特集/「金持ち」家族、「貧乏」家族

徹底比較!他人の家計簿

年収1000万円の「ジリ貧」家族
vs 年収300万円の「安心」家族

 
 
1000万円稼いでも赤字の家計はどこが悪いのか、
持ち家派と賃貸派では、ライフスタイルがどう変わるか、
地方と都市では、住居費はどれだけ違うのか、
バブルを引きずる独身女性のお金の使い道は……。
収入別、気になる「よその家計簿」の中から一部を公開。
 
 
森永卓郎 = 文
Takuro Morinaga
もりなが・たくろう●
経済アナリスト。1957年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、UFJ総合研究所部長兼主席研究員。
江上 剛 = 文
Go Egami
えがみ・ごう●
作家。1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。銀行支店長時代に『非情銀行』で作家デビュー後、2003年独立。最新刊『統治崩壊』が好評。
石田純子 = 構成
text by Junko Ishida尾崎三郎 = 撮影
photo by Saburo Ozaki川上和生 = イラストレーション
illustration by Kazuo Kawakamiライヴ・アート = 図版作成
 
 
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幸せな「貧乏父さん」の暮らし方
森永卓郎

ジリ貧パターンに陥る今の中高年

 今まで日本でスタンダードとされてきたのは、世帯年収700万〜800万円の中流家庭でした。しかし今後は収入の格差が広がり、年収1000万円以上の世帯と、年収300万円程度の世帯に二極化するでしょう。年収1000万円組に残れるのはせいぜい一割程度。残りの九割、つまり大多数の家庭は年収300万円組になるだろうと、私は予想しています。だけど収入が少ないこと=不幸ではありませんから、悲観することはない。逆に高収入だから豊かだとも限りません。

 それはモデルケース(表参照)の年収1000万円家庭のジリ貧ぶりを見ればよくわかります。この収入でこれだけ多額の借金を抱えるというのは、はっきり言って無謀ですね。ですが挽回が不可能なわけではなく、改善できる部分がたくさんある。ちょっと節約して赤字をなくすだけでも、相当楽になるはずです。

 例えば住宅ローンを、もっと金利の安い金融機関を探して借り換えるだけでもかなり違います。車のローンも重荷になっていますが、このような家計状態ならばすぐにでも安い車に買い替えるべきです。車のランクを下げることに必要以上に抵抗感を持つ人もいますが、たとえ安い車に乗り換えても、すぐに慣れるものです。購入価格が安い車は修理費や維持費も安く済むし、ちょっとくらい傷がついても気にならないから、運転するストレスも軽減される。いいことずくめです。

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 車だけでなく、通信費も簡単に圧縮できます。電話代はIP電話を上手に利用すればすぐに下がる。携帯電話にお金がかかるという人もいますが、受信だけにして、自分からかけるのを控えればいいんです。私はそうしています。

 節約の方法は、生活レベルを下げずに済むものに限定しても結構あるものです。買い物に現金よりもカードを使い、ポイントをためて有効利用するというのもそうですし、生命保険料は月払いより年払いのほうが安くなります。

 今の中高年サラリーマンでジリ貧に陥っている人は、この年収1000万円のパターンに近い人が多いのではないでしょうか。モデルケースほどひどくはないにしても、お金の呪縛に囚われて身動きできなくなっている人が、まだまだ多いと思います。人よりちょっと多めの収入、ワンランク上の暮らし、そんなイメージにしがみついて心の豊かさを見失ってしまっている。「収入が増えたから生活レベルも上げる」というのは、右肩上がりの時代に誰もが当たり前にやってきたことですが、いったんボーナスカットやリストラのようなショックがあると、極めて弱い。収入のすべてを生活の底上げに使うと、クッションがなくなってしまう。

中流を狙うなら
満身創痍を覚悟しろ

 私の家では何年もの間、生活費を年間300万円で賄ってきました。そこで余ったお金をどうしたかというと、全部無駄遣い、つまり趣味のコレクションの購入に充ててきたんです。おそらく生活費の二倍くらいの金額が、昔のグリコのおまけとかミニカーとかに化けている。無駄遣いだと自覚しているから、お金がなければ買いません。だから収入減のようなショックに見舞われても、無駄遣いをやめればそれで事足りる。支出の中にそんな伸縮自在な部分があるから、世の中が不安定でも、自分はさほど不安を感じないで生活を楽しむことができるのです。

 収入の多寡にかかわらず、生活費が足りないと思ったら、節約するだけでなく、給料のほかに小遣い稼ぎの方法を探すという選択肢もあります。ホームページにバナー広告を張って広告収入を得るとか、オークションに出品して儲けるとか。サラリーマンでも帰宅後の時間をオークションに使えば、月4万、5万円稼ぐのも難しくはないでしょう。私ならもし失業しても、昼間フリーマーケットを回って見つけた物をネットで転売し、月に20万、30万円稼げる自信はありますね。

