なぜか結果が出る人の「24時間」
私の秘密!「OFF時間」に大差をつける法
──土曜日
テーマで過ごす休日がヒット連発を生む
そこでは、キリンビールとサントリーがしのぎを削っている。
逗子の海岸で、あるいは青山骨董通りで。
商品企画マンのアンテナは、土曜日にも眠らない。
通勤用と言い訳して買った自転車
土曜日の早朝6時30分。キリンビール酒類営業本部マーケティング部商品開発研究所新商品開発グループの古園篤は愛車のMTBを駆って逗子の自宅を出た。夏の暑さが残る昼間と違って、朝の空気には秋の気配が心地良く漂っている。
路地を抜けて海岸線に出ると、一路葉山へ。自宅から約30分の道程。江の島や稲村ガ崎にもよく足を伸ばすが、今日は葉山の気分だ。人の出も車も少なくなった初秋の海岸線は走りやすい。スピードが乗ってくると頭の片隅にあった仕事の残滓が溶け出して、まっさらな頭の中に朝の陽光に彩られた海辺の景色が飛び込んできた──。
小学校以来の自転車に、古園が乗るようになったのは6年前。当時、キリンビバレッジで清涼飲料水の新商品開発担当で、既存商品のリニューアルに取り組んでいた。
「コンセプトからリニューアルするということで、何か新しくリボーンしなければならなかった。それがプロダクトなのか、表現なのか、それともほかに何かあるのかということで、かなり会社で煮詰まっていたんですよね。頭を切り替えられて、ストレス解消になるものが欲しいなと思って始めたんです」

- 古園篤
1965年、鎌倉生まれ。キリンビバレッジを経て、2000年からキリンビール出向。
妻には駅までの通勤用に欲しいと言い訳して自転車を買った。古園は鎌倉生まれの鎌倉育ち。だが、自転車で地元でも通ったことのない道を走っていると、新鮮な発見があってリフレッシュできるし、仕事漬けの頭が刺激される。頭を空にしたり、逆にのんびり一人で考える時間もできた。
以来、果汁やお茶のスペシャリストとしてキリンビールの低アルコール飲料開発チームに移ってからも、月に2、3回のペースで週末の早朝サイクリングを楽しんでいる。そこから商品アイデアに結びつく着想が生まれることもある。ウインドサーフィンをしていたカップルが海辺で一休みしている後姿を見て、「こんなときにゴクゴクと、しかもスッキリと飲める低アルコール飲料」という思いが浮かんだ。その発想がクリアストレート果汁(濃縮還元しないフレッシュな果汁)という技術的な知識と結びついて、人気の缶チューハイ「氷結果汁」が生まれたのだ。
「会議というのはまとめた考えを披露したり、自分の考えを皆でシェアする場所であって、基本的には発想する場じゃないと思うんです。特に具体的なブランディングの前段階、新しい商品コンセプトの発想というのはデスクワークばかりでは生まれてこない。一生懸命自転車を漕いだ後に、ぼんやり海を眺めていると、こんなのがあったら面白いなという絵や言葉が浮かんできたりするんですよ」
葉山に到着するとMTBを横付けして、岸壁に腰を下ろす。葉山御用邸が見えるお気に入りのポイントだ。海風で汗が引いていく。光が乱反射する海面を見つめていると呼吸が徐々に落ち着いてくる。
古園はウエストポーチから手帳を取り出して、何やら走り書きを始めた。手帳には文字や文章や絵が無秩序に書き付けられている。ペーパーバックと並ぶ早朝サイクリングの必需品、秘密のアイデア帳。瓢箪や徳利のような絵は九月に新発売された「酔茶チューハイ」のボトルデザインだ。
しばらく走り書きに没頭していた古園が時計を見る。午前8時半。家ではそろそろ朝食の準備が始まっている。「よし」と一人ごちた古園は再びMTBに跨り、勢いよくペダルを踏み出した。
インテリアショップ10軒ハシゴする日
サントリービールRTDカンパニーRTD事業部企画部課長の和田龍夫は一つのテーマを決めて毎週末のプライベートタイムを過ごしている。
「あれもやりたいこれもやりたいだと中途半端になる。関心のあることの中から一つテーマを決めて、週末2日でマスターするわけじゃないですけど、徹底的にこだわる。私はいろんなことに関心があるし、物欲も強いんですけど、映画や音楽、買い物にしても普段の生活では思うように発散できませんからね」

- 和田龍夫
1964年生まれ、87年入社。ビール、発泡酒の開発を経て、チューハイの開発に。
たとえばインテリアをテーマに決めたとある土曜日。和田は目黒通りのインテリアストリートを皮切りに青山・新宿と移動しながら計10軒のショップをハシゴした。1日で究めきれなかったときは日曜日にも足を運ぶというから、ウイークデーよりよほど忙しい。
「単なるウインドーショッピングじゃなくて、自分が欲しいものを消費者視点で見て回るから、疲れてぐったりすることもあります。せっかくの休みなのに(笑)。でも、商品開発者というのは自分の関心、引き出しをどれだけ持てるかという部分がありますからね。だから自分の好きなことや趣味に没頭していても、頭のどこかで仕事のヒントを探してしまう。でも、趣味と実益が一致する面白さや醍醐味は企画マンの特権だと思いますね」
店員と最近の流行や売れ筋について話をしたり、店舗を訪れる他の客の様子を見ていると閃くことがある。若いカップルがポップなソファに座って「これでカクテルなんか飲んだらオシャレよね」と話していたことがヒントになって商品化されたのが低アルコール飲料の「カクテルバー」だ。
「自転車屋さん回りをして気づいた消費者心理があるんです。たとえば電動アシストサイクルをダイエット目的で買っていく人がいるんです。自転車を買いにきて本格的なロードサイクルもあるけど、そこまでしんどい思いはしたくないから買うのは気が引ける。自転車は自転車だし、体にいいんだから電動でもいいよね、と。いわば免罪符的な心理で買うわけです。これだと思って『免罪符』というキーワードで提案した商品がカロリーオフチューハイの『カロリ』です」
本気でダイエットしたければ酒は飲まないし、ダイエット系の発泡酒の売れ行きはさほどでもない。「カロリーオフに意味があるのか」という社内の反対に、和田は「カロリーオフならいいよね、という消費者心理があるはず」と説得して商品化にこぎつけた。ダイエットしたいユーザーではなく、ダイエットによさそうだと言い訳をして酒を飲みたいユーザーをターゲットに定めたことが「カロリ」のスマッシュヒットにつながったのだ。
和田も古園と同じことを言う。
「会社で考える時間というのはほとんどがアイデアを具現化させる作業で、会議室ではあまりいいアイデアは出てきませんね。やっぱり街に出ないと」
決して仕事の延長ではない。あくまでプライベートのオフタイム。しかし、頭をフラットにした企画マンの週末発想から数々のヒット商品が生まれている。
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