継続的にイノベーションを生み出し続ける企業には共通点がある

「アイデア力」を解き放つ企業文化のつくり方

 
 
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イノベーションのアイデアを
社外に求める企業がある一方で、
社内で継続的に新しいアイデアが
生まれ、新製品開発に結びついて
いる企業もある。
企業を「イノベーション体質」に
するためには何が必要なのか。
 
 
ジュディス・A・ロス = 文
text by Judith A. Rossディプロマット = 翻訳
 
 

 ミシシッピ州オックスフォードのワールプール社の製造工場で、ライン労働者とエンジニアを含む社員グループが、テイルゲート・パーティ(車のテイルゲートを開け、そこに食べ物を並べて行う戸外パーティ)について語り合っていた。車の後部から飲み物を注ぐことができ、そこで食べ物を冷やしたり調理したりすることもできたら──しかも、その間ずっと好きな音楽を聴いていられたら──すばらしいだろうな、と彼らは空想した。

 この空想話から生まれたのが、ワールプールが現在、開発中のゲイター・パクだ。この製品が完成したら、消費者はいくつかのオプション(グリル、冷却・加温器、飲料サーバー、電子レンジ、音響システム)から好みのものを選んで、テイルゲート機器をカスタマイズすることができる。ゲイター・パクは、このところ続々と生まれているワールプールの社内イノベーションの一つである。これらの製品のアイデアはすべて同じ源から発している。それは、イノベーションへのコミットメントを会社全体に浸透させ、それを組織のコンピタンシーにすることに成功した大規模な変革プログラムである。

 長年にわたってイノベーションを生み続けている企業は比較的少ないため、多くの専門家が、イノベーションのアイデアを社外に求めるよう企業にアドバイスしてきた。その根底にある考えは、企業は自社のコア・コンピタンシーに焦点を絞るべきであり、将来の成長に必要な新しいアイデアは買収やパートナーシップによって得るべきだ、というものだ。このモデルは多くの企業で成功してきた。

 しかし、外部への投資を控えて、代わりに社内のアイデアの力を解き放つ文化や仕組みを築くことに焦点をあてている企業もある。こうした企業では、会社を挙げてのイノベーションへの真剣な取り組みが有望な新製品を生み出している。それに劣らず重要なのは、新しいアイデアが登場すると、そのたびに企業の戦略が厳しく試され、企業が選択できる行動の種類が増えることだ。そしてそれは、組織のしなやかさ(弾力性)を築くことにもつながる。

「しなやかさは多様性にかかっている」と、ロンドン・ビジネススクール客員教授(戦略論・国際経営論)でウッドサイド研究所所長のゲイリー・ハメルと同研究所上級研究員のリーサ・バリカンガスは述べている(『The Quest for Resilience(しなやかさの追求/邦訳なし)』 Harvard Business Review 2003年9月号)。「組織が選択できる行動の種類が多ければ多いほど、組織は多様な混乱に対応することができる」。社内の能力を活用して、自社に必要な戦略の多様性を生み出すことによって、自社が外部の混乱の犠牲になる危険性を減らすことができるのだ。

 社内からのイノベーションに対する持続的なコミットメントを築くには、いくつかの中核的要素が欠かせない。全社的に共有されているコミットメントのメンタル・モデル、手軽に使える社内のシード資金、実験を奨励し、失敗を受け入れる組織構造、イノベーションの価値を測定する能力などだ。

イノベーションを定着させる仕組み

 ワールプールの変革プログラムは、同社を汎用品メーカーから脱皮させて、顧客とのすべての接点でイノベーションを重ねていく企業へと変貌させるために、1999年に開始された。同社の新しいビジョン「あらゆる人、あらゆる場所からのイノベーション」を実行するにあたっては、CEOのデイビッド・R・ウィトワムが陣頭指揮を執り、イノベーションへのコミットメントを全社に浸透させることをめざした。

