なぜ弁護士は「協力者」でなく「問題の一部」になりがちなのか
訴訟を避け、和解に持ち込む「七つの策」
突入してしまう。
紛争解決コストを抑え、
トラブルをチャンスに変えるためには、
弁護士とどのようにつきあえばよいのか。
交渉の世界には取引と紛争解決という二つの分野がある。そして、法律や弁護士がこの両方に関係があることを経営者は当然知っている。取引が不動産のリースであれ、企業買収であれ、特許の使用許諾であれ、販売契約であれ、企業は弁護士を雇って条件を検討・交渉させ、契約書を作成させる。そうした取引がこじれた場合には再び弁護士が登場する。紛争解決の分野では弁護士は益よりもむしろ害をなすと、経営者はぼやくものだ。紛争が解決されるのは、両当事者が巨額のカネを訴訟につぎ込んで、弁護士の懐を豊かにしてやった後のことが多いからだ。
スコット・ペペットとアンドルー・トゥルメロと私の共著『Beyond Winning : Negotiating to Create Value in Deals and Disputes(勝利を超えて:取引と紛争における価値を生み出す交渉・邦訳なし)』で、われわれは、弁護士とクライアントは紛争を取引に変えるチャンスを見逃すことが多いと指摘している。とりわけ法的紛争は三つの落とし穴にはまりやすい。第一に、一部の紛争は和解のほうが望ましいのに裁判に持ち込まれる。第二に、和解の時期が遅すぎて、それまでに不必要な費用がかさんでしまう。第三に、紛争当事者は、単なる金銭的利害を超えて、すべての関係者のために資源のパイを拡大できるハイレベルな取引のチャンスを逃してしまう。
賢明な経営者は、性急に訴訟を起こすのではなく、弁護士の助けを借りて和解のための取り決めについて交渉する。現実的な問題解決の道を見つけるために弁護士とより緊密に協力することで、経営者は裁判になる前に紛争を解決し、法的費用と結果をよりうまくコントロールすることができる。
●和解を阻むよくある障害
次の例は、なぜ裁判になる前に和解するほうが当事者にとって得な場合が多いのか、を説明するものだ。アクメという会社がベイカーという会社を契約違反で訴えたとしよう。
弁護士を介して両者は関係書類を交換し、意思決定分析を行う。アクメには裁判で10万ドルの賠償金を勝ち取る可能性が50%、裁判に負ける可能性が50%あり、予想される賠償金の平均額は5万ドルだと、どちらの側も判断する。それぞれの側に1万5000ドルの裁判費用がかかるとすると、アクメが受け取る賠償金額が3万5000ドルから6万5000ドルの間なら、どんな金額での和解でも判事に自分たちの運命を決めてもらうリスクよりましだと双方が考える可能性がある。つまり、訴訟の勝算とリスクについての両当事者の期待がほぼ一致しているならば、訴訟を避けることで節約できる金額から可能な合意の範囲が生まれる。当事者にリスクを避けたいという気持ちが強いほど、合意の範囲は広くなる。
この基本的な経済モデルによって、なぜほとんどの紛争が和解によって解決されるべきなのか──そして実際にそうされているのか──が説明できる。しかし、弁護士とクライアントが和解という線で合意するまでには、何カ月もの──ときには何年もの──月日を裁判に費やさなくてはいけないことが多い。和解プロセスには以下に述べる三つの戦略的側面がある。これらの側面を知ることで、弁護士が協力者ではなく、問題の一部になりがちな理由がわかるはずだ。
[1]認識に影響を及ぼす
どちらの当事者も勝算についての相手の認識に影響を及ぼそうとする。訴訟当事者は形勢を有利に見せようとし、とことん争うつもりだと明言したり、そのような印象を与えようとしたりする。二陣営が争っているときに片方が和解を申し出たら、相手はそのチャンスをとらえて提示された条件をはねつけ、優位に立つ可能性がある。
[2]訴訟費用に影響を及ぼす
