特集/本物の上司、見せかけの上司
〜「創意」と「結果」7つの法則

[1]経営の秘訣

まず目標を設定し「逆算」せよ

 
 
柳井 正 = 文
Tadashi Yanai
やない・ただし●
1949年、山口県生まれ。71年早稲田大学政治経済学部卒。同年ジャスコ入社。72年小郡商事(現ファーストリテイリング)入社。84年代表取締役社長就任。02年代表取締役会長兼CEO就任。趣味は読書とゴルフ。
白川三雄 = イラストレーション
illustration by Mitsuo Shirakawa
 
 

 僕は社員に「高い志や目標を持て」とよく言う。人は安定を求めると成長が止まってしまう。高い目標を掲げて、その実現に向けてなすべきことを確実に実行することこそ重要なのだ。目標は低すぎてはいけない。大事なのはあきらめないことだ。やり続けることである。

 これは、企業にもいえる。

 ところが、経営者の中には、努力すれば成果はついてくると単純に思われている方、一つずつ課題を解決する努力を積み上げていけば結論が出ると言われる方が非常に多い。僕も、昔はそうだった。

 だが、努力しても、その方向性が間違っていたら結論は得られない。一歩一歩積み上げてやっても、10回繰り返せば、10歩だけ歩んだことにはなるが、目指すべき目標が何かの結論は見えてこない。何かを実行しようと思ったら、最終的な目的や目標を最初に明示しない限り、行動は起こせない。

 繰り返すが、ジェニーン氏は言う。

「本を読む時は、初めから終わりへと読む。/ビジネスの経営はそれとは逆だ。/終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ」

「世界一のカジュアルチェーンになる」

 僕も、現実的な確固たる目標を決め、その実現のための方法を行動単位で考えて、会社全体で実行していくことが経営だと考える。1984年にユニクロ第1号店を出店し、自分の事業の最初の姿が見えたとき、僕自身も社員も、「自分たちでも、結構なことができるじゃないか」と思った。その思いがすべての出発点になった。現実の延長線上で考え、できるか、できないか、よくわからないうちに、「自分にはできない」と規定してしまうことは誤りだと気づいたからだ。

 だからこそ、僕はそのとき、「世界一のカジュアルチェーンになる」と言い始めた。そのためには、まず「100店舗の達成と株式公開」を達成し、次に「日本一のカジュアルチェーンになる」と決めた。『プロフェッショナルマネジャー』を読み、山口県の宇部市という田舎で、金にも人材にも恵まれない中でも、こういうことが可能だと僕が信じたからこそ、社員も「やろう!」と思い、結果として日本一の目標が実現できた。

 もちろん、それぞれの節目で、そのステップにおける最終形の目標を示し、売上高と利益水準を具体的に定め、そのために必要な人材の能力と人材確保の手段、組織のあり方、戦略戦術を明確に示してきた。終わりから始める逆算発想の素晴らしい点は、節目ごとの目標を達成するためにしなくてはならないことを次々と示してくれることだ。

 僕は、売上高が1000億円を超えたとき、新しい経営チームをつくるため、取締役のメンバーを一新した。地方出身の小売業の現場感覚だけの経営に限界を感じたからだ。チェーン化の初期は、店舗を標準化し、いかにローコストで、より多くの店舗を出店するかに力点を置いた。だが、それだけでは次のステージには進めない。だから、経営チームを入れ替えたのだ。

 自ら商品を企画し、生産し、販売するというユニクロのビジネスモデルのさらなる成長を目指し、商品カテゴリーも増やしてきた。ユニクロの基本は、ノンエージ、ユニセックスのベーシックなカジュアルウエアだったが、ウィメンズ、キッズを充実させ、ベビーウエアに続き、この4月には下着などのインナー&リビング分野へも参入した。

 僕は今、世界一になるために「売上高1兆円構想」の設計図を描いている。幸いなことに、この業界には成功モデルがある。アメリカのギャップやリミテッドである。彼らは、ちょうど我々の今ぐらいの売上高のとき、新しい柱となる業態開発やM&A(企業の買収や合併)で急成長した。