 彼はまず、幹部チームと協力して、イノベーションを組織に深く根づかせるためのメンタル・モデルを構築する作業に着手した。彼らは、同社が「定着の輪」と呼ぶビジュアル・ツールを使ってこれを成し遂げた。「定着の輪」の一番外の輪にはビジョンと目標が掲げられている。中間の輪には、組織のあらゆるレベルでイノベーションの定着を支援していくために必要なインフラが示され、さらに幹部の説明責任と能力開発、文化と価値観、財務・人的資源、インセンティブと団結のための仕組み、ナレッジ・マネジメントと学習、測定と報告が記されている。このツールの中心には、イノベーションを実現するために必要な具体的なプロセスとツールが示されている。

 ワールプールが実施したような変革プログラムでは、多くの前線で同時に進行することが重要である一方で、この種のプログラムの初期には、一部の側面が他の側面より目立つことがある。こう語るのは、『Strategic Innovation: Embedding Innovation as a Core Competency in Your Organization(戦略的イノベーション:イノベーションをコア・コンピタンシーとして組織に定着させる/邦訳なし)』 (2003年)の共著者で、経営コンサルタントのデボラ・L・ドゥアルテだ。ワールプールの場合、それはシード資金だった。これはイノベーションの一側面についての小規模な実験に充てられる少額の資金(2万5000〜10万ドル)で、この資金を与えるかどうかの決定権は、ミドル・マネジャー、マネジャー委員会、それに社内のイノベーション・コンサルタントにある。この資金を申請するには、イノベーションのアイデアをビジネスの観点から説明した事業計画を提出するだけでよい。つまり、社内のいくつもの階層を経てトップから許可をもらわなくても、実験費用が得られるのだ。

実験および失敗を受け入れる

 ワールプールで資金が与えられた実験のような、フィードバックをもたらす小規模な実験はイノベーションの活力源だ。こう語るのは、ハーバード・ビジネス・スクールの教授で、『Experimentation Matters :Unlocking the Potential of New Technologies for Innovation(実験の重要性:イノベーションのために新技術の潜在的可能性を解き放つ/邦訳なし)』 (2003年)の著者、シュテファン・トムケである。実験は、企業が技術・生産・市場面の不確実性を管理する助けになる。「企業は社外の人間を大勢雇って、彼らの経験を引き出そうとする。実験をすれば、他の手段の数分の一のコストで問題を解決できることが多いのに、なぜ実験をしないのか」。ただし、実験を行う場合には、成功と失敗の両方から学ぶ姿勢を養うことが不可欠だ、と彼は言う。「失敗は避けられないものだ。最終的に成功するためには、その過程でたくさんの失敗をする必要がある。実験は、失敗から最大限の情報や洞察が得られるように設計されるべきだ。とくに初期の段階では、失敗を防ぐために行動を遅らせることなどがないよう、注意する必要がある。迅速にフィードバックを得るという方法によって、成功と失敗の両方から短期間で学ぶことができ、学んだことを組織に浸透させることができる」。

 ワールプールは、社員がイノベーションのためにリスクを冒すことを全社的に応援し、同社の幹部は失敗から学ぶことの大切さを公の場で語ってきた。さらには、失敗から学んだ社員に褒賞を与えることまでしてきた。

 イノベーションに対するコミットメントを制度化していく中で、ワールプールはイノベーションの有効性を測定する基準を開発した。開発の第一段階は、同社の幹部チームが測定可能な定着目標(成果目標ではなく)を明確にすることだった。成果目標は長期的な営業成績に関係があるが、定着目標は「定着の輪」に示された活動の進捗状況に焦点をあてたものだ。この種の目標にはまったく新しい測定基準が必要だった。たとえば、イノベーションを成功させるために除去された主な障害の数とか、イノベーションの結果、変化した仕事の数など。

 適切なビジョンとプランがあっても、イノベーションを初めて企業の中核に据える際の文化の変革は容易ではない。失敗についての組織の考え方を変えること一つをとっても、とてつもない難事業だ。しかし、ワールプール社の戦略的コンピタンシー創出・リーダーシップ担当副社長、ナンシー・テナント・スナイダーはワールプールでの経験から、幹部の支援があればイノベーションへのコミットメントは組織の隅々にまで浸透していくと確信している。

 
 
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