特集/「評価とやる気」の科学
「不平と不安」スッキリ解消マニュアル
【部下の巻】
高スコアへ!
上手な「手柄アピール」術
自己アピール下手で過小評価されてはたまらない。目標を高くしすぎると
達成できないというリスクがあり、低くしすぎると「やる気」を疑われる。
正しく評価されるための、上手な成果主義との付き合い方とは?
(※ここでは【部下篇】の1、2をご紹介します。3以降については本誌をご覧下さい。)
1.今期の目標はどう立てるべきか
成果主義において、まず重要となるのが目標の立て方だ。成果主義を導入して間もない企業では、「どうしていいかわからない」と戸惑う人も多いだろう。だが、そもそも「目標」とは何だろうか。
「目標は『目標として機能すること』がいちばん重要。簡単に達成できる低すぎる目標は、目標ではないし、どうがんばっても無理という目標も意味をなさない。要するに目標設定のためには、自分は何をどこまでやれるのかをわかっていないといけない。目標を設定する前に、自分の能力の棚卸しをしておく必要がありますね」
そう話すのは、人事コンサルティング会社、リンクアンドモチベーション取締役の勝呂彰氏だ。前職はリクルートで人事制度を担当していただけに、成果主義との関わりは深い。
勝呂氏は、目標を立てるに当たり、自分が「やるべきこと(会社から与えられたミッション)」「やりたいこと(自分がやってみたい仕事)」「やれること(自分の能力で可能な仕事)」を整理しておくことを勧める。その三つの条件が重なり合った範囲内で設定されるのが、いい目標なのだ(図1参照)。
つまり、自分に求められている仕事のうち、自分がやってみたいこと、しかも自分の能力で実現可能なものが、真の「目標」となりうる。自分の思いや理想だけで目標設定をしても無意味だというわけだ。
AIU保険会社の人事担当執行役員、四方ゆかり氏も、「もし自分が上司だったら、自分に何を求めるか、という立場で発想することが大事」だと強調する。
「自分の課や部、ひいては自分の会社全体の目標をきちんと把握したうえで、その中における自分の役割を考えるのが真っ当なプロセス。そうすれば自分の目標を上司とすり合わせる際に、大きなズレは生まれない。もし、自分の部署が何を期待されているのかわからない、あるいは自分自身に求められていることが不確かであれば、素直に上司に聞けばいい。そんな前向きな姿勢の部下なら、上司はとてもうれしいはずです」
そのためにも、普段から上司とコミュニケーションを密にして、上司の考えや会社の方針の情報収集に努めておくべき。課全体、会社全体から物事を見るクセをつけていれば、将来昇進したときにも役立つだけでなく、評価も自ずと高くなるという。
「優秀な人は、『もし、自分が経営者だったら……』という発想で動きますからね。そういう思考は表に出るし、見る目がある上司なら、それを見抜くことができる。『こいつは上に立つ素質があるから、チャンスを与えよう』と考えると思います」(四方氏)
2.目標は低めと高め、どちらが有利か
次は目標の難易度のレベルである。やや低めの目標設定で合格点を狙う、あるいは、高めの目標でチャレンジ精神を見せる──いったい、どちらが“得”なのか。これも非常に悩ましい問題である。だが、外資系企業でのキャリアが長い四方氏のアドバイスは実に明快。「高い目標と低い目標のどちらかを選ぶのではなく、『どっちも選ぶ』のがベスト」だと言う。
まず、自分に対する上司や会社の期待を読んで、「やって当然の課題」を設定する。そこである程度の評価がもらえることを上司と“握った”うえで、「正直言ってできるかどうかわからないけれど、自分の成長のためにも挑戦したい。ぜひサポートをお願いしたい」と前置きして、もう一段上の目標を設定する。いわば二段構えの戦法である。
達成が難しいのは上司も了解済み。当初の期待値以上の成果を生み出せるのなら上司にとってもメリットは大きく、喜んでサポートしてくれるはず。それに、挑戦する意欲のある部下ならば、応援したいと思うのが人情である。
ただし、己の実力を遥かに超えた目標を設定するのは逆効果。「現実を見ていない」とマイナスの印象を与え、上司の信頼をなくすという。
「『こんなことも、あんなこともやります』と大風呂敷を広げる経営者が、株主から警戒されて信用を失うのと同じ。また、やさしすぎる課題を設定して、守りに入ってしまうのも悪いパターンです」(四方氏)
いずれにしても大切なのは、自分に対する期待値と己の実力を正確に把握するということ。「敵を知る前にまず己を知る」。基本中の基本である。
ところが、ここで戸惑う人が意外に多いとか。そこで、リンクアンドモチベーションでは、成果主義を新たに導入するクライアント企業に対し、「玉入れゲーム」を使ったこんな研修を実施しているという。
ルールは簡単。部屋に段ボール箱を置き、離れた場所からボールを投げて箱に入れるというもの。5メートル先から投げて、無事に箱に入れば5点、4メートル先なら4点と、距離によって得点が決まる。
投げる場所は自分で設定するのだが、興味深いことに、特に説明をしなくてもたいていの人は2、3メートル先の地点からボールを投げるという。確実だからと、1メートル先から投げる人もいないし、5メートル先から入れようとする無謀な人もまずいないという。自分の能力を見極めているのである。
「入るか入らないかわからない、でもちょっと努力すれば届くというあたりが、適度なゴールセッティング。ボール投げなら感覚的にわかることが、ビジネスとなると途端にわからなくなる。高い目標のほうがカッコイイと思っちゃうとかね(笑)。もし、自分の力量がわからなければ、一度ボールを投げてみればいい。野球をやっていた人なら四メートル離れていても大丈夫などと、人によって能力は違う。それが自分の能力の棚卸しということです」(勝呂氏)
また、人事組織アドバイザーの中島豊氏は、目標の設定の仕方は、自分と会社のスタンスによっても違ってくると言う。
その会社で長く働きたいのか、それとも早く出たいのか。会社のことを好きで信頼しているか、そうでないか──。個々のケースに対応するため、縦軸を「会社に対する信頼」、横軸を「会社に対する依存度」として、中島氏にマトリックスを作ってもらった(図2参照)。自分がどの象限に属しているのかによって、成果主義における「うまい泳ぎ方」が変わってくるのだ。
「会社に対する信頼は低いが、会社に依存しなければいけない、つまり、会社は嫌いだがほかに働く場所がないというサバイバル・モードの場合は、できるだけ目標は低くしてリスクを少なくするのが得策です。また、会社に対する信頼度が高く、依存度も高い場合は、自分の身の丈よりちょっと高い中程度の目標がいい。そこで長く働くのが前提だから、自分のやる気も出るし、達成感もある。『生きがい発見型』の選択です」(中島氏)
また、会社に対する信頼は高いが、あまり依存はしていない場合、高い目標を設定して自分を育てるほうがいい。転職に備える「キャリアアップ型」の選択である。一方、会社に対する信頼も依存度も低い人は、会社を出ていくのが前提だから、実績を積んだことを履歴書に書くために、中程度の目標を立てるのが望ましい。
自分の能力だけではなく、会社とのスタンスの取り方で目標の設定の仕方を変えるというのは、非常に合理的で納得がいく。そう考えると、暴露本などで描かれる成果主義の醜い側面は、ほとんど「サバイバル型」に当たる社員の体験ではないだろうか。
成果主義の中で快適に生きていくコツさえつかめれば、「成果主義、恐るに足らず」と言えるのかもしれない。
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