特集/気づく力

私の体験!ここを見れば「問題の本質」がわかる
営業不振の原因

「自分の目標」と「現場」の落差を比較せよ

 
 
営業不振の原因は、業績が下がってからならば誰でもわかるものだ。
反対に、業績が下がるまでは、なかなか、わからないものでもある。
問題は、いかに早くその兆候に気づいて、問題の芽を摘むかにかかっている。
シェア10%を割る「どん底」から、わずか15年でビール・発泡酒市場の
首位に返り咲いたアサヒビールの池田社長に、その要諦を聞く。
 
 
アサヒビール 社長
池田弘一 = 談
Koichi Ikeda
いけだ・こういち●
1940年、福岡県生まれ。63年、九州大学経済学部卒。同年、アサヒビール入社。88年、埼玉支店長。96年取締役、97年常務、99年専務、02年社長就任。
小川 剛 = 構成いずもと けい = 撮影
 
 

走り回った経験は
いつか必ず生きてくる

 私が営業マンになって最初に担当を持ったとき、営業成績が思うように上がらずに非常に悩んだ覚えがある。私にとってはほろ苦い思い出だ。

 当時の私は、ビールを売りたいという気持ちを前面に押し出して営業していれば、自然と売れるだろう、きっと売ってもらえるだろう、そう思っていた。例えば、売るためのきっかけづくりのようなことをあまりせず、とにかく販売店を無我夢中で回っては「売ってください」と頭を下げて歩いていた。他社の工場が近くにできるといった、不運な事情もあるにはあったが、結局、業績を上げることができなかった。

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 上司や先輩から見れば、私にはまだセールスの基礎的なものが不足しているのが明らかにわかっていただろう。だからこそ、「ああすればいい」「こうすればどうだ」と、いろいろとアドバイスしてもらった。ところが、私の気持ちの中では、自分は一所懸命やっているという自負が強かったから、「そんなことはやっているよ」という反発心のほうが強く、素直に耳を傾けられなかったわけだ。

 自分の能力不足、努力不足に気づいたのは、担当替えで北九州に転勤になってからだった。新天地で新しい出来事に出くわすたびに、前任地での経験が頭に浮かんできた。「よし、今度はこうしてやろう」「何だ、あのときもこんな工夫をすればよかったんだ」と、過去の自分を冷静に見て、成功も失敗も前向きに捉え直して考えることができるようになった。あのときの上司や先輩のアドバイスの意味が、ようやくわかったのである。

 視点が変わらなければ気づかないことがある。特に仕事のリズムが悪いとき、営業成績が上がらないときには、「負けるもんか」と無我夢中で走り回っているから、今の自分に何が足りないのか、目のつけどころが間違っていないか、などと思いつかない。でも、本当は結果が出ないときほど冷静にならなくてはだめだ。

 環境を変える大きな意味がそこにある。視点が変わるのだ。だから課長や支店長時代に、人を送り出したり、新しい人を迎え入れる際には、いつもこんな言葉をかけてきた。「前任地でうまくいった人も、うまくいかなかった人もいるだろう。新天地は、自分をもう一度冷静に見つめるチャンスなんだ」と。

 営業の仕事は、努力しても結果がついてこないときもある。しかし、一所懸命に走り回った経験は、営業マンの財産だ。いつか必ず生かせるときがくる。

緊張感を持って予算の中身を読め

 営業マンには目標や予算がある。その数字の中身を読み込む力も重要だ。

 私が埼玉支店長に就いた1988年は、スーパードライが爆発的にヒットして、その品薄状態がどうにか解消されようとしていた時期だった。埼玉支店の営業成績は対前年比で倍増、全国でも有数の高い伸びを示していた。しかし、私は好成績で得意満面の支店の諸君を前にこう言った。「君らは今の成績に満足しているかもしれないけれど、私は本社の営業部で見ていて、この3カ月、もの足りなさをずっと感じていた」。

 埼玉はもともとアサヒのシェアが低かったために、既存のお得意先からの注文を増やし、それを積み上げていくだけで売り上げは倍増した。でも、われわれの目標はそんなことでいいのか、それでキリンさんに追いつけるのか、と。

 新しいお得意先を開拓しようと思ったら苦労もするし、既存のお得意先との摩擦も生じる。でも、そこを乗り越えず、やりやすいことだけしていたら、新しいお客様に商品が届かないじゃないか。

 営業の仕事には好不調の波がある。攻めるときと守るときの使い分けもある。本社から下りてきた予算というのは、お得意先や、営業マンの個別の事情を酌んでつくられたものではない。だから、数字の中身をよく見なければだめだ。

 営業不振の原因というのは、悪くなってからなら誰でも気づく。その前に、悪くなりそうな兆候があれば次の布石を打っているか、いい流れに乗っているときにはもっと弾みがつくような施策をどう打てばいいか。そういう、いい意味での緊張感があるかどうかで、営業成績の山を高く、谷を浅くできるのだと思う。

営業マンは、つねに変革者たるべし

 今日、お客様のニーズが多様化し、しかもその変化のスピードが速いという現象は、おそらく酒類業界だけのものではないだろう。私が若かった頃に比べて、アサヒのシェアも、会社の規模も、商品群も、酒類の売り場も増えている。よくも悪くも、「広く浅く」の営業体制ではなく、エリア別、商品別、お得意先別に、ある程度専門化していかざるをえない。

 問題は、細分化が行き過ぎると、自分が担当する狭い範囲で市場を見てしまい、市場全体の大きな変化に気づきにくくなることだ。そのため、本来お客様のご要望に応えているかどうかが目的で、営業成績はその結果にすぎないはずなのに、自分の数字が目的になってしまうと、お客様の変化などどこかへ飛んでしまう。営業成績がよければ善、悪ければ悪ということになったら、組織全体がおかしな方向へ進んでいくことになりかねない。

 今日、何かの専門に特化していることがプロであるかのような風潮を強く感じる。しかし、野球の世界にたとえればわかりやすいが、本当のプロとは走攻守、三拍子揃った人をいうものではなかろうか。代打の専門家はスペシャリストであっても真のプロではない。市場の大きな変化に組織全体が対応できなければ、小さな専門性の価値などどんどん下がってしまう。営業マンはとくに、走攻守の三拍子が揃ったうえで、なおかつバッティングがうまい、守備が図抜けているというプロを目指すべきだ。

 私は常々、営業マンは挑戦者でなければならないと思っている。お客様にもっとも近いところにいる営業は、日々動いている小さな変化を身近に感じることができる。だが、せっかく変化に気づいたのに、行動が前例踏襲型で終わってしまっては意味がない。考えて、行動して、変化する。そこまでたどり着かないと、気づいたことにならないのだ。

 アサヒビールで変えてはいけないこと、それは経営理念になるわけだが、ひとことで言うなら「品質」だ。安全でおいしく新鮮なものをお客様に提供する。極端にいえば、それ以外のことはすべて変えてしまってもかまわない。

 そういう原点に帰って、もう一度「現場」を見つめてみる。お客様への提案はこれでいいのか、この売り場、このお店は、自分が本当にやりたいことを実現しているだろうか、と。「原因」も「結果」も、すべて現場に表れているものだ。

 自分の夢が、自分の現場で具体的にイメージできているかどうか。それを自分の言葉できちんと伝えられているかどうか。営業不振の予兆とは、そんなところに潜んでいるものなのだ。

 
 
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