特集/学力と学歴
経営者が直言「ここが変だ!日本の公教育」
「実践で通用する人材」は、競争も進歩もない学校教育では育たない!
渡邉美樹ワタミフードサービス社長・郁文館学園理事長
「夢合宿」でやりたいことを考えさせる理由
危機感を募らせていた渡邉美樹ワタミフードサービス社長が、
昨年、郁文館学園の理事長に就任した。
理想の学校教育を実践するため、ワタミ流教育改革に挑む。
決定的に不足なのが夢と目的意識

- 東京都文京区にある中学・高校の計3校を運営する郁文館学園。
──渡邉社長は企業の経営者と、私学の理事長という二つの顔をお持ちですが「企業が欲しい人材」と「学校がつくり出している人材」との間にギャップはありますか。
渡邉 大いにありますね。私は経営者として会社説明会も含めると年間約1万人を超える学生と触れ合っていますし、意欲的な学生とはツーウエーのコミュニケーションをとることもあります。そうした中で私はいまの学生にものすごく大きな不満を感じることが多々あります。その不満を解消するために私は教育の世界に飛び込んだわけです。
いまの学生に決定的に不足しているのは夢や目的意識です。自分は何のために高校、大学に進むのか、社会に出て何がしたいのか、という意識がまるでない。仕事も要領よくお金を得るための手段としか考えていない。恐ろしく自立していない集団なんです。
一方、学校教育は子どもに偏差値という一元的な価値しか与えていない。実は親が偏差値という価値観から抜け出せていないんだと思います。だから「自分はこういう勉強がしたいからこの大学に入りたい」という子どもが生まれてこず、偏差値の高い大学を目指し、合格したとたんにいっさいの勉強を放棄してしまう。経営者の立場からするとこんな人材はまったく必要ありません。
──ワタミフードサービスは今年、340人以上の新入社員を採用していますが、学歴や大学のブランドは関係ないんですか。
渡邉 人を採用するときに私が見るのは、6割が人格、2割が生活習慣、そして2割が学力なんです。学力については、努力をして受験戦争を勝ち抜いたという成功体験は人格形成にも影響を及ぼしますから、まったく評価しないわけではありませんが、それでも2割にすぎません。
我々企業が求めているのはもっと自立・自律的な仕事ができる人材なんです。自分で仕事の目標を設定し、必要な行動を抽出して周囲と協調しながら仕事ができる人材です。言い換えればEQ(心の広さ)、SQ(正しく自覚する力)、IQ(知識を力にする能力)がバランスよく備わっているということですね。そういう人は仮に大学卒業時点の成績や専門知識に不足があっても社会人になってから大きく伸びます。これはどの企業にも共通のニーズだと思います。いま学歴主義で人材を選ぶ企業があるとすれば、その企業は間違いなく危ないと思います。
私は郁文館でこの3つのQを高める教育を実践しています。その一つに「夢合宿」があります。1年に一度、9泊10日で長野県の研修センターで合宿を行い、「自分にとって夢とは何か」「将来、自分はどんな仕事をしたいのか」を徹底的に考えさせる。そしてそれを学校での毎日の行動に落とし込む「夢達成シート」を作成させます。これは私自身が長年行ってきた習慣で、2000年に一部上場、08年に1000店突破など、自分の目標を明確にして、そのためにはいま何をすべきかを考えてきました。子どもたちにもそれを実践してほしいんです。
夢合宿の最終日にはみんなで登山をします。往きに山道を掃除しながら登って、帰りはきれいな道を下りてくる。みんなで何かを達成するという体験をさせるための手段です。夢を持ち、豊かな人格を持つ子どもに育てれば、学力は自ずと上がっていくというのが私の信念なんです。
人格教育のためのツールとしては、もう一つ「郁文十訓」があります。これは「笑顔で元気よく挨拶のできる礼儀正しい人となれ」「我以外皆、師なりの心を持つ謙虚な人となれ」「約束を守り、嘘をつかぬ誠実な人となれ」といった10カ条で、生徒は毎日チェック・シートでこの10項目をチェックして、親に見せることにしています。夢シートと同じく、自分がなるべき人物像に近づくための努力を、毎日の行動に落とし込むわけですが、これは親と子のコミュニケーションのきっかけとしても大変に役立っています。こうした活動を通じて、子どもというのは短期間で劇的に変わります。なかには「僕は渡邉理事長を超える」と豪語する生徒もいます(笑)。頼もしいし、かわいいですよね。
「東大20人合格」宣言の理由
──もっと成績を上げてほしいという親からの要望はないんですか。
渡邉 ないわけではありません。偏差値以外の価値観を持っていない親というのは少なくありません。それがいま現在の顧客ニーズであるならば、それには応えようと、私は「6年後には東大に20人合格させる」と宣言をしました。ただ、その一方で「子どもに必要なのは偏差値ではなく、夢であるということは、ことあるごとに保護者に話しています。夢を実現しようと考える子どもは必然的に学力が伸びます。自分の夢を実現するために東大に入る子ども、その結果としての20人です。逆に自分の夢には学歴は必要ないと考える子ども……、そういう自律的な人材を育てたいと考えています。
そのためには勉強だけでなく、クラブ活動や文化祭などにも積極的にチャレンジさせています。郁文館の文化祭はすごいですよ(笑)。資本金を持たせ、会社形態にしてB/S・P/Lを理解させる。そしてどの会社がいちばん利益を出せるかを競い合わせることにしました。そこまでやらせようとすると、どうしても時間が足りなくなる。ですから郁文館では土曜日も6時間授業にしようかと考えているところです。

- Miki Watanabe
1959年、神奈川県生まれ。明治大学商学部卒。84年「つぼ八」の店を買い取り、FC店オーナーとしてスタート。87年に現在の社名に変更。2008年1000店舗、2020年売上高1兆円を目標とする総合外食グループを目指す。2003年、中学校と高校を運営する郁文館学園理事長に就任。
──実現には、教師の意識やスキルという問題もあると思いますが。
渡邉 企業経営者の立場から見ますと、いまの教師には足りないものが多すぎますね。常識もなければ、仕事の組み立て方も知らないし、自分が理想とする授業像すら持っていない。もちろん熱心な先生もいますが、競争原理のない世界ですから、平均すればワタミフードサービスの4分の1程度しか働いていない、というのが私が理事長になる前の状況でした。ただ、彼らにも「このままではいけない」という危機意識はあるので、私の理念には賛同してくれています。
正直言うと、私の方針に合わなくて学校を去った教師も10人ほどいます。今年から教師の360度評価を開始しますが、これまで年功序列にぶらさがってきた人たちは「ついていけない」と考えたんでしょう。ただ、私はあくまでも「顧客である子どもの幸せ」という視点で改革を進めているので、こうした抵抗は仕方がないと覚悟しています。実は昨年、全教師に東大の受験問題を解かせようと思ったんですが、これは学校長の小林節先生(慶大教授)に少し早すぎると止められて、まだやっていません。私の感覚からすれば「自分ができないものをどうやって生徒に教えるんだ」と思うんです。
郁文館の改革はようやく軌道に乗り始めたばかりです。やっと今年から、私の理念に賛同して郁文館を選んだ生徒が新中学1年生となりました。まずは今年の新1年生が高校を卒業する6年後が楽しみで、さらにその先には我々企業の経営者が心から“欲しい”と思うような優れた人材、ユニークな人材が郁文館から輩出されることを期待しています。
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