 婦人服専門店チェーンのリミテッドは、ビクトリアズ・シークレットを買収し、高級下着市場を開拓した。小売業の世界を離れれば、他産業には同じような成功例がいくらでもある。僕は、基本的に、誰も経験していない成功のノウハウは、ほとんどありえないと思っている。他企業や他産業にできたことは、我々にもできると信じている。

 それでも、失敗は常にある。最近も、ロンドン進出の挫折や安全で新鮮な野菜と果物を売る青果事業からの撤退を経験した。

 ロンドン進出では、消費者の認知を得て、ライバルと戦うのに必要な最低限の店舗数として「3年間で50店舗」を目標にした。実際、1年半で21店舗を出店したが、不採算の状況が続き、2003年3月にロンドン市内と近郊の5店舗以外の閉鎖を決断した。

 失敗の原因は、「3年間で50店舗」という言葉が一人歩きし、まず1店舗から儲けを出すことを基本に、儲かる仕組みを徐々に拡大するという基本を怠ったことにある。ジェニーン氏は、「経営の秘訣」の章で「最初の四半期に目標を達成できなかったら、年間の目標も達成できない」と書き、「現四半期はダメでも、年度末までに決まりをつけるさ」といった態度を厳しくいさめている。最初の1店舗の収益を犠牲にしても、50店舗展開すれば、そこで儲けが出るという錯覚に現地の経営者や現地のスタッフが陥ったことは、僕の責任だ。

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 青果事業は、社会的意義もあり、商品の評判も高かっただけに、僕としては、もう1年は頑張ったほうがいいと思っていた。だが、青果事業のトップも、「収益が上がらないので、やめたほうがいい」と言う。トップがそういう気持ちになる事業は続かない。1年間で収益を劇的に回復させる見通しや、「俺がやってやる!」という強い気持ちがない限りは、やってもムダである。

 その代わり、撤退決定後、これ以上はないほど素早く、みごとに撤収を完了させた。短期間で撤退後の方針を決め、人材の再配置を行う。ダラダラやれば、その分損失は膨らむ。失敗に学ぶことと、リカバリーのスピード、これが何よりも大切なのだ。

 わが社の経営理念の第12条は、「成功・失敗の情報を具体的に徹底分析し、記憶し、次の実行の参考にする経営」である。失敗には、次の成功につながる芽が潜んでいるものだ。だから、僕は、実行した個々の内容を具体的に分析し、因果関係が明らかになるまで考え抜く。そして、分析の経緯と因果関係をしっかりと記憶する。他の経営者と僕が違うとしたら、過去に実行したことや勉強したことの記憶量だと思っている。

1兆円企業を目指しM&Aも積極的に行う

 ジェニーン氏は「経営の秘訣」の最後を、「自分は何をやりたいのかをしっかり見定め、それをやり始めよ。しかし、言うは易く、おこなうは難しだ。肝心なのはおこなうことである」という一文で締め括っている。

 実行しなければ、何も生まれない。失敗はしたが、ユニクロは引き続き、世界の主要市場にすべて進出したいと考えている。1兆円構想の設計図を描くには、海外展開はもちろん、新規事業や新業態開発は不可欠だ。そうした事業が1兆円構想の3〜4割を占めることになるだろう。当然、M&Aも積極的に展開したい。03年9月に米国セオリーグループの経営権を取得したのも、アメリカ進出の足がかりとするためだ。

 世界一の企業になるために、今どんな人材や組織が必要で、何を実行するべきかを考えることを、僕は心から楽しんでいる。

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ユニクロ幻のバイブル『プロフェッショナルマネジャー』(小社刊)。柳井正会長兼CEOにして「最高の経営の教科書」、「(この本の内容に比べれば)私の経営はまだまだ甘かった」と言わしめた名著である。
5月17日全国主要書店で発売。
 
 
PRESIDENT 2004年5.31号
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