「優秀な社員が辞める」というリスクをヘッジする方法

人材流出で「組織の知」を
失わないために

 
 
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労働市場は活気を取り戻しつつある。
社員の知識や経験をつかみとる戦略がなければ、
人材の流動性が高まるなか、あなたの企業は頭脳流出による大変な損害を被る可能性がある。
 
 
D・ボース = 文
text by David BoathD・Y・スミス = 文
text by David Y. Smithディプロマット = 翻訳
 
 

取り返しのつかない
「知識や経験」の喪失

 企業幹部の多くは、会社の最も重要な資源は毎晩会社から出て行くもの、つまり社員だと言っている。だが、重要な人材が永遠に会社から出て行く日に備えて会社を守る十分な手だてをとっているリーダーはほとんどいない。そして、景気が回復に向かうにつれて、その日は多くの企業が思っているより早く訪れるかもしれないのだ。

 社員の年齢が高くなるなかで──しかも、あらゆる年齢層の労働者がますます転職をいとわなくなるなかで──多くの企業が、競争力と収益性の大きな源となってきた知識(ナレッジ)や経験や知恵の取り返しのつかない喪失を今現在、経験しているのだから、その危険性はなおさら高い。

 それを防ごうと思うなら、企業は自社の社員が持つ大量の知識を維持・拡大する戦略的行動計画を今すぐ実行に移すべきである。そのような計画は、次のような目標を持つものでなくてはならない。

●社員が知識を──自分自身の知識も同僚の知識も──がっちりつかみ、広めていく手助けをする

●時間や空間を超えた協働を支援する

●最も効果的に仕事をするために必要な学習支援やパフォーマンス支援を社員が利用できるようにする

●効果的なキャリア開発・向上計画につながる組織構造を築く

 知識の喪失とそれが社員の生産性やパフォーマンスに及ぼす影響は、問題が複雑に絡まり合っていることを示している。だから当然、単一の、あるいは一面的な解決策ではすべての問題に対処することはできない。したがって企業は、戦略とテクニックとテクノロジーの組み合わせという観点から考えていく必要がある。

 そのようなアプローチをとろうとする企業は、次のアドバイスに従うべきだろう。

(1)最もリスクの高い知識を組織のものにする

 企業はまず、情報や経験の喪失によって最もリスクにさらされる箇所を突き止める必要がある。その一環として、最も重要な知識を持っている社員を特定できるパフォーマンス・マネジメントの手法やキャリア開発の手法を構築することも必要だ。

 たとえば、デイビッド・W・デロングとトマス・O・マンは、アクセンチュアの「アウトルック・ジャーナル」(2003年1月号)の記事「Stemming the Brain Drain(頭脳流出を食い止める)」で、次のように述べている。

「9.11後に航空輸送量が大幅に落ち込んだとき」デルタ航空は競争力を維持するため人員を削減した。「だから、会社全体で1万1000人の社員が早期引退・退職のオファーに応じることにしたとき、デルタには、バックアップ要員や交代要員がいない職種に就いている社員を特定し……それから彼らが退職する前にその知識をつかみとる時間が2カ月弱しかなかった。

 全社のスーパーバイザーがデルタの学習サービス部門のチームと協力して、1万1000人のリストからその人物の退職が『きわめて重要な職種の喪失』となるベテラン社員を絞り込んだ。これらの傑出したパフォーマーを特定すると、彼らと面談して会社での彼らの役割について話を聞いた。このようにして、デルタはきわめて短期間にできるかぎり多くの重要な知識を会社に残したのである」。

(2)焦点を絞ったキャリア開発、向上プログラムを

 キャリア開発プログラムは、社員が将来の役割に備えて必要な知識を蓄積する手助けをするものだ。たとえばワイスは、先年、新薬発見のペースが4倍になったとき、研究開発部門の6000人の社員のうち、150人の臨床研究チーム・リーダーがミッション・クリティカルな(消失すると甚大な影響がある)社員になっていることに気づいた。

 これらのますます重要になるマネジャーを会社に引き留め、彼らの能力をさらに開発するために、同社は各キャリア・レベルでどのようなコンピタンシーが求められるか──また、どの程度の熟達度が求められるか──を明示した独自のキャリア向上モデルを開発した。そして、すべての臨床研究チーム・リーダーをこれらのコンピタンシーに照らして評価し、向上と成長の機会を与えるために個々人の能力開発プランを作成した。また、彼らの知識をさらに高めるツールを開発するとともに、継続的な学習とベスト・プラクティスの共有を可能にするために協働の場を設けた。

 それに加えて、組織が持つ臨床試験マネジメントの専門知識が向上し続けるよう、臨床研究チーム・リーダーを「ケイパビリティ(能力)チーム」なるものに参加させ、プロセス変更や訓練ニーズの問題に取り組ませている。また、とくに臨床試験マネジメントに焦点を当てた新設の中央組織にも彼らを参加させている。

(3)組織のなかにナレッジ・コミュニティを築く

 多くの組織で知識はもっぱら「専門家」の手中にあり、彼らは会社を去るとき、その知識も持ち去ってしまう。適切な協働ツールは、専門家の情報や知見をつかみとり、彼らのまわりにコミュニティを築く手助けをして、彼らの知識をコミュニティの知識に変えることができる。

 それを実現する簡単な方法の一つが、会社の主要な専門家のインスタント・メッセージ(IM)のやりとりを保存し、集積することだ。概して知見に満ちているこれらのやりとりは、コンピュータの画面から消えたとたんに普通は失われてしまう。しかし、新しいツールはそれらをつかみとり、いつでも取り出せるようにすることで、それらを通じて伝えられる知識が社内に残るようにしてくれる。

(4)「パフォーマンス・シミュレーション」を採用する

 eラーニングは社員の訓練に革命的な変化をもたらした。学習は教室という舞台で「公式に」行われる場合にかぎり成功するという閉鎖的な考えから企業を解放し、質の高いコンテンツを常に提供できるようにして、いつでも、どこでも学べる学習者主導の学習を可能にした。

 とりわけパフォーマンス・シミュレーションは、きわめて効果的な学習テクニックであることが実証されている。実務に近い環境──ルールに従ってフィードバックが与えられ、それにもとづいて矯正していける──のなかで課題を修了することで、学習者は知見と評価と指導を得ることができる。

 学習者は専門家の「奮闘物語」やものの見方、具体的な参考資料、業界のベスト・プラクティス、練習問題へと導かれ、それらを学習し、応用しながら課題を修了する。

 これらの内容のすべてが、学習者がそれを学ぶ準備ができたちょうどそのときに──試行錯誤の時点で──入手できるようになっている。

 たとえばシーメンスでは、収益性を高め、より迅速に変化に対応するために、世界中の社員が共通の財務用語を使えるようにする必要があった。同社は、財務・管理部門の1万人の社員のために作成された48時間シミュレーション体験プログラムを使ってこれを実現した。

 テクノロジーとグループ活動を組み合わせて、これらの社員に、国内市場中心の単一製品企業を複雑なビジネス決定に直面するグローバルな産業組織へと成長させるという挑戦をシミュレートさせたのである。

 社員たちはまずエクササイズで、財務アナリストや財務マネジャーやプロジェクト・コントローラーの役割を演習した。次にビジネス検討ミーティングで、先のエクササイズで得た知識を参考に、チームごとにケース・スタディを行った。

 その結果、シミュレーションを終えたときには、彼らは共通の言語が緊急に必要であることをより深く理解し、その言語自体もより確実に使いこなせるようになっていたのである。

 
 
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