 お金を使わない方法を考えたり、小遣い稼ぎをするのは好きですが、別に贅沢が悪いと思ってるわけではないんです。自費ではないけれど、一食10万円もするような食事に招かれたことだって何度もあるし、行ってみたい高級クラブがあれば手を尽くして行ける方法を探します。だけど一度経験すると、それで気が済んでしまう。この前ある高級ホテルに泊まったんですが、手洗いの蛇口がビアサーバーみたいな形で、レバーを押すと温泉にあるライオンの口さながらにジャージャーと水が出る。おもしろかったけど、でも別に手洗いがビアサーバーじゃなくてもいいんじゃないかと。

 今のような考え方をするようになったのは、桁違いの大金持ちからギリギリの生活費でやりくりしている人まで、いろんな人を見てきたからでしょう。その中で億単位の年収がある人と年収300万円くらいの人は、どちらも幸せに、お金の呪縛に縛られることなく楽しく暮らしていると感じました。ところが中流と呼ばれる比較的高収入な人たちは、ちょっとだけリッチな生活を送りたいがために馬車馬のように働き、身も心もすべて会社に捧げている。定年を迎える頃には満身創痍で、体力も気力も家族との絆も、何も残ってはいない。現実にはそんな「中流」の不幸に陥る人が非常に多いのです。

『金持ち父さん 貧乏父さん』を書いたロバート・キヨサキさんも同じことを思ったそうですが、そこで彼は大金持ちの人たちのほうが、ほんのちょっとだけ幸せだと感じたといいます。それで彼はうんとお金を儲ける人生を選んだのでしょう。逆に私は300万円くらいで生きている人のほうが幸せだと思ったので、今のような暮らし方を選んだわけです。というのは、お金をずっと稼ぎ続けるためには、お金を中心にした生活をしないといけないから。嫌な人たちと付き合ったり、粉飾決算の手伝いをしたり、問題のある商品を消費者に売りつけたり……。それがお金を得るために必要ならばするという判断基準になっていく。その結果莫大な財産を手にしたとしても、今度はそれを失いたくないという不安にかられる。いつも不安を抱えているためか、そういう人たちは概して無表情で、喜びをあらわにすることがありません。反対にそこそこ貧乏な人たちは表情豊かで、白いご飯を食べて「おいしいね」「幸せだね」と素直に言うことができる。金持ちは文句が多いんです。「お米の粒が立ってない」とか言って。人間なんて吉野家の丼物一杯で幸せになれるものなのにね。

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ジリ貧の元凶は「見栄」にあり
江上 剛

バブルに踊った銀行員は今

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 高収入なのにジリ貧な家庭というのは僕のまわりにもたくさんある。1990年代に高額・高金利のローンを組み、今になって返済に四苦八苦しているというのがその典型だ。僕はその頃銀行に勤めていたが、バブルのピークには郊外の一戸建ての相場が7000万〜8000万円したので、銀行の社内向け貸し出し枠も2000万円から一気に5000万円に引き上げられた。僕自身はバブル前にマンション購入で2000万円を借り、それでも多いといわれていたから、個人が5000万円も借りて大丈夫なのかという感覚があった。しかし従業員組合をはじめ周囲は誰もが、5000万円まで借りられることを手放しで喜んでいた。給料は永遠に右肩上がりだと信じていたのだ。

 そんな時代の空気にどっぷり浸かり、高収入だった人ほどジリ貧の罠に陥りやすいものだ。給料はどんどんカットされていくのに、その現実を受け入れることができず、以前と同じ生活を続けようとするからだろう。銀行関係者の葬儀に参列すると、今でも参列者がみんなハイヤーで乗りつけているのにびっくりさせられる。自分の車は生活苦でとうに手放してしまったような人たちが、それでも人前では相変わらず見栄を張ろうとしているからだ。車に見栄を張り、子供に見栄を張り、家という入れ物に見栄を張る。その見栄を捨てない限り、しわ寄せはどこかに表れる。それをなんとかカバーしようとして使い込みに走るケースもあるだろう。見栄というのはそれほどまでに人を追いつめるものだ。

 モデルケースの1000万円家族も、毎月赤字が出ているということは、そんな生活をしているのだろう。赤字分はボーナスで穴埋めするつもりなのだろうが、今のようなご時世ではそれも難しいし、ローン残高の多さを考えると退職金で一括返済するのも無理である。だからまず最初にやることは、月次の収益が黒字になるように生活を変えることだ。それができないのなら自己破産するしかない。

