進まなかった議論に火をつけた新「骨太方針」

 
 
経済財政政策・金融担当大臣
竹中平蔵 = 談
たけなか・へいぞう●
1951年、和歌山県生まれ。73年、一橋大学経済学部卒業。大阪大学助教授、ハーバード大学客員准教授、米国国際経済研究所客員フェローなどを経て、慶應義塾大学総合政策学部教授に。2001年4月26日より、経済財政政策担当大臣に就任。2002年9月30日の内閣改造で金融担当大臣を兼務。岡倉禎志 = 撮影
 
 
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「集中調整」から
「重点強化」へ

 今年もまた、「骨太」の季節がやってきた。私たちは、毎年6月に、政策面の基本方針を決め、それを「骨太方針」としてとりまとめてきた。

 以前は、政策が予算とともに決まっていた。何らかのかたちでお金の裏づけが必要だったために、12月の予算を決めるときが、同時に政策を決めるときだった。しかし、それでは、政策を急いで決めなければならなくなる。だから、もうすこし時間があるときに、きちんと政策を議論しようではないか、その政策に基づいて後半予算をつけていこうではないかということで、6月の議論になった。

 これは仕組みを根本的に変えたところに大きな意義がある。数年前までは、政策や予算が決まるときに、各団体の陳情が激しかったが、今はその姿も消えた。霞が関では、政策に対する要望や議論が、むしろ6月に活発になった。つまり、この「骨太方針」ができたことで、政策プロセスそのものが大きく変化したのだ。

 さて、我々は、3年前につくった第1回目の「骨太」で、今後2、3年は「集中調整期間」だと言った。不良債権に象徴される負の遺産を一掃するとしたのである。それでいくと、その集中期間は、16年度で終わることになる。だから、今回の「骨太」は、その後のコンセプトを出すという意味で、とりわけ重要な「骨太」だった。我々が出したコンセプトは、ひと言で言えば、集中調整期間を終えたあとは「重点強化期間」ということだ。

 たしかにこの3年、負の遺産の一掃に向けて大きな進捗があった。しかしその間に、世界経済は凄まじく変わった。経済環境が変わり、人口の減少も目の前のできごとになった。その意味で、21世紀型の成長のための基盤を重点的に強化しなければならない。

 基盤として強調しておきたいことは、今までも繰り返し述べているように、「官から民へ」「国から地方へ」という分権政策であり、この中では郵政改革が筆頭に挙げられよう。また三位一体の改革の推進ももりこんでいる。そして、「官の改革」「民の改革」の必要性である。そしてすべての経済社会活動の基礎が人間の労働資源であると考えれば、「人間力の強化」が不可欠の条件になる。いずれにしても、その根底にあるのは国民の安心と安全である。そのためには、社会保障の充実を図らなければならない。

 そのような重点的な改革に加えて、いくつかの重要な問題を議論していこうというのが、今回の「骨太」議論の基本である。

 今回の「骨太」議論では、2つのことが印象に残った。1つは、骨太方針の位置づけが変化したことだ。最初、こうした議論が総理直轄で行われることに対する反発が強かった。必要がないとか、それは書くなとか、この表現はなくせとかという意見を調整することが多かったのである。

 しかし、この3年間、総理の強いリーダーシップの下で、骨太方針の重要性が認識されるようになった。ネガティブな調整から、あれを書け、これも入れようというポジティブな調整が増えた。書かれないことには予算もつかないし、国民全体の政策にならないことが理解された結果である。それに呼応するように、自民党内には重点政策推進委員会ができた。政府と与党の政策決定プロセスが、非常にダイナミックになったのである。

 もう一つは、議論がスピードアップし、この3年間でなかなか進まなかったことが一気に進んだことだ。

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活発な議論から生じた
「5つの大きな変化」

 大きな変化として5つ挙げておきたい。

[1] デフレ克服に向けた政府と日銀の関係に関する表記に、2つの新たな表現がなされた。1つは、平成18年度までの「重点強化期間」を含む政府の経済の見通し等と整合的なものとなるよう、日銀がデフレ克服の道筋に関する説明責任を果たすこと。もう1つは、効果的な資金供給につながるような措置を含め、さらに実効性ある金融政策運営について明記したことだ。これらは、政府と日銀の協力のあり方として大きな進歩である。

[2] 地域再生を本格化するためには、資金の裏づけが必要だということになった。もちろん財政には制約があるから、既存の補助金を見直すなど全体のパイを増やさないようなかたちではあるが、これも大きな政策の変化だ。

[3] 特別会計に関して中期的な抑制の目標を設定して、その効率化を図ることになった。これも、日本の財政のあり方を大きく変える画期的な試みであるので大いに期待したい。

[4] 規制緩和に関連して市場化テストが導入されることが明記された。私たちはこれを、官民合同入札と呼んでいる。要するに、官がしていたことを入札によってテストし、効率的なほうを選ぶというものだ。財政のムダを省いて民間にアウトソーシングしようという意味で、効果が期待できる。

[5] 「日本経済21世紀ビジョン」を官民の英知を結集して作成することが閣議決定された。たとえば、10年前には日本の10分の1でしかなかった中国のGDPが3分の1に拡大した。自動車で見ると世界トップクラス(5位)の生産国になりながら、国内沿岸部でも普及率はまだ一%にすぎないことから、広大な人口の爆発力は相当強いと考えられる。だから、日本と中国の関係について長いスパンでの見通しを立てなければならない。

 中国との関係だけではなく、環境問題や産業競争力などにも同じようなことがいえよう。かつて、大平内閣のときには、「大平研究会」がつくられた。そこで出された「環太平洋連帯構想」は、今の政策の基盤になっている。これと同じような、四半世紀以降を見通したビジョンが必要になるに違いない。以前に提案して、一部の反対でできなかったことが、「骨太」の定着によって、認められるようになった。この実現を急ぎたいと思っている。

 リアクティブなものを卒業して、プロアクティブなものに積極的に向かっていくのが、今年の「骨太」の重要な位置づけだと思う。

 最後に、議論を呼んだ年金問題について触れておきたい。法案については、私自身満点だとは思っていない。しかし、一元化の問題、税金にするか社会保険にするかの問題など、一朝一夕の議論で結論が出るものではない。それを踏まえて、この1年でやるべきことは、制度を存続させ、安心感を得ることだ。そのためには、給付と負担のバランスがとれていなければならない。今回給付と負担については、かなりの見直しができた。だから、そのうえで、5年、10年かけて制度体系の議論をしていくべきだと考えている。

 
 
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