訴訟当事者が、巨額の訴訟費用を生じさせることで相手にダメージを与えられると思っている場合にも、和解という選択肢は除外される可能性がある。一例を挙げると、開示の際にスミスがジョーンズに長い質問書を送るとする。質問をつくる時間はたかが知れているが、ジョーンズがそれに答えるためには何時間もの時間が必要だろう。ジョーンズは仕返しのために、開示手続きをスミスにも同様に大変なものにしてやろうという気になるかもしれない。結果は消耗戦だ。
[3]インセンティブに影響を及ぼす
弁護士の報酬が時間で支払われる場合、弁護士は有力情報が出てくることを期待して開示手続きを長引かせようとするかもしれない。もちろん、長引かせるという金銭的インセンティブもある。クライアント側はえてして弁護士という職業を誤解しており、その誤解が早期の和解を妨げることがある。
●和解に成功するための七つの策
こうした障害にもかかわらず、クライアントとその弁護士はしばしば紛争を取引──パイをただ分割するのではなくパイそのものを大きくする取引──のチャンスに変えることができる。以下に、迅速に和解を成立させ訴訟を避けるための七つの策を紹介しよう。
[1]交渉による解決の可能性を探る
訴訟にともなう高いリスクとコストを考慮して、訴訟を起こす前に交渉による解決について十分、検討しよう。実際多くの企業では社内弁護士に対して、外部の弁護士を雇って訴訟に踏み切る前に、交渉による解決のメリットについて検討したことを早い段階で経営陣に説明するよう要求している。
[2]紛争を取引に変えるチャンスを探る
紛争を創造的な取引に変えるにはどうすればよいのだろう。あなたのさまざまな利益──金銭とは無関係の利益も含めて──を突き止めて、それを表明すればよい。たとえばセクハラ訴訟の原告は、金銭的補償に劣らず公式の謝罪と職場環境の改善を望んでいると思われる。そのような選択肢を積極的に見つけようとする企業は、紛争を解決できるだけでなく、仕事上の大切な人間関係を守ることもできるだろう。
[3]意思決定分析を用いるよう要求する
訴訟プロセスのリスクとチャンスを数値で示すことには消極的な弁護士が多い。しかし可能な選択肢と起こりうる結果を徹底的に理解しておくことはきわめて大切だ。弁護士に、依存図や意思決定ツリーなどの意思決定分析ツールを使って、訴訟に踏み切った場合の結果予測を示すよう求めるべきだ。考えられる出来事の蓋然性を割り出すことで、訴訟に踏み切るべきか否かについて体系的な意思決定が可能になる。
[4]弁護士に胸襟を開く
訴訟にはえてして、きわめて経験豊富な弁護士でさえ気づかない個人的・感情的側面がある。たとえば、ビジネス・パートナーでもある一族同士の訴訟では、一族の歴史や過去の人間関係を細かく見ていく必要がある。訴訟になった場合には、弁護士に自分の利害関係をすべて理解してもらうことがきわめて大切だ。
[5]弁護士と利益を一致させる
モトローラが独占禁止法違反で大々的に訴えられたとき、同社の法律顧問は確実に迅速な結果が得られるようにしたいと思っていた。そこで、弁護士にこう申し出た。「この訴訟を120日以内に妥当なかたちで解決してくれたら、通常の時間報酬の三倍を支払おう。8カ月以内なら二倍払う。しかし、1年以上かかるようなら別の法律事務所に依頼する」。
[6]和解のプロを別途雇う
訴訟の世界では、法廷で争うことも和解の可能性を探ることも、たいてい同じ弁護士が行っている。しかし、和解の道を見つけるプロセスは、調停専門の弁護士など第三者に主導してもらうほうが賢明であることが多い。調停弁護士は渦中にある当事者には見えない取引を見つけて、行き詰まったケースで事態を好転させることができる。
[7]低コストの方法を見つける
訴訟プロセスでは、不必要な巨費が開示に投じられることが多い。紛争初期には、多くの事実を解明し、多くの疑問の答えを見つけなければならないので、こまごました質問書や証言調書が作成される。だが、裁判そのものは2、3人の重要証人の証言と少数の証拠書類を軸に展開される可能性が高い。事実、一般に開示プロセスの10%で最も重要な情報の90%が収集できると、弁護士たちは認めている。効率的な情報交換の方法を取り決めることで、開示コストを減らすべきだろう。











