「特区」で聞こえ始めた景気回復の足音

 
 
経済財政政策・金融担当大臣
竹中平蔵 = 談
たけなか・へいぞう●
1951年、和歌山県生まれ。73年、一橋大学経済学部卒業。大阪大学助教授、ハーバード大学客員准教授、米国国際経済研究所客員フェローなどを経て、慶應義塾大学総合政策学部教授に。2001年4月26日より、経済財政政策担当大臣に就任。2002年9月30日の内閣改造で金融担当大臣を兼務。岡倉禎志 = 撮影
 
 
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「6.4%」の成長率が物語る
景気回復の真相

 今回は景気回復と、その地域への浸透について述べておきたい。

 まず景気についてだが、昨年10〜12月期の経済成長率は6.4%だった。このことは、日本経済の実力とされている2%をはるかに上回る。日本経済は着実に回復してきているといえよう。回復当初は輸出主導、外需主導によるものであることは否めないが、結果的には、企業の設備投資が増え、良い影響を及ぼしたのだろう。

 輸出の成長に占める割合は3分の1から4分の1だが、この割合が高いとする意見も多い。しかし、日本のように成熟した経済国家では、内需の成長率よりも海外の成長率のほうが高い場合が多い。つまり外需のウエートが高いという点を安易に悲観的に考えるべきではないと思う。内需の中心になっているのが設備投資であり、それが外需と密接に関わっているのであれば、なおさらのことだ。

 しかし、ここで重要なのは、外需の増大により増えた設備投資という内需が、その他の需要にどう波及していくかだ。じつは、設備投資以外の需要も穏やかではあるが、回復に向かっている。最初のうち借入金の返済に回っていた企業のキャッシュフローが設備投資に回り、従業員の賃金に跳ね返るようになりつつある。次の段階に進んできた証といっていいだろう。

 たとえば、複数の自動車メーカーが、かつてない高い一時金を払うようになった。一時金では生活が安定しないという批判はむろんあるだろう。しかし、一部の労働組合は、企業のリストラにより、競争力が強くなったことなど、一連の動きを歓迎している。労組がそうした反応を示す傾向が出てきたことに、重要な意味があると私は考えている。

 やはり、企業が稼ぎ、従業員に十分な賃金を支給するというのが基本的な経済の姿だと思う。そのような当たり前の循環が生じるようになった、この循環が消費を促すようになれば望ましい。企業部門の好調が、家計部門に良い影響を及ぼす流れが始まっているといえよう。

 しかし、すべてがこのような傾向にあるわけではなく、引き続き政府が取り組まなければならない問題はたくさん残されている。その1つが、地方経済の活性化だ。

 マクロ経済全体の良好な動きが、地方経済に浸透していかないという現実が依然として横たわっている。生活者に経済の実感を問う「景気ウォッチャー調査」では、ほとんどの地方で「よくなっているという実感がある」という結果が出ているが、それでも、6.4%もの成長は感じないという意見が大部分である。

 しかし、そこで重要視しなければならないのは、これは景気の問題ではなく構造問題だということだ。構造問題が解決されない限り、地方の経済が潤うときは来ない。だから、構造を見極めて変えていく努力が、政府にも民間にも求められている。

 政府は、昨年春に、不良債権の比率が減り始めたときをマクロ経済回復の兆しと考え、地域への対応に着手した。それは「特区」が動き始めたのと、時を同じくしているわけだが、秋には「地域再生本部」をつくった。つまり、特区を活用し、地域再生のプログラムをつくって、地域の構造問題を解決するのが狙いだ。

「地域再生プログラム」に関しては、地域からいろいろな提案が出された。提案する地域がさらに増え、主体性を持って知恵を絞りつつ、自らの地域経済の再生に取り組んでいただきたいと思っている。

 そのために、地域再生のためのタウンミーティングを催している。たとえば、小豆島ではこんな話が出た。小豆島は、人口3万人強の小さな地域だが、ここには3つの特区を活用して地域を再生しようとしている。

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「オリーブ振興特区」に見た
地域活性化の夢

 その1つが「内海町オリーブ振興特区」だ。島は、1908年、日本で初めてオリーブの栽培に成功し、オリーブの島と呼ばれてきた。その後、高齢化などにより作付け面積がどんどん小さくなってしまったが、最近のイタリア・スペイン・ブームを受けて国産オリーブに対する需要が増えた。それをチャンスとして、地域再生に活用したいというのが、特区を申請した動機である。

 特区では、農業経営に伴う数々の制約を取り払い、規制緩和をして参入自由化を図った。オリーブは、商品として使えるようになるまでに8年かかるというが、ぜひ成功させていただきたいものである。これが農業と観光を結ぶことになれば、大いに地域活性化に役立つに違いない。

 また、姫路にある特区は、環境リサイクルに関するものだ。新日本製鉄広畑製鉄所が主導しているものだが、鉄を製造するときに廃タイヤを使用するのである。廃タイヤを使うと、コークスで還元するのと同じ効果があるという。タイヤから出る公害性物質は、やはり新日鉄が脱硫の技術で解決するそうだ。廃タイヤは特殊な物質であるということから、管理規約があって自由に扱うことができない。しかし、ここでも規制を緩和して、新たな雇用を生み出すことにも成功した。日本の最先端の技術と環境を組み合わせた貴重な事例である。現場の汗と涙の積み重ねで、新たに1000人の雇用を生み出すことができたという素晴らしい例として特筆に値する。

 20世紀の技術の多くは、軍事技術から出てきたといわれている。ロケットしかり、コンピュータしかり、インターネットしかりだ。しかし21世紀の技術は、都市環境技術から出てくるのではないだろうか。

 そういう観点からも、姫路の例のように、都市環境に関連する技術を戦略的に使うという発想が、日本全体にあってしかるべきだ。姫路は、世界文化遺産を持つ典型的な観光都市だが、人の動きはまだ活発とはいえない。宿泊施設の充実をはじめ、観光都市として活性化するうえでも考えるべき課題は多い。

 特区には、いろいろ面白いものがあるが、「どぶろく特区」などもその1つである。民宿でどぶろくを出そうというのだが、ここでも酒類の製造販売に伴う規制を緩和することで問題を解決した。

 このような地域独特の特性を活かして自立してこそ、地域は再生するのだ。地域経営の思想で、いろいろとチャレンジしていただきたいものだ。

 政府はさまざまな政策措置を用意して、地域からの提案を待っている。マクロ的に見て回復してきた日本経済を地域にまで浸透させ、新たな構造をつくっていきたいと考えている。

 
 
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