注量は少なくとも安定していることが必要だ。でなければ、われわれはきめ細かいサービスを提供できない。

ジョー わが社との取引を続けたいなら、御社は価格を引き下げ、なおかつ納期のリスクをなくす方法を見つけなくてはいけない。

あなた わが社と御社は10年近く協力してきた。この問題はなんとか解決できるはずだ。あなたの前任者と私はいつも自分のカードをすべて見せ合っていた。いったい何が起きているのか。

ジョー あなたとスーがうまくいっていたのは知っているが、時代は変わった。価格は下げてもらう。リスクを減らす。柔軟性を維持する。それがルールだ。合意するのか、しないのか。

【可能性2】相手はいたって合理的だが、有利な取引に持ち込む戦略の一環として一見不合理な姿勢をとっている

 ジョーはあなたから何を引き出せるか見るために強く押しているだけかもしれない。この戦略は、とくに過去にそれを使って成功した経験のある人にとっては、不合理なものではない。

 ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー、ブルース・パットンの3人は、共著『ハーバード流交渉術』(TBSブリタニカ 1998年)で、自分自身が遇されたいように相手を遇するべきだと述べている。交渉理論が勧めるアプローチは、「立場ではなく利害に焦点を合わせる。工夫することとコミットすることを分けて考える。『もし〜なら、どうなるか』という問いを重視する。客観的基準を強調する。放っておいても履行されるぐらいの合意をめざす」である。

 効果的な行動の手本どおりに対応したのに、厄介な相手が合理的に行動してくれないからといって絶望してはいけない。あなたがとれる戦術はほかにもいくつかある。まず、事態についての自分の解釈が正しいかどうかを確認するために、あなたの社内の人間を交渉の場に同席させたいと主張し、相手にも同僚を連れてくるよう要求しよう。さらに、ミーティングを終えるたびに、内容を文書にして関係者に配布しよう。そうすることで、あなたは厄介な相手に「あなたが何をしているか他の人々が知ることになりますよ」と通告するのである。次に、あなたの利益を十分に満たし、相手の利益を少なくとも適度に満たすと思われる案をいくつかオファーする。たとえ合意に至らなくても、あなたのオファーは記録に残ることになる。最後に、相手をなだめたいというだけの理由で一方的な譲歩をしてはならない。相手を助長するだけだ。

 あなたにどこまで押しが通用するか、本当に限界があると悟ったら、ジョーはおそらく要求をゆるめてくるだろう。

【可能性3】 本当に理屈の通らない相手で、普通の話し合いのルールはまったく通用しない

 これまでに述べた戦術をすべて試してみても、うまくいかなかったとしよう。この場合、何ができるだろう。

 まず、いくつかの合意案を記したメモをつくり、それから交渉を打ち切る明確な期限を定めよう。証拠や主張をすべて列挙して、それらの案がなぜ双方の利益にかなうのかを説明しよう。実現しにくい場合もあるだろうが、そのメモを交渉相手の上司のもとに届ける努力をしよう。

 一対一の交渉で相手が前進を拒み、妥当な提案に一切応じず、他の人々を同席させるのを渋り続けるとしたら、交渉を続ける理由はほとんどない。

 私自身は、われわれが不合理な行動とみなすものが本当に不合理であるケースはあまり多くない、と考える。経験から言うと、むしろ可能性2である公算のほうが高い。彼らは強硬姿勢によって相手の邪魔をすることで、自らの利益を高めようとしているのである。

 
 

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