 一方、300万円の家庭のほうは教養・娯楽費がやや少ないと感じた。僕は映画や芝居をよく見にいくし、本を読むのも好きである。映画は映画の日に行けば1000円で済むし、芝居も後ろの席なら思ったほどには高くない。お金にまだ余裕があるのに、楽しみまで切り捨ててしまうのはちょっと寂しい気がする。今は給料が上がるかどうかわからないのだから、現状に合った安上がりな楽しみを見つけてのんびりやっていくのもいいのじゃないかと思う。

黒塗りの迎えを見て
勝ったと思った

 今の中高年サラリーマンの中には、自分がかつて思い描いていた収入やポストを得られず、忸怩たる思いにかられる人も多いことと思う。銀行の役員のようなかつては銀座で飲むのが当たり前だった人種が、新橋のガード下で1本の銚子を分け合って飲む姿を目にしたこともある。以前ならありえないことだが、銀行の現状からすれば当然だともいえる。

 目の前の現実はそんなふうにわびしいものだ。直視するのは辛いかもしれないが、それを直視できるかどうかに再起のカギがあると、僕は思っている。昔の知り合いに銀行の支店長というポストから、業績が悪化している会社に送り込まれた人がいた。もちろん左遷だ。行き先は鉄鋼関連の会社だったが、彼はそこで一念発起し、背広を脱いで他の従業員と一緒に溶鉱炉に石炭を放り込む仕事から始めた。それまで銀行一筋でやってきた人間が、溶鉱炉の熱で髪をちりちりに焦がしながら働く姿を見て、社内の空気が変わったのだろうか、会社はその後経営を持ち直した。彼自身はその実績を認められて別の会社に引き抜かれ、今では役員を務めている。左遷に遭って、普通なら逃げ帰るか文句ばかり言っているところを、彼はつまらないプライドを捨て、従業員と同じところまで目線を下げて仕事に打ち込んだからこそ、再起の道が開けたのである。

 逆に言えば、中高年になってから失敗する理由の一つは環境や景気の変化を受け入れられず、過去にしがみつくことにある。かつて、そこそこのポストにいた人が、何かにつけて「なんで俺に一番にお茶が出てこないんだ」と思ったりするのは危険信号だ。

 銀行を辞めるときにOBと飲みにいったが、帰りはやはり黒塗りの車が迎えにきていた。「悪いな」と言いつつそれに乗り込む彼を見送った後、僕は電車に乗りながら「勝ったな」と思った。つまらない見栄やプライド、それらを捨てることが幸せになれる方法だと思っているからだ。

 銀行を辞めた後は作家を生業とするようになったから、かつてのような定収入のある生活ではなくなった。だから家計の管理が気にならないでもないが、それを一分の隙もなく完璧にこなそうとするのは逆効果だとも思っている。

 僕がそう考えるようになったのは、人事部の時、使い込みをやってしまった行員と何度か面談したことと関係がある。原因は十中八九、家計の締め付けによるものだった。彼らは給料をすべて奥さんに渡し、そこからわずかな小遣いをもらっていた。奥さんはきちんとやりくりをして、亭主が飲み会でお金が必要ならばその分を渡し、一方で貯蓄も着々と増やすなど、完璧に家計を仕切っているのだが、そんな家庭に限って亭主は参ってしまい、手をつけてはならない金に手を出すのである。

 その頃の僕はといえば、自分の小遣いを確保してから残りを女房に渡し、冠婚葬祭費やゴルフ代を小遣いとはまた別に使っていた。

 当然、女房から文句を言われたこともあるし、結構悪い亭主だったかもしれない。だが、それでもそこそこやってこれたと思っている。だからというわけでもないが、健全な家計というものがあるとしたら、それは収入の使い道がすべて効率よく配分されている状態ではなく、適度な緩みや綻びを包含した財布を指すのではないか。

 ハンドルの遊びにあたるものが、おそらく家計にも必要なのである。

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世帯年収300万円のサンプルはメーカー勤務のX氏34歳。関東の賃貸アパートに住む。子供は2人。
一方、年収1000万円は大手ゼネコンに勤めるY氏47歳。東京23区内の一戸建てに妻子とともに住む。
X氏は、すべての家計項目をしっかり管理し節度のある暮らしぶりで毎月3万7000円を貯蓄し、子供の教育費など、かけるべきところにはしっかり使っている。一方で、Y氏は、18万円という巨額なローンと、大学生と高校生2人の子供にかける教育費4万円が家計に重くのしかかっている。交通費6万円には、高級外車のローン返済・維持費の約4万円が含まれる。月6万円以上のマイナスはボーナスで解消されるが、月次でプラスにすることが大事だ。(家計解説はすべて編集部)
 
 

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